[4] 第1次ルジェフ攻防戦
西部正面軍の北翼ではカリーニン正面軍がルジェフで第9軍を包囲しようとしていた。同正面軍の目標はルジェフの占領と中央軍集団の重要な補給路であるルジェフ=ヴィアジマ間の鉄道を切断することだった。
1月10日、第39軍と第11騎兵軍団の先鋒がルジェフ南翼のシチョフカに迫った。カリーニン正面軍がこのまま南下してヴィアジマの周辺で西部正面軍と合流すれば、ルジェフを防衛する第9軍と第3装甲軍の一部は完全に包囲される恐れが生じた。
1月12日、戦場一帯は摂氏マイナス40度前後の極寒に見舞われた。独ソ両軍の激しい戦いが繰り広げられたが、カリーニン正面軍は同日までにルジェフの占領を達成できなかった。ルジェフ=ヴィアジマを結ぶ鉄道の保持に成功した第9軍は南からの陸路の補給線と限定的な航空補給に頼りながら、ルジェフ周辺の防御陣地を死守し続けた。
1月14日、度重なる激戦で第9軍司令官シュトラウス上級大将は健康を損ない、陸軍総司令部から同軍司令官の辞任を認められた。後任には第41装甲軍団長モーデル大将が就任することになった。
1月18日、モーデルは第9軍司令部に着任した。指揮所に入ってきたモーデルは参謀たちに挨拶した。部屋の暖気でくもったモノクルを磨き、作戦地図に歩み寄る。最新の書き込みに眼を通し、「かなり悪いな」と乾いた声で言った。
「ただいま、最低限必要なところをご説明申し上げたところであります」
作戦主任参謀ブラウロック中佐が報告を始めた。
「第9軍としましては、まずシチョフカ周辺の状況を安定させ、ルジェフからシチョフカまでの鉄道を確保することが急務であります。第1装甲師団によってシチョフカの安定がなされれば、SS自動車化歩兵師団『帝国』の先遣部隊が到着いたします」
モーデルはうなづいた。
「そうしたら、まずこの穴をふさぐことだ」
ルジェフからソロミノの間に空いた敵の突破口を示す太い矢印を手でさすった。
「突破した敵の補給線を切断せねばな。しかもここ(シチョフカ)で。われわれは敵の側面を衝き、締め上げるのだ」
ブラウロックはモーデルの楽観に愕然とした。その驚きを慎重に質問に表した。
「閣下はこの作戦のために何か持ってきていただけたでしょうか?」
モーデルは取り巻く参謀たちを眺め、悠然とした笑みを浮かべた。
「私だよ」
第9軍の新司令官に就任したモーデルは精力的に前線を視察した。そこでモーデルは積極的に攻撃に出ることで自軍を安定させ、士気を向上させることが可能だと感じ取った。各部隊に広まりつつあった悲観論を悠然とした振る舞いと持ち前のユーモアで振り払い、将兵の士気を鼓舞した。
1月22日、モーデルは第6軍団に対してルジェフの西からソロミノへ向かうよう命じた。第6軍団の攻撃を増強した高射砲部隊が支援した。同時に、ソロミノの西から第23軍団が包囲を突破すべく攻撃を開始した。第8航空軍団(リヒトホーフェン大将)の支援を受けながら、第9軍の2個軍団は死力を振り絞って合流を果そうとしていた。
1月23日、第23軍団は第6軍団と合流を果たした。合流した第9軍の2個軍団は北翼で封鎖線を強化し、スモレンスク=モスクワ街道にまで到達した第11騎兵軍団の背後で突破口を塞ぐことに成功した。
1月28日、第46装甲軍団(フィーティングホフ大将)はルジェフの南から攻撃を開始した。マイナス50度を下回る酷寒の中、独ソ両軍の死闘が続いた。深い雪に埋もれた森では木こり小屋が要塞となり、村落の焼け跡が戦闘の激しさを物語っていた。
2月4日、第23軍団の第1SS騎兵連隊(フェーゲライン中佐)は第46装甲軍団の第1装甲師団(クリューゲル少将)とルジェフの西で合流を果たした。ルジェフとシチョフカの背後で孤立した第29軍が包囲されてしまった。戦闘を有利に進めていた第9軍だったが、包囲したソ連軍を完全に壊滅させる力は残されていなかった。
第39軍はオレニノの西でカリーニン正面軍との連絡線を回復した。ヴィアジマの周辺まで南下していた第11騎兵軍団は地元のパルチザン(共産党指導下のゲリラ部隊)と合流して第9軍の背後で限定的な破壊工作に従事した。
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