Luxlunae

二節：依頼内容

　目の前に山が見える。とてつもなく大きい山の下には小さな家々が立ち並び、その前には広大な田んぼが広がっていた。緑の隙間から見える水面が空の景色を映し、より青々と光っている。その脇には細い道が長く走り、そこを小さな白の軽トラックがゆったりと走って――。

　瞬時に流れてくる壁によりその景色は隠され、今は灰色しか見えない。俺は運転席の方に背中を向け、そのまま寄せた。

　左右では忙しく景色が流れ、正面では俺達を追いかけるように黒い車が後に続き走ってくる。中の人がどんな顔をしているか気になり見ようにも、サングラスを掛けて表情まで見えない。

　黒い車は左にウインカーを出すと、一気に速度を上げながら俺達の左側を通り過ぎていった。

「はぁ……」

　ふいに出るため息。しかし、横を過ぎ行く風の音により、それはすぐにかき消された。これで八台目か……。

　この軽トラックの荷台に乗ってからというもの、あれからかなりの時間を走っているが、今だに止まる気配がなく、それどころか今、俺達は高速道路を走っていた。

　走り始めた頃は、真横をビュンビュンと勢いよく通り抜ける風に驚き、運転席後部にある窓の格子にしがみ付いていたが、今では慣れてしまい、外を眺めるまで余裕ができてしまった。一体この車はどこへ行こうとしているのだろうか……？

　横にいる今だ名前も知らない女子生徒に目を向ける。乗った当初と変わりなく、俺とは反対の方向に座っているその生徒は大切そうにバッグを左側に置き、一切喋る事なく、前を見続けていた。短い髪がバタバタと頭で激しく靡いているが、気にする様子など見せない。

　格子を掴み、運転席の後部に付けられた窓へと目を向ける。

　窓から見える車の中。伸びた銀髪が一切揺れることがないことから、如何に車の中が平穏で保たれているのかが身に染みて伝わってくる。

　二人は顔を正面に向けたまま時たま口を動かせ、そして麻祁が前に向かい腕を伸ばした。

　それは何かを指示しているようにも見える……が、周りの風が騒ぎ立てるものだから、全く集中が出来ず――とても考えられる状況ではない。

　格子から落ちるように崩れ、背中を運転席へと向ける。

　九台目の赤い車が左を通り過ぎていった。

――――――――――――――――

　広大な駐車場に様々な大きさの車が止まり、斑な模様を作り出す。その中に、機材を積んだ一台の軽トラックがトコトコと現れ溶け込んだ。

　エンジンを止めるや否や、運転席から男は降り、そのまま売店の方へと歩いていった。

　それに続くように、今度は助手席から白い半袖の制服を着た女が降り、荷台の方へと歩き出した。

　風が吹く度、長く伸びた銀髪が背負う大型のザックの存在をちらつかせる。

　女は軽トラックの後部に移動すると、両端を止めていた金具を開け、仕切っていた板金を下ろした。背負っていたザックを重たそうに荷台へと乗せる。

　その瞬間、置かれたザックに集まるように、運転席近くに座っていた二人の男女が立ち並ぶ機材をかき分け、這うようにして近づいてきた。

　一人の男は今起きている状況が飲み込めないのか、どこか抜けたような表情をし、もう一人のショートボブの女子生徒は、前髪で隠れていない右目を細め、不審な表情を浮かべていた。

