第2部 超人格闘大会編
超人格闘大会編 プロローグ
「皆様、本日はお集まり頂き誠に有難うございます。これより第8回超人格闘大会を開催します!!」
会場に響き渡る
観客席から地鳴りの様な歓声が上がる。入場前の控え室でもその歓声は聞こえてくる。
ついに、この日が来てしまった。俺は控え室でその時を待つ。俺はこの日の為に過酷なトレーニングを自らに課してきた。腕立て伏せ30回、腹筋30回、背筋30回、ランニング30分。これを1日置きに一週間毎日行ってきた。
自分で言うのもなんだが、体が筋肉で膨張してきているのが分かる。ふふふ、早く暴れたくてウズウズしているぜ。
「ちょっと、それ健康維持くらいにしか効果ないわよ」
隣から無粋な文句を述べてくるクソ女は内藤真衣。目鼻立ちのはっきりしたそれなりに整った容姿の同級生である。ふん、俺も罪な男だぜ。こんな少女をつきまとわせちまってよ。
「あんた、今日ちょっと変よ? なにブツブツ独りで言ってるのよ」
俺が変だと。 闘いを前に武者震いが止まらないだけだぜ。
「返事くらいしなさいよ」
ふん、闘いの前に女こどもと話すことなど何もない……って、痛っ!!
「な、なんだよ!なんでいきなりぶつんだよ!」
「いや、あんたが変に緊張してるみたいだから、ほぐしてあげようかと思って」
「やめてよ! 試合前にダメージ食らわさないでよ!」
はぁ、と溜息をつく。先日テレビで自己暗示の素晴らしさを特集していたから、自らを鼓舞するために頑張ってたのに、すぐに邪魔するんだから、こいつは。
「まだ組み合わせ抽選前だってのに緊張しすぎよ。本当、凡人ね!」
「うるさいなぁ。ちょっと静かにしてよー」
そう、俺は凡人だ。この超人格闘大会には似つかわしくない程の凡人。だが、超人的凡人という揚げ足取りみたいな肩書きで大会に参加することになってしまった。
本当は仮病を使って逃げようとしたが、ある男の参加を聞いて観念した。俺はあいつを倒さなければならない。
出場者リストの名を睨む。
こいつだけはこの手でボコボコにしてやりたい。たったそれだけの思いでここにやってきたのだ。
藻部野は俺と同じなんの変哲もないタダの人間だ。なのに、トラックに轢かれたかなんだかで死にかけ、その拍子に異世界に転生し、
どうだい?
話を聞くだけではらわたが煮えくり返って来るだろう?
こいつだけは絶対にぶん殴ってやる。俺はそう決めて大会に臨んでいる。
「優勝者にはどんな願いでも一つだけ叶えることができる権限が与えられます! さぁ! それでは、第8回超人格闘大会の出場者の登場ですっ!!」
歓声は更に大きくなる。真衣の表情も硬くなる。てか、こいつはなんでいるんだ? 俺のセコンドにでもつく気か?
「そりゃそうでしょ。優勝したら私の願いを叶えてもらうんだから、近くにいないとね」
この野郎。いけしゃあしゃあと言いやがる。
「では、出場選手を一人ずつご紹介致しましょう! 」
会場のボルテージは最高潮だ。モニター越しに会場の様子を伺う。
「まずはこの地球を守り魔族と戦う魔法少女!
大歓声。緊張した面持ちの少女が現れる。まだ一年生の小柄な少女の肩には子犬のようなヘンテコな生き物が乗っている。今日は学校指定の制服を着ている。まだ変身前ということだろう。変身前なら俺でも勝てるんだろうけどなぁ。
魔法少女が闘技場の真ん中に立つと会長は次の紹介に入る。
「続きまして、天才高校生科学者、葉加瀬勉の最高傑作、ヒューマノイドH36ジュリア! 勿論葉加瀬と一緒に登場だ!」
二人目にして人間じゃないのが出てくるのだが、超人って言ってるし人は超えた存在だからいいのだろう。
人間と見間違うほど精巧に作られたピンクのツインテールがチャームポイントの美少女ロボットだ。それが白衣の男子生徒をお姫様抱っこして姿を表す。ふくらはぎや、背中から収納式のバーニアを出し、会場をひとっ飛びしての登場に会場からもどよめきが起こる。
製作者の葉加瀬もご満悦なご様子だ。
「続きまして、
ポニーテールがよく似合う袴姿の少女が颯爽と登場。腰にはずっしりとした赤い鞘の日本刀。剣道部員からの声援が大きくなる。あれ模造刀じゃなく真剣だ。あんなので斬られたら一撃で死ぬぞ。いやマジで。
「さぁ、次は地獄の野球拳法家! 曲がった事が大嫌い!直球勝負の博打打ち!
