第15話 残業野郎Bチーム

さてスーパー派遣K江さんを迎えて復活したBチーム。

しかしながらたった3人である。

みなベテランなので仕事は出来る。むしろ社員よりも出来る。

そうなると答えは一つ。

定時までに終わらない仕事をさせられて長時間残業である。

K江さんがデキる人とわかった瞬間にこうなることは予測がついた。

人の悪い予感と言うものは高確率で当たるもの。


本日の仕事のスケジュールを見るとあきらかにおかしい。

他の社員からも「これおかしくね?」という声がチラホラ。

3人しかいないのに6人分の仕事量を課せられてしまった。

一応時間ごとに区切ってはいるのだが、18時からも予定が入ってる。

既にこの時点で色々とおかしい。

なぜこんな計画を立てるのかと考えるだけ無駄なので、俺は定時で帰る事をリーダーのI部さんに言った。


 俺「これはちょっと危険なので定時で帰ります」

 I部さん「了解ーいいよー」


二つ返事で許可を貰った。というかこんなの当たり前なんだけどもね。

一般的には人が足りないから増やすのだが、ここは違う。

人が足りないので人を増やして仕事も増やす。

当然足りなくなるので更に人を増やして更に仕事も増やす。

こんな事を大真面目でしかも確信犯的にやっているのだからタチが悪い。

それでいて「今年の目標は残業を減らしましょう」とのたまう始末。

そこに満を持して飛び込んできたK江さんはもはや被害者と言ってもいい。

案の定毎日24時過ぎまでやらされていた。


一月経った頃、K江さんがこう言ってきた。


 K江さん「自分で残業計算したんだけど、先月160時間でした」

 俺「あちゃー・・まずいですねそれ」

 K江さん「こんなに残業したの初めてですわ」

 俺「そんな残業時間聞いたの初めてですわ」

 K江さん「お金がどうのこうのじゃないですよね・・これは・・」

 

これは非常にマズイ。K江さんが過労で倒れる未来しか見えない。

160時間もやったって事は160時間やっても大丈夫と見なされる。

今月もおそらく無理難題を押し付けられて200時間とかいくかもしれない。

なんとかならないかとI部さんに相談したところ、彼はその上をいく180時間という残業時間だった。

そして残業時間の全てが俺のせいになっているという事をI部さんは教えてくれた。

俺が定時で帰るせいで他の二人が遅くまでやるハメになる、と。

あーやっぱりねー、ここの会社の連中だとそんな程度にしか考えないよねー

全く持って遺憾である。


K江さんは言う。

「俺さんは悪くないと思いますよ。こんなやり方してる方がどう考えてもおかしい」

素晴らしきかなK江さん。至極まともな人だ。俺はモーレツに感動した!

続けてこうも言った。

「これはそう遠くない内に撤退かなぁ」

うむうむ、それが賢いよK江さん。もしくは俺のように定時で帰るかだ。


結局K江さんは8ヶ月ほど働いた。毎月の残業は100時間オーバー。

まさに残業野郎Bチームである。

日に日にやつれて痩せていくK江さんを心配したが、俺ではどうする事も出来ない。

いやまじで10キロは痩せたと思う。本人の意図とは関係無しに。


「もう限界ですわ。故郷に帰ります」

K江さんは最後にこう言い残して去って行った。

次はまともな会社に就職出来る事を心から願いつつ、笑顔で見送った。

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