第10話

わしの名はリュディウス。そなたは?」


「ファルラといいます」


「ファルラか。いい名じゃのぅ」


 紅茶を台車に乗せ、ユーリがやってくる。


 その香りが鼻孔を強く刺激すると、ファルラの腹は大きな音を立てた。


「すみません」


「気にすることはない。なぁ、ユーリ」


 ユーリはテーブルの上に紅茶のみならず、パン、果物、肉料理、サラダなど、色とりどりの料理を並べていく。


「遠慮せずに食べなされ。ファルラ殿」


「いただきます」


 半日近く、何も口にしていなかったファルラは次々に口へと運んでいく。


「食べている間、老人のたわごとを聴いてくれんかのぅ」


 リュディウスの話は、かつて教会の一信徒であるところから始まった。


 彼のいた地方の農村。そこはやせた土地で、あまりに貧しかった。


 神学校で少しばかり勉強の出来た彼は、推薦をうけ、神職となるべく上京した。


 しかし、そこは秀才、エリートの巣窟であった。


 足の引っ張り合いや妨害なんぞ茶飯事。中には教義の禁忌を平然と犯すものもあらわれたが、舌を巻くほどこうかつなやり口でしていく。


 そんな環境になじめなかったリュディウスは、神職を諦め、僧兵として教会に尽くすことを決める。


 僧兵として幾ばくかの年月が流れ、ある日、身ごもった女性を助ける。


 美しい女性だった。初恋だった。


 だが、出産の際、彼女は命を落としてしまう。


 そうして残されたのが、ユーリだった。


 血のつながりはない。しかし、リュディウスは自らの娘として育て上げた。


 彼女の生き写しのように美しく成長したユーリ。学業で才覚を現しただけでなく、片手間で教えた剣術すらこなし、男を蹴散らすまでになっていた。


 自慢の娘だった。

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