　それぞれの視線が外にいる女子生徒に注がれる中、先にショートボブの女子生徒が口を開いた。

「さあ、早く説明しなさいよ、麻祁式！」

　名前を呼ぶと同時に、叩いた荷台から鈍い金音が上がった。

　麻祁式と呼ばれた銀髪の女子生徒は何も言わず、前にある緑のザックを開き、中から四つ折にされた一枚の紙を取り出した。

「邪魔」

　ドンっと置かれた右手を押し出すようにして退かし、その紙を広げる。そこにはいくつもの湾曲する線が描かれていた。

「……これは？」

　広げられた紙を見ていた男が麻祁に聞く。

「目的地の地図」

「地図……たって……」

　男がもう一度、地図に目を向ける。

「で、場所はどこ？」

　地図から目を離さず、ショートボブの女子生徒が麻祁に問いかける。その言葉に答えるように、地図に描かれたある曲線に人差し指の先が向けられた。

「ここが目的地」

「……なるほどね。――となると……」

　マジマジと指先の当たる場所を見ていたショートボブの女子生徒が一人頷く。

　その光景に、ただ呆然と置き去りの男は、黙ったまま地図に見入る二人のつむじを交互に目を向けた後、口を開いた。

「目的地っても、線ばっかりで全く分からないんだけど……どこの地図なんだ？」

「これは山の標高を表したものよ、久柳龍麻。もう一枚あるんでしょ？　さっさと出しなさいよ」

　久柳龍麻と呼ばれた男が驚いた表情を女子生徒に向ける。

　それに対し、気にした様子も見せない女子生徒は急かすように、細めた視線を麻祁に向け続けていた。

　一方的に送られてくる視線に、麻祁の態度は変わる事なく、新たな紙をザックから取り出した。

　ガサガサと手元で広げられていく紙を見ていた女子生徒が、

「……なによ？」

龍麻の視線に気付く。

　睨むように覗く片目に一瞬怯むも、龍麻はすぐに答えた。

「……え、いや、あの……どうして名前を知っているのかなって……」

　その言葉に女子生徒が不思議そうに首を傾げる。

「当然でしょ？　あの麻祁式と一緒に行動しているんだから、名前なんて歩いているだけで自然と情報として流れてくるわ」

「麻祁ってそんなに有名なのか……」

「有名？　よくわからないけど、次に死ぬのは久柳龍麻と言う人物、それが確実なだけよ」

「えっ？」

　思わぬ言葉に龍麻が不穏な表情を見せる。だが、女子生徒は顔を戻し、新たに広がる紙に目を向けた。

　線図に重ねるように新たな地形図が置かれた。それは航空写真のように、森や道路などが区別つけれるように色付けされたものだった。

「今回の目的地はここ」

　麻祁の指先がある場所を指す。それは緩やかに湾曲し、森に挟まれる道路だった。

　続くであろう先は途中で無くなり、その先端にはいくつもの機材などが映されていた。

「この道路に何が？」

　龍麻の言葉に、女子生徒が答える。

「開通工事してる高速道路ね。この先の道から考えると、灯越辺り」

「そう、そこが今回の目的地。依頼の場所だよ」

「依頼って何の依頼なんだ？　何かの施設みたいじゃないし、地図を見ても周りは森で道路以外には何も……」

「ふん、どうせロクでもない依頼よ。この場所、最近じゃ死亡事故が多発しているみたいじゃない」

「えっ？　死亡事故って……」

　龍麻の言葉に、女子生徒が少しばかり呆れたような表情を見せる。

「はあ？　知らないの？　まさかテレビやネット、やってないの？　やってたら絶対どこの掲示板で目にするはずよ？　ちょっと時代遅れじゃない？」

　不意の言葉攻めに戸惑う龍麻を助けるように、麻祁がすぐさま声をかけた。

「彼、旧石器時代だから」

　その言葉に女子生徒は、ああ、と頷きながら、目を逸らした。

「それならしかたないわね……、悪かったわ……」

　女子生徒が頭を下げる。突如しんみりとした雰囲気に、どうしていいのか分からない龍麻は何か言葉を繋げようとした。

「いや、あの、そんな――」

「まあ、知らないならどうしようもないわね。何が起きようと動揺しないことね。死ぬなら勝手に死ねばいいわ。で、内容は？」