野球のユニフォーム姿だが、シャツを出し帯を巻くヘンテコなスタイル。左手にはグラブ。右手にボール。背中にバット。もうなんだかわからない。キワモノだろ、こいつは。
野球部の男臭い連中の声援が一文字の後押しをする。
「さあ、どんどん行きましょう! 流れ星に乗って旅行中!よそ見をしてたら落ちた地球! 居候先の小野寺くんに夢中!優勝して星に帰ることはできるのかー!?おてんばドジっ子!セルフィーユ星の皇女、セルフィー! 」
会長、韻を踏んで楽しんでやがる。手を振り出てきたのは金髪ナイスバディの宇宙人。背中の可愛い手のひらサイズの翼がチャームポイントだ。
可愛いけど、セルフィーユ星は地球の10倍の引力だそうで、故にセルフィーは怪力だ。トマトでも潰すみたいにボウリングの球を砕けるらしい。
「そして、続いては……、ついにこの日がやってきた!魔族が人間に宣戦布告! この地球を魔族のものにするために現れた魔の化身!
一番最初に出た魔法少女箇条明日菜のライバルだ。優勝して魔界とこの世界を繋げようとしている。ある意味一番やばい奴。てか、そんな奴を出場させるんじゃない!
不気味な笑みを浮かべながら登場。一番当たりたくない相手かも。
「さぁ、続いて、我が校一番の凡人! 特長がないのが特長!超人的凡人の高木道弘だー!ルビも振る必要なし!!特に紹介することなし!」
おい!それただの悪口だろう!
「さ、行ってらっしゃい!」
真衣に肩を叩かれ会場に出る。俺みたいな平凡な男にも観客は暖かく声援を送ってくれた。
「がんばれよー!ぼんじーん!」
「一回戦くらい勝てよー!」
「死ぬなよー!」
普段はあまり話さないクラスメイトも声をかけてくれる。
ちょっと感動した。
「さぁ、続いても凡人!しかし、こちらは元凡人だ!トラックに轢かれて異世界に転生!話題の異世界チート勇者!
気障な笑みを浮かべて奴が会場に入る。中肉中背。特長らしい特長はない。俺と大した違いはないほどの凡人だ。名前も凡人だし。それなのに、たまたま異世界に召喚されて美少女とウハウハな旅をして魔王を倒し、そして役目を終えこちらの世界に戻ってきたのだ。
ムカつく。どうしようもなくムカつく。こいつだけは俺が葬ってやる。
「以上の八名プラス、開会式には間に合わなかった選手もおりますが、とりあえず組み合わせ抽選を行いましょう!」
大歓声、皆それぞれ応援してくれる人に手を振っている。俺も一応クラスの連中に手を振る。話したことほとんどないけど。
しかし、開会式に参加しない選手というのもいるのか。初耳だ。まぁ、いい。俺はあの藻部野さえ倒せば棄権してもいいんだ。
真衣の願いなど知るか!
さぁ、いよいよ対戦相手を決める抽選が始まる。
と、入場口が騒めいている。
何だろうと伺う。
何やら黒い服の連中が走り込んできた。
「おめーら!お遊びは終わりだ!!」
会場な歓声をかき消すほどの怒声と共に、黒服の集団が乱入してくる。手にはマシンガンを持ち、入るや否や天に向け威嚇射撃をする。
まさか、これは……。
「この武道場は俺たちが占拠した!」
静まり帰る会場。ど、どうしよう。こいつらテロリストだ!
「全員伏せろ!」
リーダー格の男が再び天に向け乱射する。観客は慌ててその場にしゃがみ込む。
俺も慌てて地に伏せた。しかし、横並びで立っていた出場選手の中で、地に伏せた臆病者は、俺と藻部野だけだった。
すると。壇上の会長が困った顔をしてテロリストに言った。
「すみません。テロリストの皆さん。今は超人的格闘大会の真っ最中ですよ。お引き取り頂けませんか?」
会長!何を上から目線で言っているんだ!バカ!殺されるぞ!
