第3話 使い魔が欲しい!

 「……うぅん」


 目が覚めた。

 特に夢も見ず、ぐっすりと眠っていたようだ。

 布団から這い出てカーテンを開ける。眩しい日の光に思わず目がくらんだ。今は何時だ?

 時計なんてあるのかと思ったが、時計はこの部屋と一緒にこちらの世界に送られていた。


「……12時か。お昼だな」


 この世界の時間の流れがどうなっているのかは分からないが、日の昇り方や窓の下を通る人の数からしてお昼時のようだ。


「まだ外の人にはバレてないようだな……」


 もうしばらくはここに篭っていても余裕だろう。

 そうなれば早めに体勢を整えなければ。次は何だ? 食料? トイレ?


「いや、違う。もっと先のことを考えなければ」


 この部屋に長期間引きこもるために絶対必要なもの、それは……、


「……養ってもらえる人」


 そう。引きこもりとは決して一人でできるようなものではない。部屋からなるべく出ないとなると、自分の世話をしてもらえる人は絶対必要だ。

 自分一人で生きていくことも考えたが、やはり限界はあるだろう。ここは人の手を借りるしかない。

 が、どうするか。俺はこの町に突如として現れたよそ者である。そんな人間を養ってくれるような人はいない。

 となるとすることは一つ。


「召喚する、しかないか」


 魔法が使えるのだ。ということは定番である召喚術も可能だろう。それで自分を養ってくれるような忠実な僕を作るのだ。

 それならやってみるしかない。まずは調べることからだ。

 俺は「世界魔法大全」の山を調べはじめる。「召喚魔法」については4巻目にあった。


――召喚魔法――

 この世界、あるいは魔界やその他の世界からものを自分の元へ召喚する魔法。高度な魔法の一つであり、運用するには綿密な準備を必要とする。違う世界から召喚を行うにはこの世界からのものよりも多くの魔力を必要とする。

 召喚魔法の起源は神代にまで遡り、神と魔族の対立の原因でもある。歴史に名を残す英雄の中には異世界から召喚されたものも多くいる。

 使用するために多くの過程を必要とし、召喚による影響も大きいため個人での使用は憚られる。


 うーむ。中々難しそうだ。しかも、召喚するといっても0から生み出すわけではないようで、これだと人を呼び出しても自分を養ってくれる保障は無い。

 俺はさらに読み進める。


・生物の召喚

 召喚魔法の中でも高度な技術を要する。失敗した場合、召喚対象を死に至らしめるだけではなく条件が悪ければ魔物と化す。

 紙に指定の魔方陣(巻末資料153ページ)を描く。この魔方陣はこの世界全体を表している。召喚対象のいる地域にあたる部分に右の魔方陣を置き、中央の空白部分に対象についての情報を記入する。情報が詳しいほど成功率は上がる。

 大きいほうの魔方陣の周囲に描かれた円の中に、召喚対象に合わせた魔力媒体を配置する。場所に指定は無い。召喚対象と魔力媒体の対応表は巻末資料200ページから500ページに記載。

 最後に魔術適正のある者を最低3人以上集める(魔術適正が極めて高い者ならば1人でも可能)。集めた者を魔方陣の周囲に立たせ、右の呪文を念じれば召喚することができる。

 本書ではこの世界からの召喚、それも簡単なものだけ記述している。高度な召喚や異世界からの召喚は世界へ多大なる悪影響を与えるとされ現在は限られたで場合のみ使用される秘術とされている。

 召喚魔法の全容を記した書物には大月暦1200年に書かれたマークリッド・マクセウス著『召喚術と異世界論』が存在する。レーゼル王立図書館禁書庫に所蔵。


 ……これは参った。思った以上に難しそうな上、3人以上の人間が必要らしい。そもそも召喚対象はあらかじめ誰なのか分かっている必要があるとは。

 がっくりとうなだれる俺。しかし、その下に書かれていた項目に目が留まった。


・悪魔召喚

 魔界から悪魔を召喚する。悪魔とは魔界に住み人を堕落させる存在である。

 悪魔の召喚は古来から魔術師の間では必需魔法とされてきた。ただし過度な使用は召喚者の堕落と世界への悪影響を引き起こすため、これを禁止する国も多い。

 悪魔がこちらの世界に出現するためには限られた場所に決まった時間に開くゲートに侵入するか召喚してもらうしかない為、呼び出された際は召喚者に対して友好的なものも多い。

 召喚した悪魔は召喚者に対し知識や物品、使い魔などを与える。短所としては悪魔を召喚した者は神聖属性の魔法の恩恵を得られなくなる。

 召喚の方法は、召喚したい悪魔に対応した魔方陣、魔力媒体、呪文を用意する。魔方陣の中央に魔力媒体を置き呪文を唱えると対応した悪魔を召喚することができる。悪魔によっては特殊な召喚方法が必要。使用者の魔術適正が低い、神の加護を受けている等の場合は失敗することもある。失敗すると対応した悪魔の眷属が呼び出され、召喚者を攻撃することもある。

 召喚できる悪魔と対応した召喚方法については巻末資料580ページから700ページに記載。ただし悪魔召喚は魔術の中でも莫大な資料を有する分野である。本書はその中で実用性が高くよく召喚されるものを抜粋して掲載している。

 悪魔召喚専門の文献にはセントニウス・オウル著『悪魔召喚』が存在するがこれは禁書であり入手は難しい。マスレイドン著『悪魔召喚大全』は危険な悪魔を除いた悪魔召喚専門の魔術書であり、多くの魔術師は一般的にこちらを使用している。


