第7話 狂気の悪魔
食事を終えたときには外はすっかり暗くなっていた。が、俺の部屋の中は本を読むのには十分な明るさが確保されている。
サキアの魔法により、小さな光球が10個程度この部屋の中をふわふわと飛んでいる。
……ちなみに、この光球の正体、サキアの脂、らしい。
本人曰く、「不要な脂分を抽出し燃料として光らせているのです」と言っていたが、いくらなんでも生々しすぎないか。
そんなえげつないことを平気でする彼女は食器を片付けに行っている。俺はその間にサキアに教えられた悪魔を「悪魔召喚大全」で調べているところだ。
「えぇと……エークエル、はどこだっと」
教えられた悪魔の名前は「エークエル・エェイエス」。エが多くで言い辛い。
どうやらジステイラの知り合いの悪魔らしい。変態の知り合いなのできっとこいつも変態なのだろう。
「エークエ……、あった!」
俺は求めていた悪魔の名前を発見した。
・エークエル・エェイエス
序列118位の悪魔。通称肉塊の悪魔。
殺した者の体の一部をもぎ取り自分の体に埋め込むことで成長し続ける悪魔。戦を好み、戦の噂を聞きつけると眷属を送り死体を集めるさせる。打ち捨てられた身寄りのない死体を処理すると伝えられる。浮浪者の中には彼をかたどったアクセサリーを身につけることで死後の保障とする者もいる。
悪魔召喚によりこちらの世界へ呼び出された際には巨大な腕の姿で現れる。腕の手のひらの部分に男の顔が付いている。
召喚された場合、肉体の一部を提示すればの持ち主を探し出し、召喚者が望むならばその場で殺す。または人を占うための技術を与える。使い魔を望んだ場合には、
魔方陣の上に召喚者の肉体の一部を置き、呪文を念じると召喚できる。肉体は量が多いほど成功しやすくなる。
「……」
とんでもないイロモノだ。変態を通り越してサイコパスじゃねーか。いや、悪魔に言う言葉ではないな。
エグい性格している割には警察犬みたいなことするんだな。というか占いがオマケみたいに書かれているぞ。本当に大丈夫なのか?
「ご主人様、入ってよろしいでしょうか?」
「あ、いいぞ」
ドアが開きサキアが帰ってきた。
「飯は食ったのか?」
「はい。もう済ませてあります」
「よし、俺も言われた悪魔を見つけたところだ。早速召喚するぞ」
「はい!」
不安しかないけどな!
俺は壁に貼ってあったポスターを剥がし、召喚のための魔方陣を描く。
すると、サキアが後ろから話しかけてきた。
「あの……ご主人様、少し気になることがあるのですが……」
「なんだ」
「その紙に描かれていた絵もそうなのですが、ご主人様の部屋にはメイドの絵が沢山ございますね」
「ブッ!」
思わず吹き出した。
「一体これは何なのだろうと思いまして……」
そこ聞いちゃうの?
「そ、そうだな……」
どうやってかわすべきか……。
「……いずれ話す」
「はい! すいません、失礼いたしました」
逃げる!
