第10話 弟の話 ジェンガ

次回の帰省は8月。それまでネタがないので、別の家族のことを書こうと思う。


弟の話。

私の弟は、高校時代はずっと学科の首席で、部活では主将を務めていたエリートだ。一方私はド底辺芸術大学で、舞台芸術なんていう将来性のないものを勉強している。

弟は、現在新潟の大学に通っている。当たり前のように特待生で、すでに院まで行くことが確定している。

そんな弟とは、父親の病気の件以降喧まったく会話をしていない。といっても引っ越してしまったので会話のしようがないのだが、向こうにはツイッターをブロックされ、こちらからはラインをブロックしている。

その理由が、私や他の家族が父親の看病でひーひー言ってる最中に、家に彼女を連れ込んで遊んでいたから。その時はたまたまゴールデンウィークで、弟は実家に帰省していた。母が「一緒に病院いく?」と聞いたのだが、弟はそれを断って彼女と遊んでいたらしい。

そして、弟は毎日のように彼女を家につれこんでいる。しかもなかなか帰らないので母が晩飯を出している。一度注意したのだが弟は何がいけないのかわかっていないらしい。


 私としては、実家に他人がいるなんてとても耐えられないのでどこか別のところでデートなりなんなりしてほしいのだが、弟いわく「彼女はインドアだから」らしい。「インするドアを考えろや」と怒った。


 以下は、まだ弟と喧嘩する前の記録だ。


***


弟に彼女ができた。

お姉ちゃんは寂しい。

今までは、私がいきなり


「弟ー! 山登ろー!」

「弟ー! 釣り行こー!」

「弟ー! 川行こー!」


と突然言っても、


「しょうがないなあ」


とついてきてくれていた弟。

しかしそんな時代は終わったのである。

平日は毎日毎日弟のかのじょっぴが遊びに来る。

弟はもう私なんぞに構う暇はないのだ。


もう一緒に山に行ってくれない。

もう一緒に決闘(遊戯王)をしてくれない。

もう一緒に孤独のグルメごっこ(※)をしてくれない。


(※ 某五郎ちゃんの物まねをしながら食事をし、より上手に味を言葉にできた方が勝ち)


お姉ちゃんは寂しい。

反面、弟が幸せそうなのでお姉ちゃんはうれしい。


しかし、そんなお姉ちゃんはとても神経質な性格である。

家に他人がいる、これは、お姉ちゃんにとっては結構な心労なのである。


お姉ちゃんは ♰孤独と静寂♰ を好む根暗オタクだ。家で執筆作業をしていると、二階から弟とそのかのじょっぴの笑い声が聞こえる。時折叫び声も聞こえる。

優しいお姉ちゃんは我慢した。弟たちは今青春を謳歌しているのだ。

弟はもうじき進学に伴い、新潟に引っ越す。引っ越す直前に彼女作るなよ、という話だが、なんせ弟とかのじょっぴは今青春というモラトリアムを謳歌しているのだ。

ここは弟たちのためにぐっと我慢しようじゃないか。


そう思ったが、私の心は自分で思っている以上に狭かった。

こっちだって忙しいのだ。脚本の締め切りを三週間ほど過ぎていてもう修羅場なのだ。こう騒がれたら集中できない。一体何を笑っているのだ一体何を叫んでいるのだ。いかがわしいことでもしているんじゃないのか。

かのじょっぴが遊びにきて10数分、私は弟の部屋に怒鳴り込みに行った。


「やかましい!」


二人はジェンガをしていた。

いかがわしいのは私の方だった。

弟からはあとで「ごめんね」とラインが来た。

その夜私はそっと枕を濡らした。

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