　矢継ぎ早と龍麻の言葉を断ち切った女子生徒は、顔を上げると麻祁に問い掛けた。

　一人残された龍麻は行き場を失い、伸びた右手と視線をゆっくりと地図に下ろした。

「篠宮が言った通り、今回の依頼はそのネットで騒がれている事が関わってくる」

「騒がれてるって言ったって、俺、その事を知らないんだけど、かなり危険な場所なのかここは？　一体何があるんだ？」

「これと言って楽しめるものは何もないわよ。強いて言うなら、夜景が綺麗なだけじゃない？」

「夜景？　それって別に危険でもなんでもないんじゃ……」

「それを目的で行った人間のほとんどが、車を残したままその場所で死んでるんだよ」

「し、死んでる！？　な、なんで！？」

　目を見開かせて驚く龍麻に、二人が呆れたようにため息を吐いた。

「それが分からないから、調べるのが私達なんでしょ。……本当に大丈夫なの？」

　女子生徒が麻祁に目を向ける。それに対し、麻祁は首を軽く傾げた。

「一時テレビでも騒がれていたが、ここに行くための道は国道との分岐点になってるため、誰でも容易に行けるようになっている。それで一般人が入り込み巻き込まれた」

「境目に壁は？　さすがに侵入避けぐらいはあったんでしょ？」

「壁じゃなくて簡易的な通行止め。写真で見たが三角コーン二つにポール一本だよ」

「何よそれ？　全くぬけた話ね。昼じゃなくても、夜中に動かすバカはいるんだから、壁ぐらいは立てるでしょ？　一般どころか、誰かに荒されたり、盗人が道具持っていくかもしれないってのに」

「盗まれても道中は一本道だしカメラがあるからな。ナンバーは割れるし、もし偽造だとしても、そもそも盗むほどのものは置いてない。だから、簡易的な車止めしかなかった、というわけだ」

「それで勝手に入られて死なれるんだから、盗人よりも迷惑な話ね」

「……それで……その……景色ってのは……？」

　龍麻の声に女子生徒は視線を合わせた後、ふと息を吐いた。

「事の発端はネットからの情報よ。どこかのバカが勝手に入り込んで、アホみたいにここまで来てその光景を流したの」

　真っ直ぐ伸びる細い指が地図に描かれた道を辿り、機材の置かれた場所まで辿り着くとそこで数回弾んだ。

「地図では見えないけど、こっからこっちへ目を向けると、ここにある街が夜になると明かりを灯して真っ直ぐ光の線が出来るの。――携帯持ってない？」

「えっ、携帯……」

　龍麻がズボンを触り、黒の携帯を取り出す。

　それを受け取った女子生徒は親指を頻りに動かし、地図の上に置いた。

　そこに映し出される画像。それは一筋の光線が黒い画面の中心で横一字に走り、その上では生えるようにして眩い光を放つ高層ビルがいくつも頭を伸ばし合っていた。

「この画像が出回ったことで、暇な奴らが無断で入り込むようになったのよ」

「でも……さすがにそれじゃ警察とか呼んで止めるんじゃない？　だって工事の邪魔にはなるんだし、そんな大勢で観光ってわけにも……」

「来るのは夜だけなのと、場所が場所だけにわざわざ進入禁止を無視して来るのは数人しかいなかったみたいだ。確かに荒らされたりしたら次の日の工事に影響するから、さすがに対策は考えるだろうけど――まあ、それも次の日に仕事があるならば。の話だけどね」

「どういう意味なんだ？」

「誰かが入る前に、その場所の工事が中断されていたって事よ。多分、実際に工事していた人間も襲われたんでしょ」

　呆れたように女子生徒が鼻を鳴らす。

「その通りだ。現場関係者に聞いた所、昼間にも関わらず事故死と行方不明が相次いだらしい。事故死のほとんどが落下死で、残りの行方不明者は遺体すら見つかってないから原因は不明だ。ちょうど工事の場所が崖になっていて、そこから落ちたらしい。幸いというわけじゃないが、その下は深い森と斜面になっているから、上から覗き込んだだけじゃ、そこに落ちたやつらの死体や車などは確認できない。深夜に入り込んだやつらの死体と車も回収できずにいるから、木が枯れない限りは発見はほぼ無理だな」

