第3話 ゲーム
僕は、日常生活の中で“参加者”権限を行使し続けた。
小テストは勿論、週1で行われる実力テストや期末テストだって、これで簡単に乗り越えられる。僕は元々常にトップ5に入っていたけど、“参加者”権限を持ってからは1位か2位だ。オール満点、なんてやりすぎてはいけないと思い、わざと間違える程だ。そんな僕に勝ったのは、下田和乃さんだけど、よくもまあ、“参加者”である僕に勝てたもんだ。
……これがいけなかったんだ。今なら、僕はそう思える。
◆
授業中、クラスメイトや先生までもが外に出て行き、下田さんから恫喝された日、
『下田和乃は、今日あったことを忘れる』
という内容のメールを、僕は送っていた。
そうして、僕はルールを開く。ルールは、新たに自分が発見したものが追加されていく……もし、もし下田さんの言ったことが正しいのであれば……。
・“参加者”が“参加者”を発見した場合、1週間以内に“メール・ゲーム”を行わねばならない
・ゲームで敗北した“参加者”は、いっさいの“参加者”権限を失い、これが復活することはない。また、1週間以内にゲームを行わない場合も同様である
「追加されてる……下田さんの言ったとおり……!」
これを知っているということは、下田さんはすでに、1度以上メール・ゲームを行っているということ……。いったい、どんなゲームをするんだ……?
「あれ」
ルールの追加、これだけではなかった。
・“メール・ゲーム”の内容は、“参加者”同士が決める。ゲームに参加する全ての“参加者”が了承したゲームが、“メール・ゲーム”として認められる。了承の証明として、ゲームのルールをこのアドレスに送付せねばならない。この時、同日に2度以上メールを送った場合の“参加者”権限ははく奪されない
成程……今回は僕と下田さんの1対1だけど、複数同時に分かる場合もあるということ……。どちらにしても、慣れている様子の下田さん、いいようにゲーム設定をさせないようにしないとな。
もっとも、僕が今日送ったメールの内容が実行されれば、それもなかったことになるのかもしれない。けど、僕の思っている通りだとすると……。
◆
「下田さん」
「あら、上社くん」
翌日の放課後。話は長くなるだろうと思って、この時まで僕は、下田さんに話しかけなかった。
「昨日あたしが言ったこと、確認したみたいね。それなら場所、移しましょうか。まだクラスメイトが残ってるからね」
この様子……やはり下田さんに対しては、メールの内容は実行されていないようだ。いや下田さんに対してというよりは、“参加者”に対してというべきか。
昨日、下田さんは僕を“参加者”だと確信して話しかけてきた。あの時、僕と下田さん以外のクラスメイトは教室の外。恐らく下田さんが前日に、クラスメイト全員の名前を書いて、あのタイミングで教室から出るよなメールをしていたんだろう。
そんな中、僕だけが教室から出ないことで、僕には“参加者”権限が効かない……つまりは“参加者”だと確信したってことだ。
これについては、また今夜0時、メールを確認してルールの追加がないか確認すればいい。
下田さんに連れられてやってきたのは、視聴覚室。もっともそれは名ばかりで、2クラスの合同授業等に使われる、ちょっと大きい教室、といった所だろうか。そんな場所だから、何かイベントごとがないと人はやって来ない。
「下田さん、怒ってないんだね。昨日はあんな様子だったのに……」
「まあ……ね。あたしの悪い癖。普段はこんなに、冷静でかわいいのに」
下田さんは、クルクル回って小首をかしげた。かわいいのは正直否定出来ないけど、その行動と冷静さは全くイコールで繋がらない。
「で、そのでかいトートバックは何? 何か中に入ってるみたいだけど……」
「これは金庫ね」
「金庫?」
下田さんは、そう言いながらトートバックを机にどしんと置いた。プラスチックなものでもなく、金属製で頑強そうな金庫……結構重いだろうに、よくそんなもの持ってきたな……。
いや、待て。
今からする話は、決まっている。
