第9話 美少女宇宙人と冴えない男子
次の日、嫌々ながらもいつも通りに登校してしまうのは俺が超人的凡人だからなのだろうか。
なんて自嘲気味にごちりながら教室に入る。
「対策は考えてきたの?」
俺よりも早く来ていた真衣は偉そうに聞いてくる。考えたか、と聞かれればイエスだ。対策ができたかと聞かれればノーだ。回りくどい?
「うーん、考えてはみたけど、どうしていいかわからないよ」
正直に答えてみた。真衣だって俺が正直に答えれば一緒に考えてくれたり、なんなら「やっぱり出場は無理ね」なんて言うかもしれない。などと淡い期待を寄せながら真衣の顔色を伺う。ほら、表情が変わってくぞ。眉間にシワが寄る。あ、だめだこりゃ。
「はぁ? なにそれー! 」
苛立ちの様相。なんなんだよこいつは。
「いやー、だって絶対勝てるわけないじゃないか。あんな連中」
「やる前からそんなんじゃ、本当に勝てないよ!」
「だから、勝てる要素ないだろー!多分あの人達の中から優勝者が出るんだろうから、その人達にお願いして願い事を叶えてもらった方がいいんじゃない?」
と、至極当然の事を言ってみる。
「たとえばさ、魔法少女の個条明日菜は、聖獣ガレリオンの手がかりを探しているんだから、内藤が先にガレリオンの手がかりを見つけてあげれば超人格闘大会に参加する必要がなくなるわけじゃない。あのロボットのジュリアだって、単に力試しで参加とか言ってるんだから、優勝商品に関しては特に欲しいものがないかもしれない。内藤の強引さで願い事を奪っちゃえば? 道場の再興なんて、なんて適当な金融会社とかヤミ金とか紹介すればいいじゃない。野球部の専用グラウンドが欲しい? そんなもん今回の大会で結果残して校長に頼めよ」
と、珍しく長い事喋ってしまった。
「うーん」と真衣は珍しく黙って唸る。
「あんた、全然つまらないけど、案外それが一番なんじゃないかって事を言うね。ベストじゃないし、ベターでもないけど、ワーストじゃない。みたいな」
「どうせ超人的凡人だよ」
投げやりに答える。
時計を見るとまだホームルームには時間がある。
こんな朝っぱらから、自分が凡人である事を思い知らされるなんてやってらんない。
「どうしたの?」
いつもなら空き時間は机に突っ伏しているだけだが、気晴らしに校内を歩いてみることにした。
教室にいても真衣が「対策!対策!」と馬鹿の一つ覚えのようにうるさいし。
「ジュース買ってくる」
と、言い残し、教室を出た瞬間だった。
「わー!どいてどいてー!」
男の声。振り向いた瞬間。俺は走ってきた誰かに突撃され、思いっきり吹っ飛ばされた。
「ごめんよーー!」
別クラスの男子だ。てか、謝るならきちんと頭を下げろというんだ。口では謝りつつ、猛ダッシュで走りさっていく。
なんて非常識な奴なんだ。
俺がしかめっ面で立ち上がったちょうどその時だ。
「こーらー!雄二ー!待ちなさーい!」
怒声。今度は女だ。女が勢いよく飛んできて俺を吹き飛ばす。
「どわっ!!」
情けなく廊下に倒れる俺の事を女は無視してそのまま飛んで行った。
飛んで行ったのだ……
飛び去っていく少女はうちの学校の制服を着てはいたが日本人離れしたナイスバディに輝く金髪。で、背中に手のひらくらいの大きさの羽根が生えていて、それをパタパタはためかせながら飛んでいた。
「ま、また変なのが現れた……」
「セルフィーユ星の皇女、セルフィーよ」
いつの間にか隣で腕組みをしている真衣が説明を入れる。
「逃げて行ったのは小野寺雄二。冴えない男子高校生。あんたと仲良くなれるかもしれないくらい冴えないわ」
一言多い。
「でも、そんな彼の部屋にある時、宇宙からセルフィーが降ってきたの」
「降ってきたの? どゆこと? う、宇宙人って事?」
「そう。羽根も生えていたでしょう? 銀河のはるか彼方の緑の惑星。セルフィーユ星。そこの皇女が流れ星に乗って旅行中に間違えて落ちてしまったんですって」
「いやいやいやいや。おかしいって宇宙人なんかいるわけないだろ」
「まだ、そんな事言ってんの? 昨日の今日なんだから、少しは適応してよ」
「できるかい!」
「小野寺雄二の家も、親御さんが二人して世界を駆け回る仕事をしているから、家事をやってくれる女の子が出来て良かった、なんて言って喜んで家を空けているらしいわ」
「親! 適当すぎんだろ!宇宙人だぞ!NASAに連絡しろよ!」
「NASAって……安直ね。あんたNASAの電話番号知ってんの?」
「知らないよ!いいんだよ細かい事は!」
と、矢継ぎ早にそこまで怒鳴って、ハッとする。
「もしかして、彼女、超人格闘大会に出るとか言わないよね?」
「出るわよ。セルフィーユ星に帰る為にね」
しっかりとうなづく真衣。
「優勝したからって、どうやって自分の星に帰るんだよ?」
「だから、なんでも願いが叶うって言ってるでしょ」
「だからそれがわかんないんだよ!どういう理屈だよ!」
「もう! じゃああんたは携帯電話がどういう理論で動いてるか知ってるの? この日本の法律がどういう基準で定められて、どういう支援団体が政党を支持してるか知ってるの?」
「いや、知らないけど……関係なくね?」
「そう!関係ないわ! なぜ超人格闘大会で優勝すると願いが叶うかも、ね! 理屈なんかどうでもいい。結果として過去7回開催された超人格闘大会での優勝者は願いを叶えてるわ!」
ぐぐく。もう、常識など通用しないのはわかりきっているが腑に落ちない。
「ちなみに、彼女の星の重力は地球より重いみたいで、握力から何から尋常じゃないから気をつけなさいね」
にっこり笑う真衣。
ちくしょう!
対策なんか、浮かばないのにまた変なのが出てきやがったよ!
もう校内をぶらつく気力もなくなった俺は舌打ちをして、自席へ戻った。
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