第3話

 幼少期から美少女司祭として近隣に知れ渡っていたリサが天使となり、余計に目立つゆえ、ファルラたちはもっぱら日暮れに行動していた。


 無用なトラブルを避けるため。


 教会からの追っ手を避けるため。


 街道を避け、獣道をゆく。それでも迷わず進めるのは天使の力のたまものであった。方角、行き先、障害の有無を正確に言い当て、ファルラをナビゲートする。


 もちろん、ファルラのきようじんな体力があっての話だが。


 背を優に超える雑草を剣でなぎ倒しながら、月と星とリサというわずかな明かりを頼りに進んでいく。


 突然、ファルラの腕をリサが引く。


「なんだ?」


 さっきまでファルラのいたところ、そこに一抱えもある岩が落石していたのであった。


「助かったよ」


「当然」


 少し勝ち誇っている?


 いや、天使ゆえにありえないか。


 感情を失ったリサは淡々と言葉を進める。


「現在、計画ヨリ一時ノ遅レ。目標地点ニ夜明ケマデに到達不可」


「別にいいさ」


 目的があっても目的地のない旅である。日中、リサの姿を隠しておける場所さえ見

つけられればそれでよかった。


「了承」


 そう口にすると、リサはようやく手を離す。


 一息つこうと、ファルラは腰を下ろした。


「ところで、さっきの山賊の件はどうなった?」


「街道デ仲間ト合流シ、現在移動ヲ停止……」


 ファルラは血相を変える。


「仲間じゃない! 旅人を襲っているんだ!!」


「認識プログラム変更。仲間デナク旅人ヲ襲撃」


「助けに行くぞ!」


「命令、受諾」


 リサはそう言葉を発するなり、音もなくファルラの背に回り込むなり、腕を絡ませる。


「マスター、心拍、異常」


「そりゃ、そうだろ。リサの胸が……」


 リサの背の翼が羽ばたき始めると、爆音が彼の言葉をす。そのまま、彼らは空へと旅立っていった。

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