epilogue? そして、譁ー縺溘↑繝励Ο繝ュ繝シ繧ー縺ク

ひとつの、空の終わり


今そこに、

空を駆け抜ける「物体X」がある。


それは、おそらくこの世界では誰もが見てきた、

いわゆる『飛空艇』と似てると言ったら怒られそうなくらいの代物だけれど、

「空を飛んでいる」という点では、確かに似ていると言えるかもしれない。


今はほとんど風が吹いていないので、それはほとんどバランスを崩すことなく、

最も飛行が安定する体勢を保ち続けたまま、風に乗るようにして目的地へと向かっている。


今日の風は、いちだんと弱いから、全く何事もなく目的地にたどり着けるだろう。

そう、確信していた。

もちろんそれは、確かな自信、確かな信頼に基づいたものだ。


空を鳥のように浮遊しているかのように見えたそれは、

やがて風に乗ったまま、とある灰色の建物の小さいまどに、その機体を反射させる。


やがて見えてくるのは、その小さい窓の向こうにある、ふたつの人影。

そして、そのまた向こう―ガラス張りになった仕切りの奥の部屋には、もうふたつの人影。


手前側の部屋にいる、ふたつの人影は、

なぜか泣きながら、抱きしめ合っている。


ガラスを隔てて向こう側の部屋にいる、もう二つの人影は、

その様子を見ながら、呆れたような、それでいて安心したような、

そんな何ともいえない表情を浮かべている。


そんな言い方をすると、それらがあたかも意志を持った生命のように聞こえるかもしれないが、

まあ、そうである。

そしてその一つひとつは、確かに、別々の夢と、希望を持っている。

いつ叶うのか、そして本当に叶うのかさえ分からない、漠然とした希望を。


ふらふらと風に乗ってきた機体は、やがてその窓の向こうの人影からは、

ちょうど死角になるような場所に隠れて、窓の向こうの様子を映し出している。


締め切った窓からは、どんな声すらも拾うことはできない。

ただ言えるのは、その声を拾ってもきっと、なにも面白くはない、ということ。


その様子を映し出していた機体は、

やがて使命を終えたかのようにスッと踵を返して、もとの場所へ音も立てずに戻っていく。

さすが、最新盤……なのだろうか。消音性能は、悪くはないと思うのだけれど。

今度きちんと、確かめてみよう。


機体はまた、当てもなく飛んでいるように、風に乗っているだけのように見えて、

確かに目的地、スタート地点へと戻っていく。

そこにはきちんと、生えそろった翼がある。


「今日はあんまり、良い画が撮れないです」


確かに、その窓の向こうに映っていたのは『彼女』たちだったが、

その姿はあの時の姿と、全く変わらないように見えた。

いや、元に戻った、と言う方が正しいかもしれない。


バタバタと、着実に手元に戻ってきた小型の【ドローン】を指先でキャッチし、

電源を切る。お務めご苦労様。

でも今日はあんまり面白くはなかったから、充電はしてあげない。


ああそれで思い出した、あの執事は何をしているの。

私は何度も呼んでいるというのに。いつもならすぐ、駆けつけてくれるのに。


その場で私は空を仰いで、今は蒼いはずの虚空を見上げてみる。

いくつもの形容できない形を成していた雲は、時間の流れによって、その形を変えていく。


もちろんどの雲も、いつまでも同じ形をしていることはない。

いや、1秒、0.1秒、もっと短い間隔ごとに、その形を変化させているのだろうか。


そうだ、人間の『記憶』もそんな風に。

作られては消え、作っては書き換え、それらはただの塊になり、

ばらばらの雨になって降ってくるようなものでしかないはずだ。


今しがた見た雲が、さっきとは全く異なった形で、青空をただよっている。

その下を鳥が、いつもと同じ形で、海の上を滑降している。


太陽の方角に合わせて沈んでいくのは、おそらく誰もが『限りある時間』というもので。

その『限りある時間』という翼を背負った鳥は、はるか彼方の地平へ消えていく。


地平へ消えていく鳥は、地平へと近づくにつれて、

空だけではなく、海と一体になっていく。


いつかやがて、地と空の真ん中に溶けていくことになる、鳥。

鳥の目的地は、決してたどり着くことのできない、

見る位置によって、異なった二つの言葉で形容される、一本の線。


そこは、ここからは遠すぎて、近すぎる場所。

そこは、空と、海が交じり合う場所。


不完全な、逆説(パラドクス)。




そこは、多くの『飛空士』が、永遠に目指してやまない場所。



そう、そこは


消えてしまったはずの大切な『記憶』に、もう一度出会える場所―


















                                                             ―『空と海の手記』 より―

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空と海のパラドクス プロキシマ @_A_

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