第3話 業務初日にして辱めを受ける

午後から見学と研修という形で配属先の事務所に行く。

待ち構えていたのは4人。

H田グループリーダー(以下GL)、I崎さん、N根室長、I上さん。

皆俺を見るなり「チャラい人でなくて良かったー」と言っていた。

ちょっと失礼かなーと思ったけど愛想笑いで軽く流す。

俺も丸くなったものだ。


そして見学。

D井君という人の作業を見る事になった。

手際良くサクサクやっている。

この会社の業務上詳しい作業内容は秘密だが、自動車整備関連とだけ言っておこう。

俺は資格も経験もあるので何をやっているのかはわかる。

周囲を見渡しても皆談笑しながらもテキパキ動いている。

現場は結構雰囲気いいねーと思った。次の見学場所に行くまでは。

午後1時から3時まではここで見学。

休憩を挟んで3時から定時までは違う人の作業を見学する事に。


次はNノ宮さんとK下君という人の所で作業を見る。

Nノ宮さんは忙しそうにせわしなく動き回っている。

K下君は時折冗談を言いながらも落ち着いて作業している。

しばらく見ているとNノ宮さんから話しかけてきた。


 Nノ宮さん「経験者?じゃーちょっとコレやってもらおうかな」

 俺「はい、いいですよ」


指示されたのはクーラント(以下LLC)をラジエーターに入れるという作業だ。

俺の経験からするとジョウゴを使って入れるのが一般的だ。

しかしそれを使わず容器から直接入れろと言う。

そういうやり方もあるにはあるが、回りにこぼれるのでオススメはしない。

が、やれと言う。


 俺「ジョウゴとか無いんですか?」

 Nノ宮さん「いいからいいから、入れて入れて」


仕方ないのでこぼれないように慎重に入れる。

初日で緊張していたせいもあって手元が狂い、ほんの少しこぼれてしまった。

その時だった。


 Nノ宮さん「あああぁぁぁ~~~~~~~~!!!!」


と工場の端から端まで聞こえるようなデカイ声で叫んだのだ。

周囲の人がこちらを振り向く。

Nノ宮さんは俺がやったと言わんばかりの視線を周囲に送る。

こぼした俺が悪い。

だが派遣にやらせてミスしたら騒ぐというのはいかがなものか。

心に余裕がないのかなーこの人と思って少し悲しくなった。

本来はエンジンルームの上から水かけてエアーで吹き飛ばせば問題ない。

いちいち騒ぐほどの事でもないのだ。

それをわざわざ騒ぎ立てるのにはいくつか理由が考えられる。

➀社員と派遣の立場を明確にするため。

➁単純に恥ずかしい思いをさせるため。

➂自分より下の者を作り、自身への非難をそちらに集中させるため。

後々のNノ宮さんの行動や言動を見る限り、正解は➂である。


とても楽しみにしていた仕事だけに、少し萎えながら帰路についた。

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