第2話 では、ごきげんよう
神であるハナミは誠一の目的に呆れていた。
なんせ、今流行りの俺TUEEEでもハーレム作るでもなく、料理を広めるとは。予想外な人だ。
だが、理由があれだが誠一さんの承認も取れたので、考えが変わる前に自分の業務を進めることにした。
私は紙とペンを取り出して、誠一さんに渡し、説明を始める。
「では、これに5つの欲しい力、または希望することを書いてください。記入したものに最も近い能力・特徴をあなたのイメージを元にしてカタログ内から検索し、あなたに与えます。」
「与えられた能力には何か問題は無いのか?例えば自分の能力で攻撃する際、余波で死んでしまうとか」
「大丈夫です。先ほど挙げられた例だと、衝撃に耐えられるように体が構成されます。このように作用と言いますか、能力に合わせて肉体改造されるので大丈夫です。あと、ガルテアの言語は自動翻訳するようになっています」
「肉体改造って、他に言い方あるだろう・・・まあ、いいけど」
「とにかく、能力を得たあとは20歳ほどの体で異世界に転生されます。転生後のために身分証明書を渡しますので安心してください」
「前世の記憶はどうなるんだ?」
「今回のような転生ですと、知識を所持したままで大丈夫ですね」
「そうか、それは良かった。あっちは科学とか発展してるか?」
「いえ、科学という概念自体ありません。その代わりに魔法が発達しています」
「なるほどね。・・・ほい、希望書いといたぞ」
「早っ!もっと考えなくていいんですか?」
「いいよ、それ以外希望ないし」
他の人なら、勿体なくて決めるのを躊躇ためらうのに。
無欲だな、この人。
まあ、いいか。
とにかく、希望通りのやつを調べよう。
検索するために、誠一さんが記入した紙に目を向けた。
1、どんな食材でも調理できる身体的な力。年取っても大丈夫なように。
2、料理のために様々な魔法を使えるように。ミキサー、電子レンジなどの代わり。
3、包丁・鍋などの調理器具を作れる能力。
4、幸運。いい食材に出会えるように。
5、ちょいと長生き。料理を布教するために。
・・・ここまで料理に偏った人は初めてだった。
この人、無欲じゃなくて、唯ひとつの欲望料理に愚直なまでに忠実なだけなんだ。
賞賛半分呆れ半分になりながらも、早速、候補を探す。
幸運は・・・だいたい同じだし、コレで良いか。
それにしても、アバウトな希望のせいでヒット件数多いなあ。
うわっ、36億件とか多すぎ、候補ありすぎでしょ。
面倒くさいなあ・・・・・・適当にやっちゃえ♪
アレにコレとソレでと、寿命はこんぐらいで良しと。
1,2,3は目つぶって適当だけど誠一さんの希望に添ってるはずだから大丈夫だよね。
一仕事終わり、額の汗を拭うフリをして、欠伸をしている誠一さんに声をかけた。
「用意が完了しました。これより転生を開始します」
「おう、ありがとな。そうだ、神様って人間の飯食えるのか?」
不意に誠一さんが変な事を聞いてきた。
質問の意図が分からないが、答えを返す。
「食べれますけど?どうしてそんなことを」
「感謝の気持ちに、あっち着いたら神棚にでもお供えしようと思って」
「・・・」
「だから、供え物あったら勝手に食っちゃといてくれ」
「・・・誠一さん」
「ん?何」
「あなたの人生に幸あることを祈っております」
「・・・神様が祈るっておかしくね」
「揚げ足取らないでください!」
せっかく別れの言葉を言ったのに、まったくこの人は空気読まないで。
もうさっさと送っちゃえ。
不機嫌になりながらも転生の準備を済ませるハナミ。
準備もほぼ終わり、あとはボタンを押すだけである。
その時、誠一さんが私の方を向き、笑顔で言った。
「じゃあな、ハナミ様。運が良ければ、また会おう」
「・・・さようならです」
最後に言葉を交え、誠一さんは新しい世界へと飛び立った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
白い空間に一人だけ佇むハナミ。
ハナミは先ほど旅立った人間について考えていた。
最後まで変な人でしたが、悪い人ではありませんでしたね。
「それにしても、『また会おう』か・・・」
そんなの滅多なことじゃ有り得ないのに、それこそ誠一さんが死んであの世に来ない限りは。
「でも―――」
一言つぶやき、クスッと微かに笑う。
「あの人なら、常識を捻じ曲げて会いに来そうだな」
私は微笑を浮かべ、鼻歌交りに業務に戻るのだった。
「あ、転生する場所設定するの忘れてた」
誠一を送ってから数分後、自分の失態を思い出すハナミ。
最後まで残念な子であるハナミだった。
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