第4話 俺、普通の人間だよ!
「どこに行くんだ」
「黙ってついてきなさいよ」
すたすたと前を歩く真衣についていく。俺は昼休みに見た光景が忘れられず、午後の授業は何一つ頭に入ってこなかった。まあ、通常状態でも別に頭には入ってこないのだが。
「あんたさ。自分が普通科の生徒だということを疑問に思ったことは無いの」
真衣が歩幅を緩めて俺の横に並んだ。
「どういう意味だ。全然わからないけど」
「じゃあ、学校のパンフレットはどこまで見た?」
「パンフレット? 受験する時、中学に送られてきた資料は見たけど」
「じゃあ、普通科の資料しか見ていないのね」
「それが何か?」
「あんたちょっとは生活に疑問を持って生きなさいよ。与えられる物だけを享受してたら何の成長もしないわよ。そんなんだから魔法少女のことも知らなかったのよ。あんたくらいよ、
ぐぐぐ、何も言い返せないぞ。
箇条明日菜が魔法少女だということは学校中の生徒が知っていることだったらしい。なぜなら、彼女は入学してから今日まで、飽きもせずに毎日毎日あの少年たち「魔族」と先程のような超絶バトルを繰り広げていたからだ。生徒は皆、面倒ごとに関わりたくないというだけの理由で、あの二人を見て見ぬふりでやり過ごしているのだとか。
……ああ、日本人のことなかれ主義ってなんて、たくましいのだろう。
「あんたは超人格闘大会に出るんだから、ちゃんと情報をサーチしとか無きゃダメなの。普通は自分のことは自分でするものでしょう。手伝ってあげるんだから感謝しなさい」
恩着せがましく言う真衣。
「俺はそんな大会、出たくないのに……」
ボソッと本音を呟いたのがまずかった。くるりとこちらを向いた真衣が俺を睨む。
「いつまでもウジウジ言ってんじゃないわよ。いい、世の中理不尽なことばかりよ。この国だって今は平和だけど大変なことが起こるかもしれない。外国に突然戦争を仕掛けられるかもしれない。異世界から侵略者が現れるかもしれない。宇宙人が攻めてくるかもしれない。そんな時も、俺は関係ない、なんて甘ったれたコト言えると思ってるの? 人間はね、自分に与えられた状況を自分なりに解決していくしかないのよ」
偉そうに説教を垂れる真衣。大きな瞳で睨まれ俺は目を逸らした。
言っていることは確かにその通りなのかもしれない。確かに人生は理不尽なことばかりだ。
俺はふと、あの言葉を思い出した。
……今でも鮮明に覚えている。親の都合で転校が多かった小中学時代。ある中学に転校して数週間が経ったある日のことだった。
「あいつ、なんかむかつくよな」
クラスの誰かが声を潜めてそう言った。放たれた言葉は特定こそしていなかったが、俺を指しているのは明白だった。
やっぱり言われたか、と予想していた言葉だったので驚きも悲しみもしなかった。またいつもと同じ一人の生活が始まるだけだと自分に言い聞かせた。寂しいなんていう本当の気持ちには気付かないふりをした。
俺はいつもそうだった。友達がいなかった。いじめられたり、からかわれたりしたことはない。だが、冗談を言い合う相手も喧嘩できる相手もいなかった。俺の態度に不満があるのなら、はっきりと理由を言って殴ってくればいいのに、それすらされない人間なのだった。
「なんかムカつく」などというあやふやな理由で遠巻きに嫌われるのは、表立っていじめられるよりも、もしかしたら辛いのかもしれないと思った。
そうだ、世の中、誰もが理不尽な仕打ちを受けて、それでも生きているのだ。真衣の言うことも間違ってはいない。確かに世の中は理不尽な事だらけだ。
でもさ、百歩譲って真衣の言葉が正しいとしてもさ、超人格闘大会に参加することになったのは明らかに真衣のせいであって、全ての元凶が真衣なのだから、その諸悪の根源たる彼女に何故俺が説教されなければならないのだろうか。
「なに? なんか文句あるの?」
真衣が眉間に皺を寄せ凄んでくる。
「別に……、でも、あんな魔法使う人間に俺が勝てるわけ無いと思うんだけど……。俺普通の人間だよ」
「戦う前から弱気でどうするの。それに初戦で彼女に当たるとは限らないじゃない」
真衣の言葉にピンとくる。
そうか、その手があったか。
箇条明日菜に当たる前に適当に負ければいいのだ。というより考えて見れば殴り合いの喧嘩なんかもまともにしたことが無い俺だ。どんな奴が相手でも十中八九負けるだろうし、あんな魔法少女なんていう化け物とまともに戦える奴なんか、絶対にいないんだから別に負けても文句は言われないだろう
「何を一人で頷いてんのよ。まあ、いいわ。じゃあ行きましょうか」
「そういや、一体どこに向かってんだよ。放課後だってのに連れ出して」
「科学部よ」
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