第5話

 荒くれの男は逃げた。


 仲間ふたりがやられた。


 敵は空からやってきた。もう尋常じゃない、と。


 そうだ、これは悪夢だと。


 それでも必死に、どこへとも分からず走る。


 とにかく、あの惨状から少しでも遠くへ。


 目線の先にあかりが見える。


 ああ、俺は助かったのかと。


 近付いて見ると、それは少女だった。


 しかも、マブい。


 脅して金品を取ろうか。犯してやろうか。人質にして、あの悪魔を追い落とそうか。


 手には獲物。やることは一つだ。


 しかし……。


「危機感知。手出シ出来ナイ」


 男には、もっと危険な翼は目に入ってなかったようだ。


消去ディ・レイ・ト


 リサが短くつぶやくと、彼女の前には何もなかった。草も、街道を示す縁石も何もかも、だ。そこには球状にえぐられた大地が広がっていた。天使は音もなく羽ばたき、主人の下へと向かった。

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