“メール・ゲーム”で、どんなゲームをするか。
それでいてあの無駄に重くて大きな持ち物……ゲームに関係しないもののはずがない。先手を撃たれてしまったということ……。
「お察しのとおり、この金庫は、“メール・ゲーム”に使うもの。あたしはね、もし次に“参加者”を見つけてやり合うことがあれば、これを使おうと思ってて。
あ、でも大丈夫、こんな大層なものを使うけど、内容は大したことじゃないわ。それに、上社くんも知ってのとおり、ゲームの内容はあたしと上社くん、双方が了承しないとダメだから」
それは確かに、ルールに記載されていたな……。
なら、ひとまず下田さんの考えるものを聞こう。少しでも平等じゃないと感じたら、即断って、こちらから提案すればいいだけだ。
「正直、この金庫は保険みたいなもの。
ゲームの内容は、お互い、自分の所有物をどこかに隠す。そして“参加者”権限を利用して、相手の隠した物と場所を当てる……って感じね」
「その金庫はどうするんだ? 保険とは……」
「この勝負はね、隠した物と場所って、自分しか分からないじゃない? だから、紙か何かに書いて残しておかないといけないわよね。でも、それを見られたらアウト。だからこその、この金庫ってわけね!」
なるほど、互いに書くした物などを書いた紙をその金庫に入れて、決着の時に開封……相手が隠した物を特定出来ているか確認するのか。
「それなら、僕からも提案がある。まず僕にその金庫、細工ができないか確認させて欲しい。その上で、その金庫は何桁のパスワードが設定できるのか教えて欲しい」
「もちろん、調べてもらうわ。
パスワードは8桁……だから、あたしとあなた、4ケタずつ決めて互いにそれを分からないようにする。そして、2人に開けるという意思がなければ、開かない状態にしましょう。元々はあたしの金庫だから、保管は上社くんがする……これなら文句はないでしょう?」
確かに文句はない……。
「それと、紙を金庫に入れるときは、封筒に入れてからにしましょう。金庫に入れる瞬間に見られるなんて、目も当てられないから」
「なら、もうひとつ。相手の隠した物を宣言するときは、『宣言する』と言ってから発言する。これで、言った言わないの問答を防ぐ」
「いいわね」
ここまで決まれば後は……。
「後は、いつから始めるか、ということかな? “メール・ゲーム”のルールでは、1週間以内に始めればいいとのことだった。君が僕を、“参加者”と気付いたのは昨日……今日から6日以内に始めればいいということになる。でも、何をどこに隠すか、それを考える準備期間が必要だろ?」
「そうね。じゃあ、勝負開始は3日後の0時00分、金庫に紙を入れるのはその前日で、勝負開始までに物を隠す。3日後の0時00分から0時04分のメールを送る時まで、 お互いの詮索は禁止。
これに了承して貰えるなら、今夜互いにゲームの内容をメールで送る。事前に、お互いに普通のメールで内容確認し合ってから、それをコピーして送りましょう。ニュアンスが等しければいいけど、間違ってたら面倒だからね」
そうだ……“参加者”におけるルールの中に、そんなものがあったな……。それを送ることで、お互いルール違反ができなくなる、ということか。
「さて、こんなところかしらね。これ以上、上社君と一緒にいて、変な噂が立ったら嫌だしね」
「ま……面倒だよな」
「あら……それはちょっと傷付くセリフね!」
どっちなんだ。
「それじゃ……絶対負けないから」
「こっちのセリフだよ」
そうだ……僕は絶対に負けられない……この“参加者”権限、失うわけにはいかない。
今まで僕の人生は、勉強しかなかった。口うるさい親から少しでも褒めてもらおうと、僕は必死だったんだ。しかしどうだろう、 この“参加者”権限を以てすれば、なんの苦労もなく、なんでも手にはいってしまう。僕は、勉強なんてものから解放されて、自由になりたい。自由を、掴み取ってみせる!
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