第3話
「スカウトって何だよ。ってか、まず現状を説明してくれ。急展開過ぎてついていけないんだが」
俺は謎の青年――
いきなりスカウトとか魔想派とか、一般人の俺にとってはただ混乱を招くだけのことでしかない。
一般人だった、というのが正しいかもしれないが。俺は普通とは到底言えないような出来事に、巻き込まれたのだから。
「あぁ、すまない。そういえばキミは今、目を覚ましたばかりだったね。まずは説明をした方がよかったか」
変なところで抜けているのか、この人は。
説明してもらえるならいいが、少し抜けているイケメンとかどこのアニメのキャラだ。お前の属性少し分けろ。いや、分けてくださいお願いします。多分そんな属性が俺に加わったら、きっと人生が楽しくなるに違いない……たぶん。
「そうだな……どこから説明したものか」
「まずは今の世界の実情について説明した方がいいんじゃないですか?全くの一般人のようですし」
「……そうだな、それがいい。それじゃあまず、俺達が住んでいる裏の世界について話をしよう」
アリスのフォローが入り、裏の世界についての話が始まる。
悪いやつじゃないんだろうが、絶対にどこかで逆恨みされてるだろう。主に女性にモテない輩に。
「まず、キミ達が住んでいる世界は表の世界だ。戦いなどとは関係がない、平和な世界。最も、一部の人間がテロや犯罪を犯すこともあるけど、裏の世界程ではないんだ」
霧斗は笑顔で恐ろしいことを口走る。笑顔で言っている分、余計に怖い。
この男は、俺を怖がらせたいのだろうか。
「まってくれ、裏の世界はそんなに恐ろしいところなのか?」
「八割正解で二割不正解って言ったところかな。別に裏の世界で犯罪が多発している訳では無いんだ。だけど、派閥同士の戦争が長年続いていて、いつ命を失ってもおかしくない程危険なんだ」
どこが二割不正解なんだ。二割どころか一割すら不正解のところが見当たらない。危険すぎて本当に洒落になってない。
霧斗は俺の事を無駄死にさせたいらしい。今のまま魔想派とやらに入ったとしても的に瞬殺されて終わりだろ。
「……あぁ、ごめん。説明不足だった。非戦闘員は基本的に命の危険はないんだ。ただ、その分前線で戦っている人間の死亡率が高いというだけで」
全くフォローになっていない。
わざわざスカウトに来るってことは、恐らくは前線で戦う人間を増やすためだろう。さっきの口ぶりだと、非戦闘員が不足しているようには思えない。だとすると、前線で戦う可能性が高い。
つまり、死刑宣告を出されているのに等しい。
「まぁ、もちろんキミは最前線で戦ってもらうことになるけどね。キミには最前線で戦えるだけの素質がある」
勝手に俺に素質があると見込まないでくれ。俺はまだ死にたくない。最も、冴姫のいる所に確実に行けるのなら、死んでもいいとは思うが。
「聞いてるだけだとリスクしか無いんだが。素質と言っても、どうせあってもなくても変わらないようなものだろ?そんな素質があったら、まず俺はこんな状態になってないだろ」
「いや、それは違う。キミは素質を持っているから生きているんだ。普通ならあの槍に貫かれた時点で人間は死ぬんだ」
怪訝な表情を浮かべながらいう俺に対し、霧斗は俺の意見を真正面から否定する。
そんな素質なんかなければ、今頃は冴姫のところに行けたのかもしれないな。……悲観的になったらダメか。冴姫が悲しむ。
「まず、順を追って説明するよ。その世界には主に二つの力が存在するんだ。一つは精霊と契約することによって手に入れることができる、精霊の力。俺達はこの力を
精霊の力――もとい、霊力強すぎないか。そんな力を持ってるやつがごろごろいる中で生きていけるのか。この俺が?かなりの確率で無理だろ。
「霊力自体はキミにも持たせるつもりだ。流石に霊力を持っている相手に生身の状態で挑むのは、無謀なことだからね。最も、キミには霊力さえも意味を成さないほどのポテンシャルを秘めているんだけどね」
どんだけ俺の潜在能力は高いんだ。
もしかしたら潜在能力だけで周囲を吹き飛ばすことが出来るんじゃないか?
