prologue
海岸線に、一つの波しぶきが上がった。この穏やかな海に流れが発生した。
海と空を分けるそれはまるで画家が描く幼子のように。
一つの大きい飛空艇は、人々の注目を集め、大空に弧を描いてやってくる。
さっきまで雨が降っていたのに、今しがた出た虹が飛空艇の進む道を作る。
誰かの投げた帽子が、海の上で寂しそうに浮いている。
ついにこの時が来てしまった。今までとても待ち遠しかったけれど、逆に怖くもあった。でも嬉しかった。
こんな立派な飛空艇を見るのは何年振りだろう。
初めて見たときも感動を覚えたのは記憶にあるけれど、あの時からの乱れた記憶に終止符を打てる時が来たのだ。
高さは計り知れないほど大きく、プロペラのある意味胸を躍らせる轟音は、見ている人を魅了した。
中には興奮しすぎて、意味もなく海に飛び込んでみたり、酒を一瓶一気飲みする人が大勢いた。この時を待ちわびていた人もいれば陰ながら応援する人と、様々だった。
その群衆の中でひときわ背の小さいアレン・フランツもその一人である。
―それはもちろん、この時を待ちわびていた一人として。学校の勉強なんか最近は特にどうでもよくなって、この日のための準備をしていた。
このツェレオン・グラッド(国内で最小の港街)に、隣町からも、大勢の人が駆けつけ、グラッド港は大変な盛り上がりになり、昨日の夜中から前夜祭(?)みたいなものが行われたり、夜も眠れなかった。
幼なじみのリラが、隣から笑いながらこう言った。
「…私はあんまり嬉しくないわ」
彼女の言葉の意味は何となく分かったので、尋ねないことにした。
地平線が見える。
大きい空の怪物に覆われ、それはいつもより大きくなったような感じがする。
激しい風に呑まれながら、胸をときめかせる。
港に打ちつけられた貝殻たちは、怯えて海の波とともに逃げ去っていく。
あの青々とした空の中で、気持ちとは裏腹に、太陽が少し、小さく見えた。
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