第1章 命がけのダンジョン攻略

第1話 始まりは唐突に

 俺、タツキ帝都大3年21歳彼女無し、現在絶賛ニート生活を謳歌している。最近、ネットゲームに没頭中である。


 もともと、小学校、中学校、高校と親も厳しかったことや勉強や部活に時間をかけていた分、ゲームなどの娯楽に時間をさけなかったのだ。

 お陰で、クラスや部活の友達との会話を合わせるのには苦労していた記憶がある。まぁ、あの頃はあれで楽しかったから良かったのだが。


 それの反動なのか知らないが、大学に入ってできたゼミの友達に勧められたネットゲームに度はまりしたのである。その友達もあきれるレベルで。

 そんなこともつゆ知らずに大学の講義にも出ずに、毎日寝る間も惜しんでゲームをしている。そこは、勉強しろって?いや、一応日本でトップの大学に入ったんだから、しばらく勉強しなくてもよくないとか思いながら堕落した日々を過ごしていた。



 そんな、ある日ここ最近ゲーム機と化しているスマホに着信が入った。

「タツキか?いい加減授業に出て来いって。まぁ、今お前がそうなってる原因は少なからず、俺にある気がしないことも……ってことじゃなくてお前ゼミぐらいは来いって。周りの奴らも気にしてるし……」

「うるさいなぁ、今いいとこなんだから電話してくるなよ。次のゼミっていつだっけ?てか今日何曜日?」

 電話の向こうからため息が複数聞こえてきた。いつものメンバーそろって電話聴いてるのかよ。趣味悪いなぁとも思いつつ、奴らは大学内で気の許せる数少ない友達だ。

「おいおい、大丈夫かよ。今日は火曜日だぞ。それと、次のゼミは金曜日だから絶対来いよ」

「わかったよ。じゃあ、金曜の夜に飲みに行こうぜ。俺のおごりでいいから。」

「オッケー。絶対だからな。ほかの奴に、伝えとくよ。」

「サンキュ。よし、てことは今日から2徹は余裕でいけるな」

 やれやれという、友達たちのあきれた声には耳を傾けずに電話を切った。


 翌日からはこれまで以上にゲーム三昧日々だった。ごはんと風呂以外の時は基本的に何らかのゲームをしていた。

個人的にマイブームはMMORPGだった。なんといっても、モンスターを倒したり、複数人で大型のボスを倒すのは爽快だった。

ストレス発散になるし特に好きだった。というかここ最近は家を出てないからストレスも何もないのだけれど。


金曜日の朝、久しぶりにちゃんと起きて大学に足を運ぶ。そこで、少し懐かしい声を聞いた。

「タツキ、やっと来たな。心配したぞ。これからはもう少ししっかり来いよ」

自分の取っているゼミの教授だ。軽く会釈をして愛想笑いでその場を乗り切ることに成功した。


その日の講義はとにかくしんどいの一言だった。久しぶりの大学で身も心もクタクタだった。その後は、ゼミのメンバーと居酒屋に直行した。

たわいもない話で盛り上がり、ビールを飲むペースも上がっていった。

「タツキ、もう少ししっかり来いって。教授も心配してたし、俺達も少しは心配なんだからさ」

「教授には声を掛けて貰ったよ。なんか申し訳なくてそそくさとその場から逃げちゃったけどな。あと、少しってなんだよ」

「とにかく、ゲームはほどほどにな。やるのはいいけど今のままじゃただのニートだぞ」

その言葉で場がどっと笑った。いやいや、それってマジで洒落になってないから。やっぱり、周りから見たらそんな風に見えているのかと思うと少し虚しかった。

「へいへい。あ、おばちゃん生ビールお代わり」

「はいよー」


いつも、ゼミのメンバーと飲む時は決まって同じ店だった。なんせ、ここのおばちゃんが気前がいいというのが1番なのだが。

「そろそろ、止めとけよ。体調崩すぞ」

「いいんだよ。明日は休みなんだから。今日はとことん飲むんだよ。お前もお茶ばっか飲んでないで付き合えって」

「苦手なんだからしょうがないだろ。あと、俺明日1限から1つ授業あるから今日はパス。また、今度付き合ってやるよ」

そういいながら、相変わらず烏龍茶ばかり飲んでいる。


その後は、もう一軒はしごした後、フラフラになりながらアパートの自分の部屋まで帰ってきた。

その日は久しぶりの講義やゼミもあったためか、それともただ飲み過ぎただけか定かではないが途轍もなく眠かった。

風呂は明日の朝でいいやと思いそのままベッドにうつ伏せで倒れ込んだ。



翌日、前日の飲み過ぎのせいか頭が痛くて目が覚めた。水を飲んでシャワーを浴びよう。そう思って立ち上がって辺りを見た。

「あれ、夢でもみてんのかな。ここアパートじゃないし。ここどこ?」

まぁ、もう一眠りすれば気分もすっきりするはずだろう。起きたら、ゲームしよ。



「……おい、そこの兄ちゃんこんな路地で寝てると物取りに狙われるぞ」

何がなんだか、分からず眠い目を擦りながら試しに聞き返してみた。

「あんた、誰?」

「そりゃこっちのセリフだっての。まぁいい。俺はそこのとおりで商いやってるもんだ。そっくり返すようで悪いがお前こそ誰だ。ここら辺で見ない顔だが」

その男の言っていることが理解出来なかった。

まず、なんで起きたら目の前におっさんがいるんだよ。それにアパートから寝ぼけて出て来てしまったのか。

やれやれ、全く俺ってやつは。


「俺はまぁ学生だけど。おっさんここどこ?」

「お前、何寝ぼけたこと言ってんだよ。ここは、王都オラリオンだよ。」

へっ?と思わず間抜けな声上げてしまった。そりゃそうだ。酔っ払って朝起きたら違う国にいるとか頭がおかしいだろ。

「おっさん、冗談はやめてくれよ。ここは日本だぜ」

「冗談はお前のほうだろ兄ちゃん。ニホン?そんな名前聞いた事が無いぞ。」

いよいよ、おかしな事になってきたと理解してた俺がおかしいのか?

