第五試合 影野翼VS草薙さくら
『さぁ第一回戦も最後の試合です。殺し屋、
『影野選手は殺しのプロですからね。草薙選手の方が分は悪いでしょうが、剣圧を利用した遠距離攻撃も持っていますからね。戦い方次第ですね』
実況席の声を聞きながら俺はモニターを見ている。ほぼ無傷で試合を終えた俺だが、天使の佐々木さんの治癒魔法が大失敗したせいで大変な怪我をした。
まぁ、その後ちゃんと治してもらえたからよかったが、あんなに痛い思いをしたのは初めてだった。
『さぁ、試合開始です!』
武道場の試合が映るモニターを俺は注視した。
草薙さくらは袴に赤い鞘の日本刀を携えている。おでこには鉄板のついた鉢巻(鉢金というのだろうか)をしている。
対する影野翼は手足が隠れるほどのロングコート姿。何を隠し持っているかわからない。
『ラウンドワン、ファイト!!』
レフェリーの
二人の距離は3メートルほど。さくらの刀は飛び込まない限り届かない。一方銃器を隠し持っている影野にしてみれば、近寄らせないで決めたいところだろう。
てか、格闘大会なのに、刀と銃の戦いはありなのだろうか? まあ魔法少女もロボットもいるんだから今更言ったところで仕方がないのだが、こうもわかりやすい凶器同士での戦いになると、逆にリアルで不安になる。決着はどちらかの死以外ないのではないか。
さくらは腰を落とし鞘に納められた柄を握っている。居合の構えである。一方の影野は仁王立ち。だが、ロングコートの袖が長く指先は見えない。何を持っているのかわからず不気味である。
「緊張の一瞬ね、一撃で決まるかもよ」
一緒にモニターを見ている真衣が唾を飲み込む。
ジリジリと間合いを詰めるさくら。彼女に隙など無いように見える。
場内は静まり返る。さくらのすり足すら聞こえてくるような静寂。
その静寂を打ち破ったのは影野だった。乾いた銃声。
モニター越しでは銃撃と影野が動くのは同時だった。
目にも止まらぬ速打ちだった。右手に隠し持っていた銃を撃ったのだと気がついたのは一連の流れが終わってからだった。
銃声と同時かそれより早くさくらも動く。右前方へ流れるようなステップ。さくらが元いた所を銃弾は貫いた。間合いが近くなる。だが影野も避けられることは想定していたようで、移動したさくらに向けて立て続けに発砲する。
胴をめがけて撃たれる弾を、さくらは最小限の動きで交わす。右に左に回避しながらも少しずつ間合いを詰める。
間合いが縮まる。刀の届く間合いに。
そして、低い姿勢で大地を蹴ったさくらはついに刀を抜いた。
刀を抜く瞬間、鈴の音のような繊細な音が聞こえた。
一瞬のうちに抜かれた刀身は影野に伸びる。影野は上体を反らしギリギリのところでその刃を避けた。しかし刃が狙っていたのは影野の胴体ではなかった。
鉄同士が激しくぶつかり合う音。さくらの居合斬りは影野は右手に持っていた拳銃を弾き飛ばしたのだ。
激しい斬撃に体制を崩しながらも、影野は左手に隠し持っていたもう一丁の拳銃をさくらに向ける。
しかし、抜かれた刀を返す勢いでその左手の拳銃をも弾き飛ばした。
『凄まじい剣技です! 草薙選手の凄まじい剣技!影野選手の獲物を叩き落としました!』
すっと刀身を影野の首元に突きつけるさくら。
「……降参しなさい。私の勝ちよ」
「ふふふ。さっさと刺せばいいものを。その甘さが命取りだよ」
「何っ?」
コロン、と影野の足元に何かが転がった。
「——手榴弾!?」
二人を爆煙が包む。後方に飛ぶさくら。爆風に目をふさぎながらもなんとか爆発に巻き込まれずに済んだ。しかし、爆煙の中から飛び込んでくる影野への反応が一瞬遅れた。
飛び込む影野の手元にキラリと光るものが見えた。短刀だ。突き刺すように手を伸ばす。さくらはなんとか刀でその刃をいなす。
攻撃をかわされたからといって影野はひるまない。そのまま左のサイドキックを放つ。流れるような連続攻撃にさくらも対応ができなかった。脇腹に影野のごついシューズがめり込む。
痛みに顔を歪ませながらもさくらは刀を振るう。身を屈めるだけで簡単に避けた影野は腹部めがけて短刀を突き出す。さくらは必死に左手で鞘を掴み、迫り来る短刀に合わせる。短刀はさくらの刀の鞘に弾かれまたもや血を浴びることはできなった。
「てやあ!」
掛け声と共にさくらが放ったのは足の裏で相手を蹴飛ばす前蹴りだった。
意表を突かれた影野の胸にさくらの草履が突き刺さる。
「かはっ」
思わず口を開き後方へよろめく影野。
瞬時に刀を鞘にしまい、居合の構えに戻るさくら。
「飛炎抜刀斬!!」
掛け声と共に抜かれた刀は紅蓮の炎を纏っていた。
必死に身をよじり避けようとする影野の体を刃はかすめた。
ロングコートに炎が燃え移る。
試合を写すモニターも炎に染まる。
『出ました!草薙選手の秘技!飛炎抜刀斬です!』
『摩擦で空気を燃やす刀龍会館の奥義ですね』
『さあ影野選手はこのまま炎に飲まれKOとなるかー?』
「いや、燃えてるのは外套だけですね」
解説の柳原さんの言う通り、ロングコートを脱ぎ捨てた影野は無傷とは言わないまでもまだまだ戦える様子だった。
「なかなかやるな」
所々焦げながらも嬉しそうな顔の影野。
「久しぶりに手応えのある相手だ」
「私もよ」
ニヤリと笑い返すさくら。
「だが、もう終わりにしたいところだ」
「同意ね」
コートの下は黒いワイシャツに黒い革のパンツ。いかにも裏の世界の人といった風情の影野は腰のホルスターから拳銃を取り出す。
「あんた一体いくつ銃を持ってるのよ」
「企業秘密だ」
軽口を叩いていても互いの目は真剣そのもの。隙があれば則ち決着につながるだろう。
すっと影野が銃口をさくらに向ける。さくらは居合の構えで影野を睨む。
固唾を飲んで見守る観客と実況席。
勝負は一瞬だった。
影野が動いた。右手に持っていた銃ではなく、左手に隠し持っていたナイフを投げつけたのだ。意識が銃に行っていたさくらの反応が遅れた。踏み込むように間合いを詰めながら、ナイフの軌道から逃れようとした。が、ナイフはさくらの右肩に突き刺さった。
それでもさくらの踏み込みの勢いは止まらない。ナイフが肩に刺さったまま強く踏み込む。
「龍鉄斬!!」
一気に刃を振り抜く。
一瞬、時が止まる。
そして、影野は前のめりに倒れた。
「なんで撃たなかったの?」
ナイフを投げた後にすぐに銃を撃っていれば結末は変わっていたかもしれない。
「仕事以外で殺しはしないさ……。だが、あんたの強さには参ったよ。殺す気じゃなければ勝てないよ」
息も絶え絶えに影野が答える。
「影野くん」
「へへ、殺す気になれなかった時点で俺の負けだったな。どうやら俺の方が甘ちゃんだったみたいだ……」
「安心して。峰打よ」
「わかってるよ。それでも……、痛いなぁ」
がくりと頭を下げ影野は気絶した。
「勝者!草薙さくら!!」
大歓声の中に一回戦のすべての試合が終わった。
俺は次なる戦いのために、立ち上がった。
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