三節:荷下ろし

 中央を区切られた片側二車線の道路を一台の軽トラックが、荷台に積まれた荷物を揺らしながら軽快に飛ばす。左右を流れる緑が徐々に薄くなり、そして道が一つになった。

 車は少しだけ進むと何もない中央で動きを止める。ドアが開き、麻祁が降りてきた。

「着いたぞ」

 トラックの横を過ぎさまに一声掛け、後部の板金を下ろす。それに合わせ、機材を掻き分けるように、龍麻と篠宮が現れた。

 龍麻は荷台から降りると、小動物のようにキョロキョロと首を動かし、ある一点で動きを止めた。

 前へと続くはずの切られた道路の端に、麻祁の後姿があった。

 龍麻はそこに向かい歩き出し、横に並んだ。

 二人で覗く下の景色。青く覆い茂った小さな緑が一面に広がり、横にある切り立った崖からは沿う様にして風が通り抜け、二人の髪をさすった。

「……結構高いな、うぅ……」

 龍麻が身を震わせ、右腕を擦る。

 横にいた麻祁の視線が、今度は左へと向く。それに合わせ龍麻も左へと向ける。そこには地平に広がる緑と、その上にうっすらと揺らめく高層ビルの姿があった。

「あれがあの画像にあった……」

「あんなもの見たさにここまで来るとはな」

 微かに鼻をならし、麻祁がその場から離れる。龍麻は少しの間だけその景色を見続けた後、追いつくように走り出し、二人はトラックへと戻った。

 トラックに戻ると、何もなかった広場には機材が並べられていた。大きさに合わせ、一つ一つの塊となって纏められている。

「くっ……」

 篠宮がクーラーボックスを荷台から降ろし、片方だけ見える表情を歪めながら、紐を両手で持ち、移動をはじめる。

「いやいや、御苦労御苦労」

 麻祁が片手を上げ、軽い口調で篠宮に近づく。

「ぐっ……くッ!!」

 引きずるようにして運んできたクーラーボックスを大きく持ち上げ、地面に置いた。

「はぁ、はぁ……な、何が御苦労よ……。そんな所だけ敬われても嬉しくともなんとも……ないわ! 大体何が入ってんのよこれ! 爆弾でも積んでるの!?」

 大声を出し、クーラーボックスを篠宮が蹴る。

「わからん」

「はぁ!? ばっかじゃないの!? わかんないもの何でもかんでも詰んでんじゃないのよ!! 私だって準備することあるんだし、さっさと退けてよ! 邪魔なのよ!!」

 頭から蒸気を吹き上げる勢いで篠宮は荷台へと戻り、二人も後に続いた。

 荷台に載せられていた機材のほとんどがすでに降ろされており、ヒト二人が寝転べるぐらいの空間が出来ている。

「それじゃ私は準備するから、後は任せたわよ」

 そう言いながら篠宮が荷台へと上がり、奥からバッグを取り出しては、その開かれた空間にドシッと腰を下ろした。バッグを開け、中から部品を取り出し作業を始める。

「……っと」

 龍麻が荷台に上がり、端に寝かされていた三脚を外にいる麻祁に向かい、突き出すようにずらす。

 その横に並べられていたもう一つの三脚も、続けて麻祁のいる方へとずらす。

「……しょっと……あれ?」

 大きく膨らんだバックを引きずるようにして持ってきた龍麻の足が止まる。荷台には今だ三脚が二つ残されていた。その前に居たはずの麻祁がいない。

「あれ、麻祁は? どこに?」

 首を頻りに動かし、龍麻が降りる。その姿に篠宮は何も答えず、黙々とバックから黒い部品を取り出し、何かを組み立てていた。

「……あっ」

 龍麻が声を出す。助手席の方から麻祁が歩いてきた。片手には重たそうにザックをぶら下げている。

「なに?」

「なに? じゃないよ。ほら、この棒みたいなもの。運んでくれないと次の荷物が下ろせないだろ?」

「私に荷下ろしを手伝えというのか? 見ろ、ただでさえ、これぐらいの物も背負えず、こうしてわざわざ片手で運んできてるんだ。もしこの瞬間、体を痛めてしまい、今後の事に支障をきたすとした場合、代わりに動いてくれるのか?」

