第1部最終話 ついに登場! 異世界勇者!(勿論チートハーレム)

「俺がお前を倒す! 超人格闘大会がその舞台だ!!」


 おっと、冒頭から俺らしくないアツい台詞を吐いてしまった。俺のような学校中から超人的凡人と評される男が、何をマジになってこんなことを言っているのか、それを説明しなければならない。


 超人格闘大会まであと一週間を切っていた。平凡な俺がどうすれば戦いに勝てるのか、この一週間考えていた。そして、一つの真理とも言える結論にたどり着いていた。


 勝てるわけねえから、仮病を使って当日は家から出ねえ。


 いやいやいや、仕方ないっしょ。勝てるわけないじゃん。逃げるが勝ちって偉大なる先人の言葉もあるし、うん。俺は悪くない。

 そんなことを考えながら家に帰る途中のことだった。


「ちょっと、まだまだ超人格闘大会に出る人たちの調査は終わってないわよ!」


 などと言ってついてくるのはご存知、内藤真衣。2年になってから同じクラスになっただけだってのにやたら馴れ馴れしく絡んでくる女子だ。

 見た目は可愛らしい。が、性格に難ありだ。悪い奴ではないが、異常におせっかい。なぜ俺に関わってくるのか、謎だ。


「闇雲に出場者にこだわる必要はないよ。俺はどんな相手でも自分なりに戦うだけだ」


 ……嘘だ。当日は携帯の電源も切って家で仮病を使って寝る気だ。


「道弘、あんたそんなこと言って仮病とかで大会自体をサボるつもりなんじゃないの?」


 こ、この女、鋭いっ!! が顔に出すわけにはいかない。平静を装う。


「な、何言ってるんだよ。そんなわけないだろ」


 それにしても、こいつは何故こんなにも俺につきまとうのだろうか。俺は平凡な男だ。こいつくらい容姿が整っているのなら、彼氏でも作ればいいし、学校では女友達も多いのだからカラオケでもゲーセンでもそいつらと行けばいいのに。


「内藤、久しぶりだな」


 背後から男の声。珍しく真衣がビクッと身を震わせるのがわかった。俺は振り向いた。

 俺と同じ制服を着た男が立っていた。身長も俺と同じくらい。中肉中背。見た感じ冴えない印象。だが、その表情は自信に満ち溢れていた。



「も、藻部野もぶの? あなた藻部野凡人もぶのぼんど?」


 真衣が見たこともないような真っ青な顔で男を見る。


「どうした、幽霊でも見たような顔をして」


 冴えないその男はなぜか自信満々に腕を組み、せせら嗤う。


「なんで、あんたがここにいるのよ。トラックに轢かれて、その後行方不明になったじゃない」


 震える声で真衣が尋ねる。また俺は置いてけぼりだ。


「そう。平凡な高校1年生だった去年、俺はトラックに轢かれた。その瞬間。異世界のゲンナジーワールドに転生したんだ」


 また、わけのわからん厄介な奴が現れたな。


「そこでチート、つまりは反則的最強無敵勇者として王国の為に戦った。旅の途中に17人もの美少女を嫁にしてキスでしか魔力の回復ができない嫁たちと熱いハーレム状態を味わいつつ、ついには魔王を倒し、この世界に舞い戻ったってわけだ」


 なぜだろう、なんだかハラワタが煮えくりかえる感覚がする。


「そう! 俺こそが話題の異世界転生勇者だ! 超人格闘大会にも参加させてもらう。内藤真衣、お前のハートをゲットするためになっ!」


 親指を立ててウインクする藻部野。身震いして後ずさりする真衣が横目に入る。そして、その様子を見て、拳を握りしめている自分に気づく。

 なぜか、無性にこの男がむかついて仕方がないんだ。理由は自分でもわからない、


「この世界では半年足らずの間だっただろう。だが、俺はゲンナジーワールドで10年もの時を過ごした。もう、俺は平凡な男ではない。この10年で得た異世界の知識や教訓を生かし、この世界でも成り上がってやろうと思っている」


