冴えない円盤の求めかた
※本SSは『冴えない彼女の育てかたGS』発売時に「とらのあな」さんで配布されたものとなります。
とある週末、山手線の電車内。
いつものように元気に、けれど極力周囲に迷惑がかからないよう静かに叫ぶ俺と、いつものようにフラットで、だから極力周囲に迷惑どころか存在を認識されないくらい埋没する
「さあ加藤! 今日は『冴えない彼女の育てかた』アニメBlu-rayを予約しに行くぞ!」
「あ、今日は『めたねた』で行くんだね」
「……ああ、俺は、俺たちはとことん攻めると誓ったんだ! 躊躇なく突き進むと決心したんだ!」
作中に登場するキャラクターが自分の作品について言及したりする、いわゆる『メタフィクション』は、作品の評価において諸刃の剣というか、最近では主にデメリットの方向に作用することが多い。
何しろメタは、『こういうの萎えるわ~』と発言するだけでもわりと説得力がある上に、『メタは否定しないけど面白くないのはNG』と言っておけばわかってる風を装える、安心のツッコミどころだ。
まぁ、だからと言って『そこまでわかってるなら使うなよ』という至極まっとうな意見は華麗にスルーなんだけど。
「着いたぞ加藤! 俺たちの聖地へと!」
「えっと、俺“たち”のと言われましても……」
まぁそんなどうでもいい話ともかく、その数分後に電車を降りた俺たちが立っていたのは、いつもお馴染み秋葉原。
電気街口の改札を出てすぐにオタクコンテンツの電子看板で溢れ返るこの街は、いつも俺を新鮮なノスタルジーへと誘ってくれる、常に懐かしさと新しさを感じさせる不思議なロケーションだ。
「よ~し、さっき言った通り、まずはBlu-rayの予約から……って待て加藤、お前、一体どこへ向かう気だ」
「え? だってアニメの予約でしょ? だったら駅出てすぐのそこで……」
駅に着いてすぐ、わざわざ電気街口に出たにもかかわらず中央口への連絡通路をくぐろうとする加藤を見て、俺は彼女の目的地がアレだと察してすぐに呼び止める。
「わかってない、お前、全っ然わかっちゃいないな加藤!」
「あ、今のはわかったよ。これから
「いいか加藤、アニメのBlu-rayというのは、ただ円盤パッケージを手に入れればそれでいいというものじゃないんだ!」
何気に向こうも結構毒を吐いていたのは華麗にスルーして、俺は加藤に、もう一度アニメBlu-ray購入のセオリーを叩き込むべく、駅前で大きな声を張り上げる。
「はい加藤、ここでいきなりですがクイズです。オタク一○○人に聞きました……アニメの予約でもっとも重視するものと言えば?」
「えっと、値引き率?」
「残念それは二位! そんなものが一番重要なら人は皆A○az○nの岩戸に集う! こうして俺のようにわざわざ現地のショップにやってきて予約券を血眼で探すアニオタが最も重要視するものとは一体何でしょう!」
「はいはいわかってるって。特典だよね」
「そうだ特典だ! それもメーカーが全ショップに共通で付ける特典のことじゃないぞ? ショップさんがその作品に惚れ込み、どうしても売りたいと自ら企画を立て、制作委員会や様々な人たちとの面倒な交渉を乗り越えようやく客の元へと届けられる超豪華○大特典とかそういう珠玉のアイテムのことだ!」
「……『一番いい特典の付くショップで予約する』って一言いえば理解するのにどうしてわざわざそんな回りくどい言い方をするかな安芸くんは」
「さあそこで今回の各ショップの特典を見比べてみよう……加藤、このリストを見てくれ」
何気に向こうも何だかんだ負けてないのは華麗にスルーして、俺は加藤に、もう一度ショップ選びの極意を叩き込むべく、エ○セルで作ったショップ特典一覧を広げる。
「……どこも沢山つけてるね~。そんなに推して大丈夫なのかなこのタイトル」
「どこも甲乙付けがたい素晴らしい特典の数々だが、俺の見立てはやっぱりここだ……」
何気に向こうも……ていうかこいつ最近自虐ネタに鋭さを増してきてないか? というのは華麗にスルーして、俺はリストの一番上に載っている店名を指差す。
「そう、とらのあな! 全巻連道購入特典としてアナザークリエイタービジュアルファンブックとキャラクター原案深崎暮人氏書き下ろしB2タペストリー! その他にも抽選特典など垂涎ものの特典だらけ! 俺は間違いなくとらのあな一択……っておい待て加藤! どこへ行く!?」
「だってとらのあななんでしょ? だったら中央通りだよね。さっさと行って予約済ませちゃおうよ」
「お前……最近俺に対する態度がスルーという言葉では表現しきれないくらいに淡泊になってないか?」
「え~、そうかな? まぁそうかも」
「そうなんだ!?」
「着いたね秋葉原店B。確かアニメ売ってるのってここのとらだったよね」
「か、加藤……お前って奴はっ」
いつの間にか、秋葉のとらの全店舗の位置と役割をきっちりと理解している加藤に俺は、大きな感動と、いくばくかの空恐ろしさを覚えた。
こいつ確かに去年はオタクショップに一度も行ったことなかったはずだよなぁ……一体誰の影響だ。
「よ、よしっ! それじゃ予約カウンターに一直線だ! 終わったらU○Xのタ○ーズでお茶しようぜ」
「へ~、店内にも結構『冴えカノ』のポスターとか貼ってあるんだね……あ、ねぇねぇ安芸くん」
「なんだよ?」
「この、『
「…………しまったぁぁぁぁぁぁぁ~!!!」
各ショップの特典をじっくりと見定め、自分にとって最高の店で最高のタイミングで華麗に予約を済ませるはずだった。いや、ついさっきまでそれはできていた。
しかし、ここに一つの、そして致命的な見落としがあったことに気づいてしまった。
「へ~、ここでアニメの一巻を予約すると、キャラクターデザイン
「……出るぞ加藤」
「え? けどまだ予約してないけど?」
「別のとらを探す……アニメの円盤が予約できて、しかも加藤
そう、とらのあなやその他『冴えない彼女の育てかた』を特に応援してくれるショップでは、メーカー特典としてこのミニ色紙がさらに追加される。
しかしそれは、澤村・スペンサー・英梨々、
で今回、わざわざ加藤と予約に来ておいて、加藤恵応援店以外で予約を入れるというのは、いくらなんでもあまりにアレであり……
「あ、あった加藤恵応援店! ありがとう……ありがとう新宿店A!」
それから俺たちは、山手線で池袋を経由して新宿へと回り、ようやくとらのあなの、アニメを予約できる加藤恵応援店へと辿り着いた。
「えっと、別にそこまでわたしの色紙を追い求める必要もなかったんじゃないかな?」
「だからお前! もっとメインヒロインとしての自覚を持てよ! せっかくアニメで人気急上昇中なんだからさ!」
「でもわたしの人気って、そういうことに無自覚なところが受けてる結果のようにも見えるんだけど」
「な……なんという加藤恵のジレンマっ!?」
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