第8話

 それからすぐにファルラたちは一軒の家を見つけた。

 それは、人里離れた場所にしてはひどく不釣り合いなほどの大きさを誇ってはいたが、いっぽうで装飾のない質素なものであった。

 いつものファルラならば、リサの探索能力のみならず、自らも細心の注意を払って下調べをしてから近付くべきところであるが、今回ばかりは違った。

 ひとまず玄関の軒先に入るなり、荷物から布きれを取りだし、顔を拭き始める。

 リサの探知能力に何度も助けられてきたファルラ。そして、それ以上に……。

いとおしきリサ」

 眠らないはずの天使が、まるで眠るように瞳を閉じる。

 無防備な姿をさらすリサ。

 ファルラは顔を赤らめつつも、翼のしずくをぬぐった。

「ドナタデスカ」

 抑揚のない、天使特有のなまりと言うべき言葉が突然に投げかけられる。

 ファルラは息をむ。扉のほうに向き直ると、そこには金髪の女性がいた。

 ファルラほどではないにしろ背は高く、淡い水色のドレスには豊かな胸元がこぼれんばかりに収められていた。

 しかし、その表情はうつろで、生きた人形のごとく不気味ですらあった。

「天使」

 リサが小さくつぶやく。

 翼はない。

 しかしファルラにも、彼女が天使であることは疑いようもなかった。

「我、ユーリ。主人マスターガ呼ンデマス」

 ファルラ腰の剣に手を添える。しかし、殺気を一切もたない天使に抜刀はためらわれた。

 リサは、時折翼をばたつかせて水分を振り払うのみで、戦闘態勢はとっていなかった。

「失礼します」

 ファルラは剣から手を離し、ユーリに続いて扉をくぐる。リサがあとに続く。

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