第5話 天才高校生科学者と最高傑作

 俺は真衣に連れられ、科学部とやらに向かっている。

 科学部。そんな部活があったのか。

 てか、何をする部活だ?

 俺の通っていた中学には科学部は無かったし。科学部のイメージとしてはフラスコの中に奇怪な液体を入れて何かしらの研究をしている姿が思い浮かぶのだが、実際はどうなのだろう。


「ここね」


 理科室やパソコンルームなどの専門教室が連なる一角に科学部の部室はあった。


「随分と物々しいわね」


 重厚感抜群の鉄製の扉。嫌な予感がする。どの教室も木製の引き戸だというのに、何故に科学部の部室だけがこんなにも重厚な扉を採用しているのだろうか。


「あれ、開かないわね」


 真衣が扉を開けようと試みているのだが、分厚い扉はびくともしない。


「誰もいないんじゃねえの」


「そんなことないはずよ」


 真衣が自慢の馬鹿力で押したり引いたりしていると、機械的な音声が扉から発せられた。


「この扉は、ロックされています」


 突然の音声に驚き顔を見合わせる二人。


「な、なにこれ」


「知らないわよ。凄いハイテクね」


「ハイテクって……そういう問題かよ。うち、都立高校だぜ」


「困ったわね。鍵なんて持ってないし……」


「音声入力モードでも解除可能です。合言葉をどうぞ」


 まるで二人の会話を聞いていたかのように扉は言葉を発した。再び顔を見合わせる二人。


「会話を理解してるのかしら」


「わ、わかんない」


「合言葉とかって言ってるわよ、あんた何か言ってみなさいよ」


 人任せな女だ。合言葉、合言葉。うーん、合言葉と言われても思いつくのは一つくらいしかない。


「じゃあ、開けゴマ」


 しかし、当然のようにうんともすんとも言わない扉。


「……あんたね、そんなんで開く扉が今時あるわけ無いでしょ」


 呆れ顔の真衣。


「なんだよ。じゃあお前がなんか言えよ」 


「じゃあ、ごほん。エロイムエッサイムエロイムエッサイム……」


「いつの時代の闇魔術だよ……」


 まったく人の事を言えないじゃないか。適当な事ばかり言って。


「君達、何をしているのかね?」


 突如、背後から声をかけられた。驚き振り向くと一人の男子生徒が立っていた。白衣を纏った男子生徒。理知的な印象も受ける淡白な薄い顔にメタリックフレームの眼鏡。上履きの色からして上級生だ。


「科学部の葉加瀬勉って人に用事があるの。中にいるかしら」


 突然の訪問者に目を細め怪訝そうな表情の上級生。


「葉加瀬は中にはいないよ」


「じゃあ、どこにいるのかしら」


「……君の目の前だ。僕が葉加瀬だ」


「あら、あなたが多満高きっての秀才、天才高校生科学者の葉加瀬勉さんだったのね。あんまり普通だから気がつかなかったわ」


 相変わらず、初対面の相手だというのに嫌味ったらしいことを言う真衣。嫌な女。しかし、当の葉加瀬は意に介さない様で表情一つ変えなかった。


「ほう、僕のことを知っているのか。それは光栄だ。ところで、そういう君は誰だい。二年生と見受けられるが」


「私のことなんかどうでもいいわ。それよりこっちよ」


 俺に視線を移す真衣。


「お、俺?」展開が読めずにすっとぼけた声を上げる俺。 


「高木道弘。普通課の二年生よ。取り柄もなければ友達もいない冴えない普通の生徒だけど、言ってみれば超人的凡人ね。ってことで超人格闘大会に参加することになったの」


「ほう、なるほど。それで偵察に来たってわけかい。そうか、君は内藤さんだな。噂は聞いているよ」


「それはどうも。私も有名になったようね」


 少し嬉しそうな顔をした真衣は偉そうに胸を張るが、葉加瀬は彼女でなく俺のことを見つめていた。


「あ、どうも初めまして。高木です」


 俺はとりあえず、へったくそな愛想笑いを浮かべながら会釈した。

 葉加瀬は見るからに勤勉そうな生徒だが、とても腕っぷしが強そうには見えない。というより貧弱だ。中肉中背の平凡な俺でも勝てるんじゃないかと思える。超人格闘大会と大層な名称だが、出場者は実のところたいしたこと無いのかもしれない。

 

 あの魔法少女の箇条明日菜とかいう女にあたらずに適当なところで負ければ、あまり怪我もなく終えられそうだ。


「ちょうどいい。メンテナンスも終わったところだったんだ。見ていくがいいよ」


 葉加瀬がカードキーで扉のロックを解除した。


「さあ、入りたまえ」


 葉加瀬が部屋の電気を点けた。


「あれがそうね」


 真衣が何かに気がついた。真衣の目線を追う。俺のような素人には全く何の意味があるのか見当もつかない機械が乱立している部屋の中央に『それ』はあった。

「驚いただろう。僕の最高傑作、コードネーム『ジュリア』だ」


 そこには無数の機械から伸びるケーブルが体に装着されたが直立不動の姿勢で『置かれていた』


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