「私は死んでも嫌よ」

 相槌を打つように、篠宮がすぐに答えた。

「し、死んでもって……」

「ここで今頼れるのは一人しかいない、早くしないと日が暮れるぞ。ほら、さっさとどけろ、このスペースがいる、邪魔だ」

 麻祁が荷台にある三脚を指さし、道路の中央に並べられた機材へと向かい払う。

「めちゃくちゃだ……本当にめちゃくちゃだ、頭が……」

 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、龍麻が小声で何度も呟きながら、三脚の一つを持つ。

「それは軽いから二ついけるだろ」

 麻祁の言葉に、龍麻は一瞬動きを止めるも、顔を見合わせる事はせず、空いたもう片方の手で三脚を掴んだ。

「置く場所は適当でいいから」

 腕を垂らし、力のない足取りで三脚を地面すれすれに運ぶ。

 その後姿を、麻祁は見続ける事もなく背を向け、荷台に置いたザックの中を探り始める。

「力のある男ってのは頼れるねぇー」

「ふん、当然でしょ。そうでなければ――今頃生きていないわ」

 ザックの中から耳掛け式の黒のヘッドホンを三つ取り出し、一つを自身に、もう一つを篠宮、そして、最後の一つをゆらゆらと体を揺らしながら歩いてくる龍麻に渡した。

「へ、ナニコレ?」

 抜けたような声を出し、差し出されたものを龍麻が受け取る。

 二人は何も答えずにそれを耳につけると、その動きを見ていた龍麻も、見よう見まねで耳に付ける。

 麻祁は耳を覆う丸型のヘッドホンの表面を一度だけ軽く触れる。黒い体に、青い光が一点だけ灯る。

「あーあー、きこえるか?」

 麻祁の言葉に、

「……聞こえてるわ」

「……あっ、聞こえる」

それぞれが反応を示す。

「以後、会話はこれを通して行う。これがあればどれだけ離れても声が届くからな」

「本当だわ。この世の中で最も煩わしい声が耳元で響いているわ。……って、これ大丈夫なの? 声だけで周りの音が聞こえないんだけど?」

「声だけを鮮明に聴き取る為にそう作ってある。周りの状況に関しては自身の声で報告するしかないな」

「呑気な話ね。二人でわーぎゃー報告されても、うるさいだけなんだけど」

「遠くの方で一人わーきゃー騒がれても、どうしようもないけどな」

「…………」

 何かを組み立てる作業をしていた篠宮の手が止まる。細めた右目を麻祁に向けた。

「撃っていい? 断末魔がどれぐらいこの耳に響くのか試してみたいんだけど?」

「それなら撃たずとも聞かせてあげるさ。……あーいたい、じょこつにひびくー」

 両目をつぶった麻祁が、胸元に片手を当て、もう片方の手で脇腹を押さえる。

「鬱陶しいわね」

「とりあえず、渡す物は以上だ。後は任せたぞ」

 麻祁がザックの口を閉じ、それを背負い、トラックの右側に広がる山へと歩き出した。

「えっ? どこか行くのか?」

 龍麻の呼びかけに止まる事なく、声だけを返す。

「報告によると、目標はこの山から現れたらしい。待つのもいいが、それを下ろすのに時間がかかるだろ? その間に中に入って何かの形跡がないかを確認してくる。明るいうちにしか出来ないことだからな。ちゃんと全部下ろせよ」

