第12話 母の話 エステ

私はさくらももこのエッセイが大好きだ。さくら信者だ。それと同時に、私はさくらアンチだ。


初期の作品は大好きなのだが、金回りが良くなってからの作品は、金持ち自慢にしか思えなくて、どうにも好きになれない。そして、彼女のエッセイにやたらと登場するのが、エステだ。


初期の作品にはまったく出てこなかったが、金回りが良くなってからの作品にはやたらと登場する。私はそれを見るたび「何がエステやねんくそっくそっ」と思っていたのだが、期せずして私もそれを体験する日が来た。大学生の分際でエステとは何様だという声が聞こえる気もするが、エステはエステでもあかすりエステである。韓国人にもみくちゃにされるあのあかすりエステである。


今年の夏休み、母と、母の友人であるTさん、そして私の三人で、スパワールドに行ってきた。スパワールドは、大阪浪速区にある温泉をテーマとした娯楽施設だ。施設内には温泉や岩盤浴、プールなどがある。特に、温泉はヨーロッパゾーンとアジアゾーンに分かれており、様々な国をモチーフにした温泉に入浴できる。これがなかなか楽しい。


私も母も、お風呂が大好きだ。私もできることなら毎日湯船に浸かりたいのだが、一人暮らしを始めた今となっては、水道代が恐ろしくて中々できない。また、下宿先のお風呂はユニットバスなのだが、これがなかなかに不便だ。とにかく狭い。


いや、狭いだけならまだいい。虫が湧くのだ。浴槽と壁の間に細い溝があるのだが、入浴する度にそこに水が溜まり、いつのまにやら虫が湧く。換気扇はきちんと回しているし、殺虫剤も多用しているのだが、何故かいなくならない。私が入浴する度に彼らに生命が与えられているのかと思うと、神にでもなったような気がする。気のせいだ。


そんなこんなで、普段はゆっくり湯につかることができないため、温泉に入るのはこの上ない喜びだ。まさに命の洗濯である。千二百円という入場料は学生にとっては安いとは言えないが、命を洗濯するためなら惜しくない。


その日、私たちが入ったのはヨーロッパゾーンだった。ヨーロッパは広い。母とTさんは先に入浴していた為、探すのに苦労した。久々に会った母は、当たり前だが全裸で、そしてとてもテンションが高かった。


私に全裸のTさんを紹介し、「あんたが赤ちゃんの頃抱っこしてもろたんやけど覚えとる?」と聞いてきた。覚えている訳がない。Tさんは母より一回り以上年上の女性だ。二人とも宝塚歌劇団のファンで、当日券購入のための列に並んでいたところ、仲良くなったらしい。二人とも、果てしないコミュニケーション能力の持ち主だ。


一方、その娘である私は極度の人見知りだ。Tさんとの会話を早々に切り上げ、さっさと別の浴槽に逃げた。やはり風呂は一人に入るに限る。


私が一人の時間を楽しんでいると、全裸の母がにやにやしながらやってきた。


「あかすりやらせてあげる」


というのでついて行ってみると、ヨーロッパゾーンなのにそこには“韓国式あかすりエステ”があった。そして、室内にはたくさんの韓国人女性がいた。


ヨーロッパゾーンなのに。


私たちは一人ずつベッドに寝かされ、そこに一人ずつ韓国人女性がついた。先程までヨーロッパにいたというのに、室内では片言の日本語と謎の韓国語がこだまし、自分が今どこにいるのかわからなくなる。


全身に謎の液体がかけられ、あかすりエステが始まった。先程も書いたが、私は極度の人見知りのため、知らない人間に体中をくまなく触られるというシチュエーションに戦々恐々としていた。


私が身体を固くしてプルプルしていると、私を担当していた韓国人女性は、無表情で「ダイジョブダイジョブヨー」と話しかけてきた。そして、無表情で私の身体をこすり始めた。あかすりタオルがちょっと痛い。すると出るわ出るわ大量の垢が。私の身体はこんなにも汚かったのかと思うとそれはそれはショックだった。韓国人女性は、私の垢を見ながら無表情で「コレハハズカシイヨー」と言ってきた。そんなこと言われなくてもわかっている。


今度は羞恥心でプルプルしていると、隣からぺちんぺちんという音が聞こえてきた。見ると、そこには肌色の肉塊と化した私の母がいた。叩かれてプルプルしている。揺れる肉塊を見つめていると、段々自分がどこにいるのかわからなくなる(二度目)。


ああ、ここはきっと養豚場なのだ。あそこにいるのは、きっともうすぐ出荷される豚なのだ……。


そんなことを思っていると、Tさんを担当している韓国人女性が「ピカピカ! ピカピカ!」と騒ぎ出した。何事かと思って見ると、そこには謎の液体によってピカピカと光り輝くTさんがいた。黄金の豚である。きっと競りに出したら高値で売れるだろうなぁと思いながらにやにやしていると、私の身体も大概だということを思い出して真顔になった。


それから数分。苦痛なのか快楽なのかわからない時間がついに終わった。私の肌は光り輝いていた。これが大韓民国の力か……と思うと脱帽せざるを得ない。しかし竹島は渡さない。


私を担当していた韓国人女性曰く、向こうの女性は週に一回くらいの頻度であかすりを行うらしい。私もそれとなく勧められたが、そんな金があったら良い風呂がついている物件にさっさと引越しているだろう。


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