「死因のほとんど、って事は、他にもあるんだ。他の死因は何なの？」

「極少数だが機材などに潰されての圧死に、路上での全身打撲、後、体の一部が欠損しての出血死」

「ふん、案外パターンは一緒ね。で、その元凶は誰も見ていないの？　それぐらい死んでいれば一人ぐらいは見てるでしょ、その瞬間ぐら――」

「猪だ」

　麻祁の言葉に、女子生徒の言葉が止まり一瞬の間が空く。……そして、

「はあああああーーー！！？」

大声が車体を揺らした。

「猪ですって！？　ふざけんじゃないわよ！！」

　上がる右手が、置かれた携帯の横へと叩きつけられた。

「わあっ！！」

　声と共に龍麻は携帯を取り、胸元に抱えた。

　女子生徒は麻祁に視線を向けたまま言葉を続ける。

「あのね、私は猟師じゃないの！　いい！？　この前もそうだったけど、やたら遠くへ連れて行くと思ったら結局着いたのが山の中よ？　それから数日間今度は小屋で缶詰にされたと思ったら、最後に出てきたものは何？　訳も解らないただバカデカい生物よ！！　バッカじゃない！？」

「あれは鹿だ」

「なんでもいいわよ！　あのね、どっかの野生生物狩るなら猟友会ってのがあるんだから、そこに頼みなさいよ。わざわざなんで私が呼び出されて狩らなきゃいけないの？　やるなら二人でやればいいわ、私はここで降りる！」

「降りるのは自由だが、今回の依頼は企業や個人ではなく、県からの直接的な依頼だ。道路建設に阻害が起きてる今、工程通りに物事が進まなければ途中でも断念せざるえない。そうなると利益ではなく、損害だけが残り無駄な結果になってしまうからどうしても開通はさせたいんだと……だから報酬は多めに出るんだが――」

　話の途中、女子生徒は一呼吸置き、ふん、と鼻を鳴らすようにして両腕を胸元で重ねた。

「――それならやるしかないわね。で、そのイノシシ一匹がやったの？」

「目撃者の話だと、工事中にある一匹のイノシシが機材に突っ込んで来たらしい。その際、一人が巻き込まれて一緒に崖下へと落ちていったと。話によれば、近くに複数群れを成しているのを見た人がいるらしく、次の日に現場に行けば機材に妙なへこみが出来ていたり、雨上がりに何かを引きずった泥の後が残っていた事から、それにやられたのではないか？　という話だ。ちなみに大勢で居る時にも襲われたようだが、その時全体が混乱していて原因を直接見たという人物は誰もいなかったようだ」

「カメラは？　それぐらい頻繁に襲われていたら、さすがに一台ぐらいはつけるでしょ？」

　女子生徒の言葉に、麻祁は首を揺らした。

「ああ。それも既に実行済みだ。結果はやはりダメだったみたいだ。メモリーまでもが見事に破壊されて映像は消えていたようだ。ネットを使って遠くから遠隔撮影も試そうとしたらしいが、肝心の電波塔そのものが立ってないから回線が繋がらないんだと。衛星とのリンクの案もあるが、さすがに経費から考えて却下という事だ」

「ひと一人が死んで工事もマトモにできないってのに、その対策の費用を極力抑えるなんてケチな話ね。それで、結局、正体の掴めないまま私達に任せると。で、この荷台に乗せている機材は何？　高速から降りるたびに一個ずつ増えて邪魔なんだけど？　今じゃ足を伸ばす場所もなくて窮屈よ」

「それは夜過ごす為に明かりだ。泊りがけの二十四時間体制で経過を見る。昼は工事と太陽光だが、夜はエンジンとライトだからな。今から向かえば大体夕方か夜はになるから、灯りが必要になる」