「下ろせたって……」

 龍麻が荷台にへと目を向ける。そこは今だ動かされず待ち続けるいくつかの機材が乗せられていた。

 再び視線を前へと戻すと、すでに麻祁の背中はなかった。

「はぁ……」

 漏れる溜め息と共に、龍麻は荷台へと上がり、スイッチが剥き出しの銀色の箱型を手にし、持ち上げた。

「ぐっお……お、おもっ……」

 フラフラと体を揺らしながら、一歩ずつ荷台から道路へと降り、集めていた機材の場所に置く。

「腰が……いてて……一体何なんだあれは……」

 再び荷台へと上がり、今度は液体が入った白のポリタンクを手前まで移動させ、そのまま先に体を下ろす。

「くっ……これも重たい……一体何が入ってんだ……?」

「――ガソリンよ」

 持ち上げようとした時、横から篠宮が声を出した。

「ガソリン?」

「発電機を動かすためのものでしょ? ほら、さっき運んだ……」

 篠宮が視線や顔すらも動かす事なく、作業を続ける。

「あれにガソリンを入れて夜中ライトでも点ける気なんでしょ。……ほら、分かったならさっさと運んで。さっきから、はぁーはぁーはぁー耳元でうるさいの――なによ?」

 先ほどからジッと見つめてくる龍麻の目線に気付き、篠宮が手を止めた。

「いや、あの、それって……」

 龍麻が篠宮の手にしていたものを指さす。そこには黒で染められた銃が握られていた。銃口が上へと向き、銃身は槍のように真っ直ぐ天へと伸びる。備え付けられた二脚がブイの字を作り、さらにその存在を印象付ける。

「なに? これがどうしたの?」

 銃身の前に倒し、後部にあるボルトハンドルを上げては胸元へと引く動作を繰り返し、ガチャガチャと音を出す。

「それって銃? そういえば麻祁が狙撃って……」

「そうよ」

 平然とした口調で篠宮は答え、銃身の上に付けられた長く大きく伸びたスコープを覗き、再び銃口を上へと向けた。

「これで向こうの山から頼りないあんた達二人の援護をするの。どう、頼もしいでしょ? 見るのは始めて?」

「見るのは始めてかな……麻祁が撃ってるのは見たことあるけど、それより小さいし……」

「拳銃? あんな小型のオモチャと比べられると困るわ。これが正真正銘の狩るための銃よ。見てこの銃口、三十口径から撃ち出された毎秒八百で目標に届きどんなものでも一瞬で粉砕するの。それにこのボルトハンドルを見て、本当ならば側面に付いてるものなんだけど、私が一から設計して精密に組み立てたもので後部に付ける事で即座に次の弾を撃ち出せて、更にはこのチャンバーに装填される際は――」

 マシンガンのように次々と出される言葉の間に入ってくるカタカナの単語に、龍麻は理解が追いつかず、少し困ったような表情をし、頭を掻いた。

 息つぎもせずに鼻高々と話し続ける篠宮は、銃身を両手に持ち、

「――で、このスコープはこの前やっと購入したやつで、この銃と組み合わせることでより一層の力を発揮できると思うのよね。……どう試しに撃ってみる?」

龍麻へと向けた。

「えっ? い、いや俺はいいよ……」

「そう、まあその方がいいわね。勝手を知らない人が使ったら、怪我する場合があるしね」

「怪我って?」

「例えば、反動で顎に直撃してそこが折れたり、ひどい時じゃ額に当たって脳震盪とか、まあ、肩の骨は外れるかも」

「結構危険なんだ……」

「扱いさえ慣れれば心配ないわ。大事なのは、その銃の癖を知ることね。下手に触れるから痛い目見るのよ。初対面の人に命預けれる? まあ、私の銃は私が生み、育てた親みたいなものだから、絶対的信頼があるんだけどね」

