やさしいルルリリ

うんまい

優しいルルリリ


 真っ逆さまに落ちてしまいそうな、青い青い空のしたです。

ルルリリがうずくまって泣いています。

彼女はとても優しいのです。

だからまた誰かに哀しくされてしまったのだと。

シンシアはすぐにそう思いました。

シンシアはそんなのは嫌ですから、ルルリリが哀しくなるのなら、ぜんぶなくしてしまおうと考えつきました。

 だから校庭の角を吹きすぎようとしていた、小さなつむじ風を捕まえたのです。

尻尾のところをヒモで縛ると、いろんな場所へ連れていきました。

 ちょうど、風船をふわふわさせながら、スキップをするようにです。

するといつのまにか世界は、きゅうりとハムを混ぜ合わせたポテトサラダのようにぐちゃぐちゃでした。

シンシアはすっかりそうしてしまうと、ルルリリのもとへ駆けていきました。

息を切らしながら言いました。


「世界はわたしが、すっかりポテトサラダのようにしてやったわ!」


 ルルリリが伏せていた顔をあげました。

涙の球がからまるまつ毛を、たしたしと瞬きます。

そしてくしゃりと顔を歪めて言いました。


「かなしくても、ポテトサラダにしてはいけなかったのに!」


 そうして、いっそう、声をあげて泣き出してしまったのです。

ルルリリは本当に本当に優しいのです。

ルルリリがあんまり優しいので、シンシアはときどき傷ついてしまいます。

 シンシアはすっかり途方に暮れてしまいました。

でももう、つむじ風を離してやることくらいしかできません。

それでシンシアはつむじ風を放してやりました。

キュウキュルル、ドードー、と、つむじ風は逃げていきました。

 それからシンシアは、泣きやみそうにないルルリリのそばに、ずうっと立っていました。

ルルリリが一億年くらい泣いたので、世界はすっかり海になりました。

まだ逃げ回っているつむじ風が、尻尾のさきで波をおこしました。

あらゆるものがぶつかりあいます。

 シンシアはずっとルルリリの側にいたかったものですから。

波にさらわれて離れ離れにならないように、ルルリリの手を、そっととりました。

おかげで、ルルリリの目が溶けてなくなってしまっても。

シンシアの耳が海水に浸されて聞こえなくなっても。

肉が腐って削げ落ちても。

二人はずっと一緒でした。

 シンシアとルルリリの体もぶつかりあいました。

シンシアの目玉にルルリリの肋骨が刺さり、シンシアの頭蓋骨が、ルルリリの骨盤を打ち砕きました。

そうやって二人は、砂浜に、あるいは海に、あるいは草原になりました。

こうして、世界の二回目がはじまるようです。





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