「車は？　これがあるでしょ？　十分使えるじゃない」

「それだと帰りに困るだろ？　餌に使ってもいいが、街に戻るまでに三、四時間は掛かるかもしれないぞ？　夜はこの照明と発電機を使い誘き寄せる。車は別の場所で待機。携帯は使えないから、明日の昼に来るよう伝えてある。――他に質問は？」

　麻祁が二人に目を向けると、女子生徒は、無し、と呟いた。

「じゃ、大まかな段取りだけ伝えておく」

　麻祁が地図である場所を指す。それは緑の山林に挟まれ、微かに覗き見える工事途中の道路の果てだった。

「まずこの場所へと向かい、荷台にある機材を全て下ろす。全部下ろした後は、私達はこの場所で目標が出るまで待機する。一応いつ出るかは分からないから夕方は機材を動かし辺りの様子を窺い、夜になったら明かりをつけて、録音したエンジン音を流す。これで襲われた人達と似たような状況の完成だ」

「その後は私ね。私はこの場所で待機しておくわ。ここなら見通しも良さそうだし」

　女子生徒が道路の向かい側にある山を指した。

　麻祁が差してある指に顔を近づける。

「見る限りは道は無さそうだが……まあ、行ける所まで頼んでみる」

「はっ？　頼むって……雇った運転手はどこまで知ってんのよ？」

「――何も。ただ言った場所に向かってくれって」

「それだけ？……まあ、それがいいわね。無駄に情報を与えても仕方ないし、そもそも私達すら知らない事ばかりなんだし――話は分かったわ。それじゃ行きましょ」

　一人納得したのか、声を出した女子生徒は立ち上がり、並ぶ機材の裏へと再び姿を隠した。

　麻祁はその様子に気も留めず、前に広げていた地図をせっせと片付け始める。

　機材の裏に消えた女子生徒、そして、下ろしていた板金を上げ、助手席の方へと移動を始める麻祁。

「ちょ、ちょっと待てって！」

　焦るようにして龍麻が声を出し、荷台から飛び降りると、助手席に座ろうとする麻祁を止めた。

「なに？」

　麻祁が面倒くさそうに返事をし、車から足を降ろす。

「さっきから二人で何か納得して話し終わってるけど、俺には全く意味も分からないんだが！」

　その言葉に、麻祁の眉根に皺が浮かんだ。

「それはあの時質問しなかったお前が悪い。これから気になることがあったら、遠慮せずに聞くことだな。今回は時間も惜しいから、準備している間に説明する。――わかったらさっさと戻れって、ここで一人待ってるか？」

　邪魔者を払うように左手を一回だけ軽く振り、麻祁は車内に戻ろうとする。

「ちょっ！　最後に一つだけ聞きたいことが！」

　龍麻が中に入り込もうとする左腕を掴んだ。

「何？　明日の天気？」

　麻祁は掴まれた腕を振りほどき、ドアを閉めた。

「さっきから横にいた女子生徒。椚高の制服は着てるし、俺の名前も知っているわで一体何なんだ？　それに麻祁のことだって――」

「あれは椚高に通う生徒で篠宮藍って名前だよ」

「しのみや……あい？」

「ああ、そうだよ」

　麻祁がドア横にあるレバーを回し、窓を上げ始めた。

「その人がなんで……」

「私達だけでやってもいいが、何が出るか分からないからな。こういった場所だと相手が気付かない状態でこっそり仕留める方が楽なんだよ」

「楽って、一体何する人なんだ？」

「狙撃」

　キュルキュルと音を立て、二人の間をガラスが遮る。

　その瞬間、エンジン音が鳴いた。ゆっくり車が前に走り出す。

「えっ？　お、おい！　待てって！」

　叫ぶ龍麻を無視するように車は足を止めない。

　龍麻は膝と息を上げながら、必死に車の縁に掴み両手に力を入れ飛び乗った。

「ぐっ……ふぅふぅ……」

　横になる体を起こし、手と顔を荷台から覗かせる。――白の車が風を巻きながらその横を通り過ぎていった。