第9話

 長い廊下を抜けるとソファーがあり、初老の男が本を読んでいた。髪はほとんどなく、わずかに白いものが残るのみであった。


 ファルラたちの姿を認めた男は単眼鏡を外し、語りかけてくる。


「おお、来たか。座りなされ」


「服がれているのですが……」


「構わん」


 ファルラがまごついていると、ユーリが異常なまでに鋭い目つきでファルラを凝視してくる。ファルラは腰を降ろす。


「さぁ、天使さんも」


「マスター?」


「座っていいってさ」


「イエス、マスター」


 ファルラのすぐ横、肩を寄せながら座るリサ。


「好かれておるのぅ」


 まるで子猫のように擦り寄るリサの様子を見て、満足そうにゆっくりとうなずく。


「いや、そんなことは……」


「長い間、いくつもの天使エンジェルを見たが、そんなに懐いているのは見たことがないのぅ」


 ファルラはあらためてリサを見る。無表情だ。しかし、本来警戒すべき男やユーリでなく、まっすぐファルラのほうを見ていた。


「ユーリよ、客人に茶を用立ててくれのぅ」


「承知イタシマシタ」


 ユーリはすーっと家の奥へと消えていく。


わしの天使じゃ、そして」


 男は一呼吸置いて。


わしの娘じゃ。正確に言えば『じゃった』だがな」

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