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その丸まった背中に抱きつきに行きたい。『どうしたの?』『大丈夫だよ』『泣かないで』『ねえ、泣かないで』喉につっかえた言葉の数々が頭の中をぐるぐると渦巻いて、どこにも抜けていかない。
喉が閉ざされた、音が消えた、そんな風に私は視覚と聴覚でそれらを感じることしか出来ない。どれほど、無力なのだろう。
最後の言葉を暇潰し程度に、そう、冗談半分に考えていた私は、どれほど愚かだったろう。
『あぁぁああぁっ、ぁぁっあ』
力なく、音もなく。つっかえたまま表には出ようとしない。こんなにも頑張っているのに、こんなにも熱を持っているのに、涙は零れるのに、床を濡らすことはなかった。
ーー最後の言葉はなにをかけよう。
浅はかな馬鹿者は、私が消えた時のことを考えていなかった。私がいなくなったら私は貴方に最後の言葉をかけられないのに。貴方が消えることしか考えていなかった。
『貴方は私になんて言ったの?』どんな言葉をくれたのか、血の通わない白い肌、冷たい身体。姿形は燃え、写真だけが残る。彼に見えない私はもはや私ではない。
『ごめんね』『ごめんなさい』『ごめんなさい』『泣かないで』『私のせいでごめんなさい。泣かないで、泣き顔を見たいんじゃないのに、泣かせてしまってごめんなさい』彼の目元からとめどなく落ちる雫に、そんなことを思った。
こんなにも近くにいたのに、どうしてお礼のひとつも言えなかったのか。
ーーもっと一緒にいたいのに、そんな感情さえも薄れ行く。怖かった。けれど、それよりも恐ろしい動きを見せた唇に、私の僅かな思考も感情も停止する。
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