もしできたとしても、するつもりは無いけどな。
「話を元に戻そうか。精霊の力は確かに強力だけど、その力に対して対抗する手段がないわけじゃないんだ。それがもう一つの力である
精霊の次は神ときたか。
随分と大層な名前が出てきたな。カミノウツワだなんて、人間は神だと言いたいのだろうか。
「神器というのは精霊の力のように、他者から渡されるものじゃないんだ。一部の人間が生まれつき宿している奇跡のようなものなんだ。こっちの世界の人は神に授けられた最強の力という程、その力は強力なんだ。一般人が知っているような名の知れた偉人……それも、本当に一部のエリートは持っていたと言われているよ。例えば、ナポレオンやジャンヌダルクは確実に持っていたとされているよ」
流石にナポレオンやジャンヌダルクくらいは俺でも知っている程有名な英雄だ。そんな人物と同じ力を持っているかもしれない俺って、案外凄いのかもしれないな。
「そんな力を持つかもしれないキミが、俺の組織に入ってくれたら百人力だ。もちろん、戦闘訓練や生活の保証、ある程度の資金援助くらいはできる」
企業としてならかなりいい待遇かもしれないな。生活や金の保証、そして戦闘訓練までしてくれるならほぼ食いっぱぐれることは無い。
まぁ、その分命をはらなきゃいけないが。
命をはる時点でブラック企業とも言えなくはないか。いや、普通ならいうか。どうにも自分の命を軽く考えてしまうな。今に始まったことじゃないが。
「それに、この話はキミにとって悪くは無いと思うよ。……キミが会いたがっている冴姫という女性にも会える可能性が高い。いや、確実に会える」
霧斗の言葉を聞いた瞬間、俺の心臓がドクンッと高鳴った。
今、
「おいっ!なんでお前が冴姫のこと……って、そっちじゃない!俺が冴姫に会えるって一体どういうことだ!?」
俺は霧斗の胸ぐらを掴み、鬼のような形相を浮かべながら問う。
俺自身が死んだと知っている人間とどうやって会うと言うんだ。俺が死ねば会えるとでも言いたいのか?ならとっくに俺は自殺している。そんなことをしても会えないとわかっているから、こうして仕方なく生きているんだろうが。
「キミは、人間が死んだ後にどうなると思う?あの世へ逝くか、幽霊になるか。だいたいそんなところだろう」
「それが冴姫と会うこととどう関係があるんだ」
「まだわからないのか。人間は死後に精霊になるんだ。もし、こちら側に来てくれたら、精霊との契約は絶対にしてもらう。後は……わかるな?」
人は死ぬと精霊になるだと?もしそうだとしても、契約をする時に会えるかどうかなんてわからない。むしろ、会えない確率の方が圧倒的に高いだろ。
「精霊との契約時に会える可能性が高いって言いたいのか?それはおかしいだろ。冴姫が精霊になっていたとしたら可能性はゼロじゃないだろうが、精霊なんて無数にいるもんじゃないのか?」
「確かに精霊の数は無数とも言えるほどいる。だけど、精霊の召喚方法の仕組み上、確実に冴姫という女性が召喚させる可能性が高い。精霊を召喚する時に使われるのはキミの思いなんだ。キミが一番会いたいと思う人や、好きだと思っている人が必然的に召喚される。つまり、今キミが会いたい人物――すなわち、冴姫という女性が召喚されるわけだ」
霧斗の言葉を聞き、俺は霧斗の胸ぐらから手を離す。
ははっ、魔想派に行けば確実に冴姫に会うことができるのか。そんなこと言われたら、魔想派に入る以外の選択肢があってないようなものになる。
「あぁ、たぶんキミが疑問に思っているであろうことについて答えさせてもらうよ。俺が冴姫という女性を知っているのはキミの身の回りで起きたことを調べたからだ。ある程度は調べておかないと、仲間に迎え入れようにも迎えられないからね」
こいつストーカーか。
たしかに、俺を仲間に迎え入れる上で俺の身の上を調べるのは当たり前だ。だが、俺が好きなやつまで調べる必要はあったのだろうか。
霧斗は、俺の中で変態認定しておこう。悪気はない訳では無いが、これくらいは許されるだろう。
「はぁ……分かった。魔想派に入るよ。ただし、俺を冴姫に絶対に会わせるってことが条件だ。それくらいはいいだろ?」
「あぁ、約束する。キミを冴姫に会わせる」