そんなのおっさんがおかしいに決まってる。オラリオン?そんなゲームみたいな都市があるわけ無い。そう思いたい。そうに決まってる。

このままじゃらちが明かないと思い、そそくさとその場を去った。


1回状況を整理しようと思い昨日の夜の事を思い出すことにした。

昨日は散々ゼミの奴らと飲んで家に着いたのは2時を回っていた。その後、部屋着に帰るやすぐベッドにダイブしたはず。記憶が正しければ。

なのに、今のこの状況はなんなんだ。オラリオン?どこだよそれ。新しい居酒屋かよ。


やっぱりどれだけ考えても普通に部屋で寝たことしか思い出すことができない。服装も寝たときのまんまだからちゃんと家に着いたことは間違いない。誰かこの状況説明して下さい……

ってかなんかどっかで似たようなことを体験してこたことがあるような気がする。えっと、どこだったかよく見てた気が……

「ゲームじゃん⁉︎」


俺はようやく頭の中で1つの仮説を立てたのだ。まるでゲームのような異世界に来ちゃったんじゃないだろうかと。

笑えない……しかし、今の現状を把握して考え直してもその答えしか出てこなかった。

確かに日本ってか世界どこ探しても今の世の中剣とか槍とか持って「今からダンジョン行きます」みたいな格好してるやついるはずが無い。秋葉でもないだろうと思う。


とにかく今は情報収集をしないとどうにもならないと思いぱっと見コスプレしてるようにしか見えない通行人に声をかけた。

「あ、あのー すいません。お話聞いてもいいですかねぇ」

「あぁ?なんだよ。早く済ませてくれよ。ダンジョンに潜る時間が無くなっちまう」

ねぇねぇ、この人今ダンジョンに潜るとか言った?言ったよね……

「その、ダンジョンってなんですか?」

そんな、当たり前のことを試しに聞いてみる。じゃないと納得なんてとてもじゃないけどできない。

「はぁ?お前何言ってんだよ。ダンジョンってたらモンスターがうようよ湧いてるダンジョン以外に何があるんだよ……」

で、ですよね……


1時間程、聞き込んだ結果、みんながみんなダンジョンだのモンスターだのワード普通に使っていて、そんなことも知らないのかと呆れられるしまつだ。

いや、知ってるよ。知ってるけど信じられるわけないじゃん。


「は、腹へった……」

そういえば、わけ分からないことだらけで、朝ごはん食べてなかった。

目の前にパン屋を見つけたためそこで朝ごはんを取ることにした。

「おばちゃん、その美味しそうなやつ1つ」

「はいよ。80ガリスね」

はいはい80ガリスね……ってガリスってなんだよ。この国の通貨?よくよく考えたら俺一文なしじゃね?

「あ、あのお金が無くて……これと交換じゃダメですかねぇ?」

と、差し出したのは昨日の居酒屋で貰ってきていたマッチだ。いや、こんな物と交換してくれるわけないんだけどね。

「なんだい。それは?」

え、意外とイケちゃう感じ?必死にマッチとは何ぞかと説明をすると、

「しょうがない子だね。今回だけだよ。持ってきな」

おばちゃんありがとう!


腹ごしらえをしたところでさっきのおばちゃんに何気なく聞いてみる。

「ここら辺でそれなりにお金稼げるような場所ってない?」

「まぁ、そりゃいろいろあるけど、あんたみたいな若者だったらみんなダンジョンに潜ってるかねぇ」

え、お金稼ぐの命がけですか?ごめんなさい、それはさすがに無理です。

「いや、自分一文なしなんで、武器とか買うお金無いし……」

「それなら安心しな。この街の中心にある役場のダンジョン課って所に行けば借金して武器とか防具買うことができるから。」

ダンジョン課ってなんですかねぇ……そんなのアリかよ。


結果的に自分の足は教えてもらった役場のダンジョン課に向かっていた。しょうがないじゃん、命がけでもお金ないと死んでしまう。

「こんにちは。新しく冒険者としての登録ですか?」

「は、はい。それで武器とか何も無いので買いたいんですけど」

「借金をしてですね。分かりました。武器の種類だけ教えて下さい。あとの必要なものはこちらで用意いたします」

あ、借金って一言も言ってないのに把握されてる。なんか、悲しい……


なんだかんだで、片手直剣のブロードソード、ライトアーマー、モンスターのドロップ品を入れるバックパック、試験管のような物に入っている5本のポーション。それすべてで、25000ガリス。一文無しにはかなりの借金だ……



そんなこんなで、不本意ながら命がけのダンジョン攻略をする冒険者になってしまった。生きる為だからしょうがないか。って生きるために命がけってなんか矛盾してない……

いや、まだ現実世界に戻るのを諦めてるわけではない。それまで、食いつないでいくためだからね。

そんなことをぶつぶつ言いながら役場を後にするのであった。



「さっきの青年何か他のものとは違う何かがあるな。念のため使い魔に観察させるか」

タツキを遠くから観察していた、フードを被った男がボソりと呟いた。役場の中でその言葉を聴いたものも姿を見たものもただの1人としていなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る