感情の研究 -理想-

夢蒟蒻

感情の研究 -理想-

博士は喜んだ。 

ついに研究が実り、人の感情の正体を明らかにすることに成功したのだ。 



研究は苦難ばかりで、「感情」と一つに括ることはとてもじゃないが出来ない、そんな複雑な処理パターンの連続だった。 

『こんなの、外の現象の把握の方がよっぽど簡単じゃないか』 

それが博士の成功の鍵だった。 


それから、感情の正体を明確にするために、それに纏わる現象を洗い出した。 

脳以外全てを把握することで脳を理解する、そんなアプローチを続け、ついに、感情の正体を明らかにしたのだ。 



とはいえ、まだ洗い出された現象は博士本人に関わるものだけ。一先ず自分の感情についての正体がわかっただけ。 



しかし、博士の研究はこれで最後になる。 



彼は明らかにした感情の正体を、つまり偽物の事実の記憶を、自分に植え付け、理想の感情を手に入れたのだ。 




彼は、満たされた。 


自分が長い間研究してきたという事実を手に入れ、彼は満足した。 


彼の研究は終わる。 





この研究に成功し、満足した人はこれで137人目だ。

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感情の研究 -理想- 夢蒟蒻 @yume-kon-nyaku

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