第2話 じいちゃんと将棋

じいちゃんは将棋が大好きだった。

幼い私と兄はルールなんて何一つわからなかったけど、



「じーちゃん、しょーぎしよ!」




そう言えば、いつも嬉しそうに笑ってた。

その笑顔が見たくて、じいちゃんの家に行けば将棋をするのがいつしか日課になった。





「ぼく、”回りんこ”したい!」

「いやや!きょうは”やまくずし”すんねん!」


「せやなー。昨日は回りんこしたから、今日は山崩ししよかー」





回り将棋と山崩しは、幼い私たちでも楽しめるようにじいちゃんが教えてくれた。

どんなにズルしても笑って見ない振りをしてくれて、いつもべべだったじいちゃん。




「まいりましたー。マサとユウは本間に将棋強いなー」

「じーちゃんがよわいんや!」

「ユウ、ズルしとったやん」

「してないもーん!」


「よっしゃ、今日はじいちゃんに勝ったからお菓子一つ買おたろ!」

「やったー!!マサおかしやって!」

「ぼく、チョコがええ!」




スーパーに行ってお菓子を買ってもらった帰り道、兄がじいちゃんを見上げた。




「なあー、じーちゃん。ぼく、むずかしいしょうぎしたい。」

「おー、マサは難しい方の将棋したいんか。」

「やって、回りんこもやまくずしもユウがズルするやん?」

「してないもん!」

「せやから、じーちゃんたのしないやろ?ぼくがむずかしいやつおぼえて、じーちゃんたのしませたる!」




兄はチョコを片手に満面の笑みを向けた。

じいちゃんは少し驚いたように兄を見て、すぐに笑ってその小さい頭を撫でた。




「ほんなら、ちょっとずつ難しいのやってみよか」

「うん!おぼえてな、じーちゃんにホンマにまいりましたーって言わせんねん!」




夕焼けに照らされながら優しく笑ったじいちゃんはきっと、いつか兄に負かされる日が来るのを楽しみにしていたんだろうなと今になってはそう思う。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る