第8話 会長との遭遇
まったく、急に色々な事が起こりすぎなんだよ。たんこぶになってしまった頭をさすりながら独りごちる。
魔法少女に、ロボット。剣道女に、野球バカ。
なんだか、ロボットのジュリアだけは強そうなところは見えなかったが、あの博士は格闘技はマスターしているとか言っていた。骨法までマスターって言ってたぞ。手袋はめてぽかすか殴り合うっていうヤバイ格闘技だろ。なんなんだよ。
ため息をつきながら保健室を出る。
景色は既に薄暗い。いつもならもう帰って、母親の作る夕食を食べて、親父に「ゲームばっかしてんじゃない」なんて言われる平凡でも楽しい一日を送るはずだったのに。
くそ。早く帰って今日という日を終わらせたい。
校舎脇の駐輪場に自転車を取りに行くと、見覚えのある顔があった。
「お、凡人くんではないか」
あの【多満高催事なんとか実行委員会】の会長であった。
俺の事は覚えているようだが、名前までは記憶にないようだ。それは俺も同じだが。
「君も自転車通学かい?」
「はい、そうです」
会長も俺と同じく自転車通学のようだ。真っ白なクロスバイクを持っている。会長の眼鏡越しの熱っぽい視線が俺を捉える。なんだか薄気味悪い。いやな雰囲気を打ち消すために口を開く。
「あの、超人格闘大会って何人くらいエントリーしてるんですか?」
「エントリーの段階では100名は優に超している」
「ひゃ100ですか?」
「何をそんなに驚いている? 当たり前だろう。優勝すれば何でも願いが叶うのだから」
さも当然という面持ちの会長。
「まあ、そう言われれば、そりゃそうですけど」
と言いつつも願いが何でも叶うって何だよ。という疑問の方がムクムク成長していく。けど、会長がもう話し始めちゃってるからツッコむこともできない。
「--不安になることはない。我が委員会でしっかりと選考させて頂く。【超人】と銘打っているのだから、超人で無い者には参加の権利は無い。実際にトーナメントに進める人数はぐっと絞り込まれるであろう」
なるほど、よかった。と胸を撫で下ろす。って何を安心してんだよ。違うよ。俺は出たくねーってんだよ。
「あの、僕は超人では無いんですが、やっぱり不参加にして頂けないでしょうか?」
都合のいいことに真衣もいない今がチャンスだ。エントリーを取り下げてもらおう。
「はっはっは。何を馬鹿なことを言っているのだね。君は立派な超人だよ。安心して参加してくれ給え」
だからどこが!!
というような荒い口調を俺ができるならもう少しマシな人生を送ってきたであろう。
「全然、ですよ。僕なんか」
「実は私は君に期待してるのだよ」
「え?」
思わず聞き返す。会長は黙ったまま自転車を押して俺に近づいてくる。ジッと俺の目を見つめたまま。俺より数センチは高い身長の会長は俺のすぐ横に立った。
緊張して直立不動の俺に長い手を伸ばし肩を抱くようにして耳元で呟く。
「世界を作るのは天才じゃない。凡人だからね。君は自分ではまだ気づいてないかもしれないが、重要なキーパーソンなのだ。君は超人的凡人だ。だから安心して大会に臨んでくれ」
会長の息が耳にかかる。ぞわっと身震いしつつもなんとか聞き返す。
「キーパーソン。俺がですか?」
「多分な。ふふ。違うかもしれんが」
会長は気障ったらしく笑みを浮かべると肩に回していた手を離した。彼の体温が否応なく肩にじんわりと残流。気持ち悪いよ。
「ち、違うかもしれないんですか?」
「そうだ。単に私の思い過ごしかもしれない」
銀色の眼鏡に手をかけ、勿体振る会長。
……どういうことだよ。
「語られない歴史も歴史の一部。異常と正常の境界線。思い過ごしも恋のうち。嘘から出た誠。……そういうことだよ」
抽象的な事ばかりいう人だ。ぽかんとしていると会長はさっさと自転車に乗ってしまう。
「この混沌たる灰色の学園を君の平凡さで鮮やかに塗り替えてくれ」
そう言って手を挙げると会長は帰ってしまった。
なんかカッコよさげに言いてるけど、さっぱりわかんない。あの人もやっぱり変な人だ。
というより、この学校の人、変な人ばっかりじゃないか。俺は良くこんな連中と一年も一緒にやってきたな。
まぁ、友達もいない学校生活だったから、気づかないのもしかたなしか。
自転車にまたがり、帰路についた。
もう明日から学校来たくねえよ。
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