そんなこんなで魔方陣が完成した。
さて、あとはここに俺の肉体の一部を置けばいいらしい。
「なぁ、肉体の一部って、もしかして片腕よこせとかそんなもんじゃねぇだろうな?」
「いえ、髪の毛や爪でも召喚できますよ」
「そうか、良かった」
俺は適当に髪を掴み引っ張る。今日はやけに髪と縁があるな。
ブチッ
痛ぇ。
今髪を抜いたことをのちに後悔するようなことにならないのを願うばかりである。
俺は抜いた髪の束を魔方陣の中央に置く。
「さて、召喚だ」
「……はい」
サキアも緊張しているのか、ごくりと唾を飲む。
俺は、先ほどやったように頭の中で呪文を念じる。
すると、周囲の空気がぐるぐると渦巻き始めた。それと同時に魔方陣が光り始める。
「きましたよ……!」
サキアが呟く。
やがて俺の髪の毛が風に巻き上げられ、ふわりと浮き上がったその時だった。
『ウオオオォォォォォーーーッッ!!!』
「なッ!?」
「きゃっ!?」
魔方陣から巨大な腕が伸びたのだ。その腕は拳が天井スレスレの位置まで伸びたところで、止まった。
成功……したのか? 土色の握り拳が、ゆっくりと開きはじめる。
「我を呼んだのは……お前か?」
開いた手のひらにあったのは、いかつい男の顔。魔法書に書いてあった通りの容姿だ。
「はい。私はハルミと申します。この度は、あなた様に力をお借りしたく召喚した次第でございます」
「なるほど……ハルミか。不健康そうな体をしているな」
「はっ! まことに申し訳ありません!」
なんだこの悪魔。文句は言えないし事実なのだが、失礼なことを言うな。
「しかもなんだこの髪の毛は。このままだとお前の毛は10年もしないうちに抜け始めるぞ」
ハゲ宣告やめろ! 当たって欲しくないけど今から占い教えてもらう身としてはこの事実が辛すぎる!
「まぁいい。お前は我に望みがあるそうだが、それは何だ?」
「はい! 私に、占いを教えていただきたいのです」
「なるほど……占いか。珍しいな」
エークエルは腕(顔?)を傾け、親指以外の指を軽く丸める。恐らく、考え事するときに顎に当てる手の形だろう。そのポーズ、意味あるのか?
「いいだろう。それではまず、お前にこれをやろう」
エークエルはそう言うと、腕(顔?)をパチンと鳴らした。すると、俺の目の前に何かふにゃっとした物が落ちた。俺はそれを確認する。
「……手袋?」
間接くらいまで覆えそうな、少し長い手袋だった。
「そうだ。我の力を借りて占いをするならば、その手袋をはめて行え」
「はい!」
俺は手袋を拾う。……ん?
なんか、この手袋妙な触り心地だ。
「どうした? ……その手袋が気になるのか?」
俺は頷く。
「無理はないな。なぜならその手袋は人皮でできているからな」
「ギぃッ!!??」
俺は、ネズミの断末魔のような悲鳴を漏らした。
じじ、じじじじじ、人皮!?
「恐れる必要はないぞ。魔界の工房で腕の立つ者が作った品だ。血もついておらぬし毛も全て抜き毛穴を塞いである」
そ、そういう問題じゃねぇよ!
やっぱこいつとんでもなくヤバい奴だ!
サキア、とんだクレイジークソ悪魔を紹介してくれたな!
「それから占いに必要なのは、占いたい人間の情報を書いた紙だ。名前と、生まれた年月日と星、あとは最近気になることや心残りなこと、これらは最低限必要だ」
勝手に説明を進めるエークエル。
そんなことより俺は今手の中にあるおぞましいモノが気になって仕方がない。
「あとは肉体の一部だな。なるべく髪の毛……なければ他の毛でもいい。それを紙に貼り付け、ロウソクの火で燃やしその煙を吸えば占いの結果が出る。分かったな?」
「はっ……! はいっ!」
「よし、では我は返るとするか。また呼びたくなったならいつでも呼べ。我の腕は2000本あるからな! フハハハハハハ!!!」
エークエルは高笑いと共にしゅるしゅると魔方陣へと戻っていった。
「……やるしかないのかよ」
「ご、ご主人様……?」
サキアが心配したように話しかけてくる。
こいつを叱りたい気持ちもあったが、そんなことしても何も解決しないのでぐっと我慢した。
「だ、大丈夫だ。さぁ、明日からは忙しくなるぞ。早く寝て明日に備えろ!」
「はいっ!」
……やるしかないのか。
俺は、この世界が俺の常識を超えた遥かに超えているのだと感じ始めていた。
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