「なんだてめえは」
「僕は多満川高校伝統催事企画実行委員会会長、鮫島流。何か要件があってここに来たのなら、お話をお聞きいたしましょう」
「ふん、偉そうに。この大会で優勝すると何でも願いが叶うらしいじゃねぇか。俺たちの願いを叶えてもらいたくてな、突然ながら来ちまったぜ」
「そうですか、しかし、超人格闘大会という名前の通り、あなたのような何の変哲もない、ただのテロリストなどに出場する権利はございません。お引き取り願います」
男の顔が紅潮する。
「てめぇ、死にてえらしいな! おい!撃て!撃ち殺せ!」
リーダーの指示に従い両脇の男がマシンガンを会長に向ける。
「やれやれ、言ってわからないなら体に教えるしかないなぁ」
不敵な笑みで会長が首を振った。
ダダダッとスタッカートの銃声が武道場に響く。
次の瞬間、倒れていたのは銃を構えていたテロリスト達だった。
「な、何?」
両脇の部下を一度に失い、リーダー格が狼狽する。
何が起こった?誰が撃ったのだ?
騒めきと観客の視線の先にその男はいた。
小柄な少年が観客席の通路にポツンと立っている。両手には二丁の銃。
「お前達が来ることはわかっていた」
ボソボソ喋る少年。
「高校生ヒットマン!
「わっ!びっくりした!」
いつの間にか隣に現れていた真衣が俺に耳打ちしたのだ。
「組織を抜けたお前がまさかこんな高校に潜んでいたとはな。だが、居場所がわかれば組織は全力でお前を潰しにかかるぞ」
リーダー格が強がる声を出すが、焦りは声に出ている。
「お前達を皆殺しにすれば済む話だ」
かっこいいこと言いやがって影野翼め! 誰だか知らねえけど。
てか、ちょっとまってくれよ。まだ新しい奴が現れるなんて予想外だよ!普通に大会を進めてくれよ。
「ち、野郎ども!やっちまえ!影野もろとも、ここにいる奴ら皆殺しだ!!」
テロリスト達が銃を構える。
その瞬間だった。
「神聖なる武道場を荒らす、ならず者!許してはおけん!!」
影野という少年の立つ場所とは反対側の客席からの声。
再びざわめく観客席から、一人の生徒が飛び出した。
天高くジャンプしたその生徒は武道場に降り立つ。
「な、何だてめえは!」
「
見たことのない女子生徒。美人だ。腰まで伸びる真っ黒なストレートヘア。胸も尻も大きい。スタイル抜群。だが、口調は時代劇調。
ざわめく会場。
「でたわ、女子高生力士まこちゃんよ!彼女は普通の女子高生だったんだけど、江戸時代の力士が取り憑いちゃったみたいで、ああやって世直しの為に日々活躍しているの!」
真衣が再び説明を入れる。
もう、俺は頭が痛いよ。
「くそ!次から次へと面倒くせぇ!野郎ども!やっちまえ!」
俺と全く同じ感想を口にしたテロリストのリーダーが、狂ったようにマシンガンを乱射する。
うわぁ、大変な事になった!大乱戦になってしまった!
「クリスタルシールド!」
テロリストのマシンガンを魔法少女はガラスみたいな結界を張り巡らせ、無効化する。
「風刃閃!」
剣道少女が居合切りのようにして放つ剣圧が二、三人のテロリストを薙ぎはらう。
「ロケットパンチです!」
ロボ少女がロマン溢れる攻撃でテロリストの体をくの字にへし折る。
「炎殺魔球!」
野球拳法の投げる白球が燃え上がり、テロリストを火だるまにする。
客席からも高校生殺し屋が的確にテロリストを、撃ち抜く。
女子高生力士も、張り手の風圧でテロリストを吹き飛ばしている。
……一方的じゃないか、我が軍は。
何もしていないのは、俺と藻部野と、魔族の王城スバルだけだった。
「お、お前はなんで戦わないんだ?」
腕を組み眺めているだけのスバルに尋ねる。
「俺が手を下すまでもない」
気障な奴だ。
と、こちらに気づいたテロリストの一人がマシンガンを乱射しながら走ってきた。
「燃え尽きろ」
スバルが呟いた瞬間にテロリストは火柱に包まれた。
結局、あわあわ、と目の前の光景に腰を抜かす俺と藻部野の二人を除く超人の活躍によって、ものの1分でテロリストは壊滅したのだった。
「さ、皆さん。少々予定がズレましたが、これより組み合わせ抽選を開始しましょう! 」
テロリストを排除した後、会長は楽しげに拳を上げ、開会の挨拶を始めた。
まったく、一体今のテロリストは何の目的でここに来たんだよ。
ともかく、これより、超人格闘大会が始まる!!!!
が、その前に、なぜこんな超絶わけわからん格闘大会に俺が出ることになったのか、
説明した方がいいか?
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