 篠宮がスコープを覗き、後部にあるボルトハンドルを何度か動かし音を出す。

「それって今組み立てていたけど、わざわざバラバラにしてから持ってくるの? 最初から組み立てていた方が早く使えるんじゃ……?」

「手早く撃ちたいならそうだけど、別に急いでもないしね。大体、近場でなら調整してそのまま持ってきていいけど、遠くからわざわざ来るのに手持ちするなんてバカのやる事だわ。こんなバカデカい銃、カバーを掛けたって目立つし、大体、事前に調整っつたって、車とかで移動した場合、震動やひどい時なんて僅かな熱や気圧だけでも部品の一部が歪んで精密も粗雑になるってものよ。それを触って確認もせずにそのまま使うなんて、正気じゃないわ」

「やっぱり調整みたいなのがいるんだ。拳銃のようにすぐに出して撃っても真っ直ぐ飛ばないものなのか?」

「飛ぶことは飛ぶわね。でも、遠くにいる目標を狙う際には色々と変わってくるのよ。例えば、今この距離で私が久柳龍麻を撃つとして、撃ちだす銃口と久柳龍麻までの距離の間に壁になるような障害はないでしょ?」

「壁……そりゃなにもないけど」

「でも、それが八百メートルとか、そういうながーい距離になると、銃口と久柳龍麻の間に壁が現れる。それは風やら温度、状況によっては湿度で発生する僅かな水分ですら、突き進む銃弾の障害となって邪魔をするの」

「湿度も? それじゃかなり難しいんじゃ……」

「だから目標を確実に届いて、そして的確に一撃で仕留める為に調整が必要になってくる。まずは銃そのものが歪んでいたら、全く話にならない。だから、大事なことなのよ。……まあ、観測手が居れば多少補助はしてくれるでしょうけどね。私には不必要だけど」

 篠宮が銃を置き、バッグから弾丸と小型の弾倉を取り出し詰め始める。

 その光景に龍麻の目が自然と見開いた。

 篠宮の指や手よりも大きい弾丸が、まるで飲み込むように次々と弾倉へと消えていく。

「何それ……? それがその銃の弾なの? 一体何センチあるんだよ……って、いくつ入るんだ……」

「大体十発ぐらいよ。――試し撃ちは向こうの山から、この場所を目標にして撃ってみるわ。麻祁式の事だから、なんかの的ぐらいは用意してあるでしょ。無ければ、また適当に用意お願いね、ペットボトルでもいいわ。後、初弾は必ず外れるから、もし当たったら御免なさいね、私のせいじゃないから」

「えっ? 何それ? 当たることあるの!?」

「あるわよ、よほど運が悪ければね。まあ、的に近づかなければ、そうそう当たらないんじゃない? ちなみに、撃ち出した弾丸は音より先に飛ぶから、もし直撃の場合は当たった事すら知らないまま楽に逝け――」

