第4話

 リサの羽音が消え、滑空状態に入ると、ファルラは閉じていた目を開いた。


 眼下に広がる暗闇。


 天空に広がる無数の星々。


 赤みを帯びた月の方向へ迷うことなく飛んでいく。


 空を飛ぶ。怖いと言えば、怖い。それでも視覚が大きく制限されているだけファル

ラにとって夜のほうがマシだった。


「※@♯+¥%=♭」


 絶対に手を出すなよ。ファルラは言おうとしたが、リサが羽ばたくのを鎮めてなお、強烈な風が正面から吹き付け、言葉を遮る。


「イエス・マスター」


 背中に当たるリサの胸を通じて、言葉が届けられる。


 やがて、暗闇に覆われた大地に一点のあかりが認められる。リサは緩やかに速度と高度を落としつつ、そのあかりへと近付いていく。


 こうこうあかりを放つそれは、馬車につるされていた。御者の男のまわりを、荒くれものが取り囲んでいた。その数、三。


 ノッポ、チビ、デブ。


 だがやつらには、敵が空から舞い降りるなどということは露とも考えてはいなかっただろう。


 ファルラは空中でリサの腕をふりほどくと、ノッポの頭めがけて蹴りを入れる。鼻の頭と顎が鈍い悲鳴を上げる。


「な、なんだ?」


「あっ、アニキ!」


 もんぜつしながらノッポが倒れる。突然の奇襲で混乱する荒くれども。


 ファルラは地に足を着けるやいなや、デブに向かって迫る。


 もはや戦意を喪失した敵に武器など必要がなかった。


 拳を鳩尾みぞおちたたむと、相手は抵抗もなく倒れ込む。


「残りは一人か?」


「うわあぁぁぁ」


 ほうほうの体で逃げ出す荒くれのチビ。


「忘れ物だぞ」


 脅しに使っていた短刀をやつの真横ギリギリの位置にとうてきすると、地に刺さったそれを引き抜いて逃げ去っていく。


 襲われていた馬車も、もうその場にはいなかった。


「恩を売って乗せてもらおうと思ったのだが、まぁいいか」


 リサも少し遠くまで飛んでしまったようで、姿が見えない。


 伸びた二人の男を尻目にファルラは歩き出した。逃げた男のほうに行くのはしやくなので、逆へ。リサもそのうち飛んででも追いついてくるだろう。


 そんなことを考えながら、ファルラは再び闇の中へと消えていった。

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