俺の言葉を聞き、満足そうな笑みを浮かべる霧斗。その姿は、男の俺から見ても華があるように思えた。決して俺がホモな訳では無い。
「そういえばさっき霧斗は『世界を変えてみないか』って言ってたが、それはどういう意味だ?」
ふと、思い出したように先程霧斗が言っていたことについてきく。ただ、中二病発言をしたかった訳では無いだろう。恐らく、何らかの理由があるはずだ。
「あぁ、それは俺達魔想派の最終目標だ。俺達の最終目標は、世界の統治。そして世界の変革だ」
何かしらの理由があると思ったが、まさかここまで大規模なことをしようとしているとは思わなかった。新世界の神にでもなりたいのだろうか。
「世界の変革って、どんだけ大規模なことをしようとしているんだよ」
「世界の変革はいずれ誰かがしなければいけないことだ。ただ、それを俺達がするというわけだ。世界を変革するためには、まず統治することが必要だ。だから、俺達の今のところの目標は世界の統治というわけなんだ」
筋は一応通っているか。変革しようにもまずは統治しないことには始まらないか。統治したところでなし得ることが出来るかはわからんが、ただ可能性は今よりも高くなるか。
「叶えられるといいな、その願い」
俺は悲しい声音で霧斗に言う。恐らく、霧斗は世界に対して何かしらの恨みを持っているのだろう。そうじゃなければ、ここまで大規模なことをしようとは思わないはずだ。
「わかってるさ。この目標だけは、絶対に叶えてみせる」
霧斗は俺の言葉を聞き、苦笑しながら答える。
俺も、冴姫に会うために頑張らないとな。世界の変革とか俺には規模が大きすぎてよくは分からないが、とりあえず俺は目の前の幸せをつかむことに集中する。それだけで、冴姫に近づける気がするから……。
「それじゃあ、明日から魔想派として動いてもらう。そうだな……明日からは戦闘訓練をする。ある程度技術が身についたら精霊との契約に移るから、頑張れよ」
「おう」
明日からか。……そういば、学校はどうしようか。無断欠席なんかは洒落にならないぞ。今更すぎるかもしれないが……。
まぁ、なる様になるか。
そんなことを考えながら、俺は冴姫のことを思い出す。
待っててくれ、冴姫。また、必ず冴姫と会えるように頑張るから。
――霧斗side
「良かったのですか?あんなことを言ってしまって」
時雨のことを思ったアリスの言葉に、嫌悪感を覚える。
別に嘘はついていない。会えることには会える。ただ、望んだ結果とは違うかもしれないだけだ。
「いいんだ。別に嘘をついたわけじゃない。それに、あぁでも言わなかったら、あの少年――時雨はこっち側に来なかったんじゃないか?」
「それはそうかもしれませんが……」
「あれは、誰しもが通らなければいけない道なんだ。アレを突破できなければ、遅かれ早かれ時雨は死ぬ。これは仕方が無いことなんだ」
いつもそうだ。俺は自分の目標のために全てを犠牲にしてきた。仲間だろうと、他人の心だろうと。
そんな生き方は、今になって変えられるものじゃない。もし、ここでこの生き方を変えてしまったら、今はまでに犠牲になった人達に申し訳がつかない。今はまだこのままでいいんだ。いずれ達成させる、俺の目標のために。
「……わかりました。これ以上は何も言いません。ただ、一つだけ私の願いを聞いてもらえませんか?」
アリスは、時雨の事での願いを言うだろう。昔の自分と重ね合わせて、情が湧いたと言ったところだろう。別に止めるつもりは無い。止める理由もないし、止めたところでいうことをきくような奴でもない。
「私を、時雨君のコーチにしてください」
「……わかった。今現在をもって、アリス――お前を時雨の専属コーチに任命する」
「有難うございます」
アリスは俺に深い感謝を表すように、頭を下げる。俺はそこまですごいことをしたわけはないのだから、例をする必要は無いというのに。むしろ、そういう意見を俺に言ったアリスの方がすごいと言えるだろう。
「さて、俺も活動しなければね」
そういいながら、俺は魔想派の本部に向かって歩き出す。俺はどんなことをしたとしても、この世界を統治する。
全ては――
――この腐った世界を、
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