 突如山から鳴る数回の発砲音。

「――えっ!?」

「………」

 龍麻がその音に反応し、そして篠宮も顔を山の方へと向けた。

 風が吹き、木々の葉がガサガサと騒ぎ始める。

 篠宮は何も言わずに、手にしていた弾倉を銃に入れるとそれを置き、運転席の後部へと移動し、窓を数回叩いた。

 その瞬間、エンジンが掛かり、車体が僅かに揺れ動き出す。

 篠宮は銃を手に取り、山の方に体を向け、一人うろたえる龍麻に向かい声を掛けた。

「久柳龍麻、早く乗って」

「――えっ? の、乗れってどこに!?」

「荷台によ、動くわよ」

「ちょ、ちょっとまって!! この荷物は!?」

「そんなの下ろさなくていいから、早く!」

 急かすような言葉に、龍麻はポリタンクを少しだけ奥へと押し、乗り込んだ。

「この部分は!? 戻さなくていいのか!?」

「そんなもの邪魔なだけよ!」

 板金を戻そうとする龍麻に声を張り上げ、篠宮が手にしていた銃をトラックの右側へと突き出した。

「久柳龍麻! これを付けて私の背を支えて! 絶対に顔を私の肩の位置に合わせちゃダメよ!」

 篠宮がスカートのポケットから二つの耳栓を取り出し、一つを龍麻に渡した。

 言われるがまま、片方の耳にそれを付け、龍麻が篠宮の背中に潜り込む様に体を寄せる。

 銃身を板金に乗せ、両膝を曲げては側面を蹴り、銃を構える。

「一体何が来るんだ!?」

 異様な雰囲気に焦る龍麻、しかし篠宮はいつもと同じような口調で答える。

「さあね? 気になるならヘッドホンの向こう側で何も言ってこない麻祁式に聞くことね」

「ハッ!? そ、そういえば麻祁は!? おい、麻祁! 何があったんだ、おい!!」

 何度も龍麻が呼びかけてみるも、返って来る言葉は一つもない。

 言葉を止めると同時に、その場が一気に静まり返る。聞こえてくるのは、ただ響くエンジン音と風に反応し靡く葉音だけ。

 再び包む異様な雰囲気。篠宮の両肩を掴む龍麻の手に自然と力が入る。そして、スコープを覗いていた篠宮が叫んだ。

「――来た! 龍麻! 撃つって言ったら構えて! 撃ッ!!」

「――えっ、なイッテッ!!」

 爆発するような音と同時に、構えた銃から煙が立ち上がり衝撃が走った。

 その勢いに耐え切れず、瞬時に動く篠宮の右肩に、龍麻の体はそのまま後ろに倒され、後頭部を荷台へと叩き付けた。

 車体が微かに揺さぶるも、篠宮は動じる事なく、後部のボルトハンドルを引いては弾を出し、舌打ちをした。

「ッチ! 外した! スコープが邪魔!!」

 突き出す銃身を下げ、仰向けの状態のままスコープを慌しく外す。 

「い……いつつ……一体何があったんだ……うえ……」

 同じく仰向けに倒れていた龍麻も片手で頭を押さえては体を起し、一緒に寝ていた篠宮の体を起した。

 篠宮は外したスコープを荷台の奥へと放り投げ、再び同じ態勢で構える。

「もう一発撃つ。今度は外さないわ!」

「えっ!? 撃つってもう一回あれが来るのかよ!?」

 目元に涙を浮かべた龍麻が今度は両腕を篠宮の腰に回し、しがみ付くような姿勢をとる。

「心配しないで、三度は無いわ……」

 覆っていた髪と赤のヘアピンを右へと移動させ、左目だけを出す。

 紅く染まるその目が、後部に少しだけ飛び出たサイトを通る。

「来る!」

「――!?」

 その言葉に龍麻の手に力が入るも、爆音は聞こえてこない。

 制服の後ろから顔を覗かせ前を見る。そこには一直線にこちらに向かい走ってくる、麻祁の姿があった。

「あ、あさ――」

「撃ッ!!」

 再び鳴る爆音と巻き上がる煙。同時に下がる右肩に龍麻は後頭部を荷台へ打ち付けた。

「いてぇえーー!! ああーー!!」

「ッチ! 耳元でうるさいわね!!」

 舌打ちと共に篠宮がボルトハンドルを引き、弾を出す。

 駆け寄る麻祁はトラックに近づくと、

「下手くそ」

荷台へそう一言呟くと、助手席の方へと乗り込んだ。

「あんたもうっさいわね!! 私が仕留めたのよ! 見てみなさいよ!!」

 銃を片手に持ち、篠宮は立ち上がると同時に左足で荷台を勢いよく踏みつけ、外を何度も指差す。そこには、体毛の生えた黒い色の大きな生物が倒れていた。吹き上がる鮮血が徐々に血溜まりを広げる。

「あれは私が撃った弾が死因。篠宮が撃った二発は私の横をかすめた」

「それは惜しいわね、当たれば良かったのに」

 トラックの動きに合わせ、運転席後部の格子を掴んで立っていた篠宮の体が少しだけ動く。

 車が過ぎ去った後、残された血溜まりを踏み越え、黒い体毛の濁流がその後を追った。

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