 この長い項目を読んだとき、俺の目に入ったのは「使い魔」という言葉だった。そうだ、使い魔だ。ご主人様に忠実な使い魔を呼び出して、そいつに養ってもらえばいいのだ。

 となるとその使い魔を呼び出す方法が必要だ。悪魔に使い魔をもらうという方法もあるがそれは最終手段にしよう。あんまり頼りたくは無い。

 俺は再び魔法書を漁り始めた。


「……あった!」


 『世界魔法大全-6-』の中に使い魔の項目があった。


――使い魔――

 魔術師に使え補佐を行う存在。主人の為ならばどんな命令でも聞く。神のような上位存在を除く自立的に行動するもの全てを使い魔として使役できると言われている。

 単純な主従関係やペット、支配魔法等によって使役するものとの決定的な違いは自らの意思を持ちながら最終的な決定権は主人にあるという点である。また使い魔は主人の魔法の恩恵を受けやすいという性質も持つ。

 使い魔を入手する方法はいくつか存在し、使い魔によって異なる。


 この項目に入手方法が書いてあるようだ。


・使役魔法の使用

 使役魔法によって対象を使い魔にする方法。この魔法をかけられたものは使い魔として主人に使えることになる。

 使役魔法は操作魔法の中でも最上位に位置する魔法であり、それだけにこの魔法を解くためには上位存在による改変を必要とする。

 ただし失敗する可能性も高く、対象の知能と魔術耐性が高いほど成功しにくい。当然だが非生物には無効。

 右の魔方陣を描き、その上に対象を置き右の呪文を念じると対象を使役することができる。ただし使用時に多くの魔力を消費するためマギナイト鉱石20g相当の魔力媒体が必要となる。


・使い魔を生成する

 1から使い魔を生成する方法。基本的には鉱石や道具のような非生物に命を与えそれを使い魔として使役することとなる。そのため創造魔法の一種でもある(創造魔法については本書13巻に記載)。

 対象となるものを用意する必要はないが、動物のような創造難度の高いものを使い魔とする場合は上記の使役魔法よりも可能性は低くなる。失敗した場合は「アリスト」(不定形な出来損ないの生物)となって生まれてしまうので注意が必要。

 非生物系の使い魔はあまり頭が良くないので使用状況は限定的。

 右の魔方陣を描き、その上に希望する使い魔を描いた紙を置く。そして右の呪文を念じると紙に描いた特徴を持つ使い魔を得ることができる。使い魔の特徴をより細かく指定する場合は本書1巻の巻末資料200ページから1000ページを参考に描くこと。


・死体から使い魔を生成する

 死んだ生物を利用して使い魔を生成する方法。最も使用されている方法である。

 黄泉から再び魂を呼び戻し、新たに使い魔としての特性を与えた上で復活させる。蘇生術の一環であり、特徴も類似している。

 魂を利用しているため、死後長期間経過した死体の場合は記憶や知識が欠如したり最悪の場合アンデッドとして復活してしまう。また、悪魔と契約している、神の加護を受けている等魂が他のものに所有されている場合は失敗する。

 右の魔方陣を描き、中央に対象の死体を置く。その後対象の体全体に満遍なく水を撒く。そして右の呪文を念じると対象が復活し使い魔となる。


・悪魔から入手する

 悪魔を召喚し、眷属を使い魔として授かる方法。

 悪魔によって眷属の種族は違うため欲しい使い魔を持つ悪魔が危険な悪魔の場合は使用しないことを推奨する。入手できる使い魔は当然魔界に住む魔物のため、人間や神聖な動物は入手できない。

 悪魔の召喚については本書4巻に記載。


「おいおい、思ったより厳しくないか……これ」


 上二つの方法は難易度が高いと言われていて、3つ目の方法は死体が必要らしい。いや、一番上の方法も対象になる生物が必要と言われている。

 今入手できる生物またはその死体はせいぜい虫やネズミ程度のものだろう。そんなもの使い魔にしても役に立たない。1から使い魔を生み出すにしても生物を作るのは難しく何やら失敗するリスクもあるらしい。当然非生物を使い魔にする気も無い。

 となると……、


「やはり、悪魔か……」


 頼りたくはないがここは悪魔を召喚するしかない。

 よく考えれば俺は既に悪魔に会っていて魂を賭け金にされているのだ。今更だ。


「えぇと、確か悪魔召喚には専門の本があるんだっけ? それはここにあるのか?」


 俺は本の山をかき分ける。


「……あった。これか」


 「悪魔召喚大全」。先ほど魔法書で読んだ、危険でない悪魔の召喚方法を集めた本だそうだ。

 早速俺はこれを読むことにした。


・アーグ・ロウエイ

 神代から存在しているとされる悪魔の一種。序列15位の高等悪魔である。悪い噂や陰口を司り彼の手に堕ちた町は不和が蔓延りやがて崩壊する。

 醜悪な犬の顔を5つ持ち、そのどれもが罵詈雑言を吐く。右手に持った剣は強固な城壁をも切り裂くとされる。

 召喚者したものに敵対するものの悪い噂を流布することができる。使い魔を願った場合は口の悪いカラスや黒犬を与える。常に悪態交じりで話すため意思の疎通が難しい。

 魔方陣に彼の悪口を書いた生物の肉を捧げ、呪文を念じると召喚できる。


 こんな風に悪魔の説明と魔方陣がずらりと書かれている。

 俺はその中から、なるべく人型で頭の良さそうな使い魔をくれる悪魔を探すことにした。

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