第5話 引きこもりの同居人

 使い魔メイド少女サキアは、元々は人間だったわけである。これは俺にとっては好都合だった。

 なぜならば、彼女はこの世界の仕組みについて知っているのである。今まで説明書を読んでいた俺だが、実際にこの世界に暮らしていた彼女に聞くほうがよっぽど早いのである。

 そんなわけで、俺はトイレと風呂の問題を解決した。

 そもそも魔法には必ず魔力媒体というものが必要で、それを消費することで使えるものらしい。今まで読んできた魔法書にも時々書かれていた。

 が、特に魔力媒体に指定のない魔法もいくつかある。それらの魔力媒体の多くは、使用者自身であるらしい。

 一般的に広まっているシステムの魔法は使用者自身を魔力媒体とする場合、生きていくための重要度の低いものから消費されていくらしいのだ。つまりは排泄物や垢である。

 ちょっと都合が良すぎるのではと俺も思ったがサキア曰く、


「現在広まっている魔法は構築者が様々な研究を重ねた結果完成した、利便性に富んだものなのです」


 ということらしい。ようは魔法も手軽に便利に使えるように色々研究されているわけだ。俺のいた世界でいうパソコンの進化に近いのかもしれない。

 魔術師は部屋に篭りきりになることも多いらしいので、食事と排泄の手間を省きたがるんだとか。

 というわけで俺が不安視していた問題も大分片付いた。もちろん全くトイレや風呂を使う必要がないわけではないらしいが、頻度が極端に減るならばこの部屋内で魔法の力で済ませてしまっていい。

 あとは食べ物か。数週間分の食料はあるしサキアは料理もできるだろうが、食材をどうやって調達するかも考えなくては。


「ご主人様、お屋敷のお掃除が終わりました!」


 サキアが扉を開けて入ってきた。


「ご苦労さん」


「ありがとうございます! あ、これ頼まれていたものです!」


 サキアが紙を差し出す。それに書かれていたのはこの家の概要だった。

 一階には玄関、客間、居間、台所、トイレ、2階には空き部屋が1つと俺の部屋。こじんまりした民家のようだ。


「この家、人が住めそうか?」


「はい、ところどころ古くなっていはいましたが問題はありません」


 なるほど。じゃあここに住んでいいようだな。


「なぁサキア」


「はい、何でしょうか?」


「お前、飯は食うのか?」


「私は使い魔なので魔力媒体を消費すれば必要はありませんが、普通に食事をしたほうが効率はいいかと思います」


「そうか、じゃあやっぱり食材の確保は重要だな」


「それならば私が調達しますよ? ご主人様がお屋敷から出られないのであれば」


「いや、問題はその調達の方法なんだ。今俺はある程度の金は持っている。しかし俺は金を稼ぐ手段を持っていない。どうにかして食費を捻出する必要がある」


 うーむ、と俺は頭を抱える。サキアも人差し指を顎に当て首をかしげ、考えるポーズを取る。


「あ、それならば!」


 と、サキアが言った。


「なんだ? 何か思いついたのか」


「私がお金を稼げばよいのです! 元は取るに足らない村娘でしたが、今では魔界の力を得た使い魔です! この町周辺のモンスターなら取るに足らないでしょう! 討伐の依頼を受けてそれでお金を稼げばよいのです!」


 ……え? いきなり何を言い出すんだこいつは。


「ま、待て。お前を働かせるわけにはいかん」


「ご心配いりません! こう見えても私、モンスターの討伐経験はありまして! 大きいものなら四つ首の化け熊を一人で屠ったこともあります!」


 なんでこんな饒舌になっているんだ。もしかして意外と戦闘狂だったりするのか。


「そういう問題じゃない。確かにお前は強いのかもしれんがメイドのお前があんまり外に出すぎるのもよくない」


「……そ、そうですね。過ぎた真似を、申し訳ありません」


 あと、異世界まできて人の金で生活するのはちょっと嫌なのもある。金くらいは自分で稼ぎたい。


「俺としては、自分の魔法で金を得ることができればいいのだが……」


 こう考えるとイットゥルに使い魔を貰ったほうが良かったのかもしれない。今となっては無駄なことだが。

 ……いや、待て。金と魔法……、相応しいのがあるんじゃないか?


「錬金術……!」


「ご主人様、どうななさいましたか?」


 そうだ、錬金術。金を作り出す魔法の代表格、きっとこの世界にもあるんじゃないか?


「なぁサキア。錬金術は知っているか?」


「は、はぁ。石を金に変えられるという魔法ですか?」


「そうだ。それを使って、金を稼ぐ、というのはどうだ」


「しかしご主人様。差し出がましいようですが、錬金術は、ちょっと無理があるのでは……」


 ……は?


「どういうことだ?」


「錬金術は古来から魔術師にとって重要な魔術だといわれています。ですが、鉱物を価値のあるものへ変化させる錬金は実用性は薄いと言われていまして……」


「な、なんだって……?」


 俺は「世界魔法大全」を取り、錬金術の項目を探す。それは6巻にあった。


――錬金術――

 ものの元素を操り性質を変える魔法。

 神代には既にその基礎となる理論が構築されていたと思われる資料が残っている。古来は薬学の一種と捉えられていたが、研究が進むにつれて全ての元素にまつわる魔法であるとされ一つの魔法学として独立した経緯がある。

 その研究と魔法の膨大さから、悪魔召喚や占いと並んで魔法の代表分野として挙げられる。

 魔術師の中でも錬金術を専門とするものは錬金術師と呼ばれ、彼らの目的は元素を自由に操る魔力媒体「賢者の石」の作成であることが多い。しかし歴史的に見てもこれを完成させたものは少ない。

 高価な鉱物を入手するために錬金術に手を染めるものも多いが、錬金術の魔法はどれも特殊な魔力媒体を必要とし対価と釣り合わないため推奨はしない。

 特殊な薬を作るためや、魔力媒体の不足を補うために使用されることが多い。


「くそっ……確かにこれは無理そうだ……」


 ようは、金塊1個作るのにダイヤモンドを大量に消費しなければならないとか、そういうことなんだろう。まぁ世の中そう上手くはいかないよな。


「どうすればいいんだ……」


 このままでは貧困に飢えて死んでしまう。


「あの、ご主人様……」


 サキアが心配したように話しかけてくる。


「なんだ」


「魔法で生計を立てるならばうってつけのものがあるのですが……」


「っ!? なんだ!? 部屋から出なくてもお金を儲ける方法が!」


「あります!」


 次は自信たっぷりに言った。

 本当にそんな夢のような方法があるのか?


「それは何だ?」


「占い、です!」


「占い?」


 占い……占い……、な、なるほど……!?


「魔術師の多くは近隣の住人からの依頼を受けることで生計を立てています。その中でも、自宅からあまり出ない者の多くは占いで報酬を得ているそうです。ご主人様ほどの魔法適正を持つ方ならば占いをするには十分でしょう」


「なるほど!」


 確かに、占いは盲点だった。なんか俺の住んでいた世界にもあるっちゃあるものなのでなんとなくファンタジー感が無くて意識の外にあった。


「よくやった、サキア!」


「ありがとうございます!」


「じゃあ今から勉強をしなければいかん! お前は夕飯を作って来い!」


「はい、分かりましたご主人様!」


 こうして、収入の目処は立った。

 俺の引きこもり生活は明るい!

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