 なぜだろう。無性に腹がたつ。この自信満々な冴えない男に。


「内藤。俺はお前の事が少し気に入っていた。わざわざ超人格闘大会に出ずとも、お前が望むなら第一彼女にしてやってもいいぞ」


 我慢の限界だった。


「こ、このやろー!!」


 自分でもわからない。気が付いたら藻部野をぶん殴っていた。

 漫画じゃない。アニメでもない。だから殴った自分の拳もめちゃくちゃ痛かったし、殴られた藻部野も一歩二歩後ずさっただけで、派手に転んだりもしなかった。


「な、何をする! てかお前は誰だ!? 先ほどから視界の隅にチラチラといたような気がしたが」


「俺は高木道弘! この多満川高校の超人!……的凡人。なぜだか全くわからないが、俺はお前が許せない!凡人のくせに何にも努力もしないで異世界に転生してチート勇者だ? ハーレムだ? 俺は絶対にお前を許さない!」


 煮えくりかえる怒りが内臓を焼き焦がし吐く息すら燃えそうな勢いだ。


「み、道弘、いったいどうしたのよ?」


 真衣も俺の豹変ぶりに目を丸くしている。知るか。俺だってなぜ自分がこんなに燃えているのかわからない。


「ふん、内藤を守るナイト気取りか? だけに、なんてな」


 くそ、拳が痛くなけりゃもう一発ぶん殴ってやるのに。


「だがな、俺は異世界ではチート勇者として大活躍したんだ。そんななまくらパンチじゃ痛くもかゆくもねぇよ」


「……鼻血、出てるわよ」


 白い目で真衣が言う。


「ぬおっ、本当だ! なぜだ!久しぶりに鼻がツーンとすると思ったら、マジか!」


 慌てて上を向く藻部野。


「こっちの世界に戻ったからチートでもなんでもなくなったんじゃない?」


 冷静に分析する真衣。


「なんと!! そういえば、異世界ゲンナジーワールドでは転ぶたびに美女の胸の谷間にダイブして事なきを得ていたが、先ほど階段から落ちた時も普通に顔面を強打したし、そういう事だったのか」


 あー、もう本当に腹が立つ。銃持ってたら撃ってるよ、俺。


「くっ、ここは戦略的撤退だ。お前。高木道弘とか言ったな。お前のような凡人にわざわざ俺様の手を煩わせること自体がナンセンスだが、お前との決着は超人格闘大会でつけてやる!」


 鼻血まみれのくせに偉そうに言いやがって。俺も思わず声を荒げる。


「何を! それこそ俺のセリフだ!藻部野凡人! お前こそただのモブキャラみたいな名前しやがって、たまたま異世界に転生したからって偉そうなんだよ!」


「あ、てめえ名前のこと言ったな? そういう発言は良くないと思うぞ! 小さい頃おばあちゃんに言われただろ! 名前と身体的特徴は馬鹿にしちゃいけませんって!」


「うるせー! ばあちゃんは俺が生まれた時には死んでたよ!」


「そりゃ、失礼した!」


「あーっ! もうあんたら、話が脱線しすぎよ!これだから凡人は嫌なのよ。会話があっちゃこっちゃずれるんだから」


 真衣が一喝する。


「と、ともかく、ひとまずさらばだ!」


 藻部野が走り去る。


「俺がお前を倒す! 超人格闘大会がその舞台だ!!」


 冒頭で、俺が叫んだのはこういうわけだった。そして、俺は奴を倒す、という目的の為だけに超人格闘大会に初めて前向きに向き合おうとした。


 異世界勇者チートハーレム? 羨ましくなんてねえぞ!! 

 ムカつくだけだ!


 だから、あいつだけは、ぜってえ俺が倒す!

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