表彰式

『それでは、第八回、超人格闘大会優勝者、高木道弘選手に優勝カップが授与されます!』

 鮫島会長の晴れやかな声。会場からはパラパラとまばら拍手。先ほどまで満員に埋まっていた観客席には空席が目立つ。というより、ガラガラだ。皆、決勝戦のあまりのひどさに表彰式も待たずに帰ってしまったようだ。


『えー、一応、実況としては最後までお伝えする義務がありますが、本当にやる気がなくなってしまいましたね、解説の柳原さん』

『ある意味、さすが超人的凡人の高木選手ですね。凡人が優勝できるような大会など、お客さんが満員なわけがない。そういうことをリアルに実現して見せていますから』


 水差すなよ、まったく。


「さぁ、高木くん。約束通りなんでも願い事が一つ叶う。何を望む?」

 鮫島会長の言葉に俺は真剣な眼差しの真衣を見る。17歳のまま、時の止まった真衣。彼女は何回も何十回も大切な人の死を見てきた。


(もう充分に生きた)

 彼女の悲しい笑顔が胸に思い浮かぶ。

 俺は彼女に死をプレゼントすべきなのだろうか。


 彼女は死を望んでいる。

 彼女の望みを叶えてやるべきなのだろうか。

 死なないことが一番悲しいことだと、じいちゃんは言った。


 俺もその意見はわかる。

 だけど、それは本当にベストな方法なのだろうか。


『さぁ、高木くん。望みを言ってみたまえ。大金持ちになることも。特別な才能を得ることも自由だ』


 鮫島会長が促す。

 俺は意を決した。差し出されたマイクを握る。


「……内藤真衣の時間を返してやってください」

 真衣がこちらを見つめている。俺は決めた。

「今日から、内藤真衣がきちんと年を重ねていくこと。それを俺は望みます」

「いいのかい? 自分以外の者に願いを使うのかい? 後悔はないかい?」

 後悔がないと言ったら嘘になる。けど。


「俺は凡人ですからね。せっかくの超人的凡人なのに、願いを自分のために使ったら、凡人じゃなくなっちゃいますから」

「ははは、そりゃあそうだ」

「凡人も悪くないですよ。当たり前のことを当たり前にする。小さいことで悩んだり、ちょっとしたことでやる気になったり、そんな普通の人間で、俺はいいです」

 鮫島会長は満足そうに頷いた。

「さすが、それでこそ超人的凡人だ! わかった。君の望みを叶えよう!! 内藤真衣くんの止まった時を今より進めよう! 柳原くん。手続きを」

『はい、会長。わかりました』

 解説の柳原さんが淡々と答えた。


 こうして超人格闘大会は幕を閉じたのだ。


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