第11話 弟の話 引っ越し
そんな弟が新潟に引っ越すことになった。大学生になるのだ。
学年主席で運動部の主将な弟は、あたりまえのように特待生になった。
クソ芸術大学に五年通っているお姉ちゃんはもう立場がない。生まれてきてすみません。
4月、弟の引っ越しを手伝うために、新潟に向かった。
母と弟は、地元である愛媛から自家用車で新潟に向かう。
大阪在住の私は、一足先に高速バスで新潟に行き、一足先に弟の部屋に入り、業者から届く荷物を受け取らなければならないらしい。なんでこんな面倒なことをするのかよくわからないが、母上の命令なので仕方ない。
朝6時に新潟についた。新潟とは言っても、新潟市内ではない。もっともっと田舎の方である。
母に「ついたよ」とラインしたら、「その辺でモーニングでも食べてて」と言われた。食べようにも店がない。いや、店はたくさんあるが、まだどこも開いていない。マクドなら空いているだろうと思い、ネットで場所を調べて行ったら閉店していた。1時間ほど歩いてやっとモスバーガーを見つけたので、そこで朝食をとった。既に重労働だ。
食後、駅に戻り、弟の下宿先に向かうバスに乗り込んだ。ゆられること30分。たどり着いたそこは、閑散とした駅前が大都会に見えるほどの、クソ田舎だった。
畑、畑、畑、あたり一面畑である。道路はどこまでもまっすぐ伸びており、先が見えない。
ふとみると、老人が農作業をしている。ふと見ると、親子がドブをさらっている。他に人はいない。ふとみると、民家の庭につくしが自生している。なんだこれは。初めてみたぞ。つくし食べ放題じゃないか。すごい。田舎すごい。
バス停から弟の下宿までは、徒歩20分らしい。グーグルマップを信じて歩いていたら、いつのまにか森に入った。なんかもう大冒険である。
栗とか落ちていそう。あと熊とかいそう。
せっせと歩くこと30分。朝10時。やっと弟の下宿先についた。徒歩20分というのはどうやら嘘だったらしい。
下宿先といっても、まだ荷物は一つも届いていないので、ただの空き部屋である。これから、業者がここに荷物を持ってきてくれるので、私はそれを受け取ればいいらしい。大家さんに挨拶し、母に、「ついたよ。業者いつくるの?」とラインをした。すると、「午後かな」
えっ
「え、遅ない? 私夜行バスで朝6時に新潟ついたんやで? 荷物受け取るためによ?」
「しゃーないやん。最初はその予定だったんじゃけん」
「ええ……じゃあ私そんな急いでくることなかったやん……。それで、母さんたちはいつ到着なん?」
「15時」
「ええええええええええ。え、なに、5時間!? 5時間も私ここで独りぼっちなん!?」
「外出してもええよ」
「ええ、いや、外出しようにも何もないやん。森しかないやん。なんなん? 栗ひろいしかすることないで? 栗拾いしろっていうの? ええ?」
「栗拾いしてもええよ」
「(違う、そうじゃない)」
そんなこんなで5時間放置されることになった。
6畳の監獄で5時間。たまったもんじゃない。半泣きになっていると、玄関のドアがノックされた。
誰だろう。もう業者が来たのかな。まだ午前なのに。
そうっと扉を開けると、そこにいたのは先ほどの大家さんだった。
なんじゃいな、と思っていると、大家さんはパンとイチゴ牛乳が入った袋を差し出して、こう言った。
「この辺何もないでしょ? よかったら、これ」
神様かと思った。
「ありがとうございますううううううう飢えてたんですうううううううう」
「でしょう。こんなものしかないけど」
「十分ですうううううありがとうございますううううううう」
もう新潟大好き。
……と思ったけど、新潟の気候は私の体には合わなかった。
たった数日の滞在で見事に体調を崩した。
来世はもっと強い人間になりたい。(続かない)
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