第4話 Fight against Covid-19

 僕は縁あって、今海外に住んでいる。海外といっても、そう遠くないシンガポールだ。常夏の国、年がら年中32度。時期によっては激しいスコール。寝るときは気をつけないと熱中症、そんな国。

 さて、ここに赴任してきて一年経つかどうかといったタイミングで、厄災が降り掛かってきた。

 Covid-19。いわゆる新型コロナウイルスだ。

 シンガポールでも当然のようにマスクの買い占め、食料品の買いあさりが横行た。スーパーマーケットは連日長蛇の列で、棚がすっからかんになるまで人々は自分を最優先にものを買い込む。日本と全く同じ光景が繰り広げられていた。日本と異なるのは、政府が見るに見かねて声明を出し、その光景を鎮圧にかかったということだろう。そこそこの刑罰に関しては罰金とむち打ちという古式ゆかしい処罰があるこの国において、政府の声は絶対的だ。だからこそ、買い占めに関してはだいぶ落ち着いた。

 しかしまあ、日本と比較したら違うことは多々あるのだが、この緊急時においても外をほっつき歩き、友人を家に招いて大騒ぎをするあたりは、日本人とは違うなあと強く感じる。濃厚接触はやめるように言われていても、どこまでが濃厚接触なんだかわかっていないので、結果として意味がなかったりする。

 それと……。

 僕が住んでいるマンション(というより、政府が作ったアパート?)、そのエレベーターの中には、誰かさんが設置した消毒液がある。そこには英語と中国語でメッセージが書かれていて、<こんなときだから助け合いましょう。気にせずに使ってください>とある。その小さい付箋に、みんないろんな言語で<ありがとう>と記す。観光地にもなっている建物だから、ちょっと前に来たのだろう日本人が「ありがとう」と書き置きしていたらしい。僕も日本人なのだが、日本語がかぶるのはなんとなく嫌だったので、アラビア語でありがとうと書いておいた。そこからが面白くて、今や大喜利状態だ。自分が知っている言語をいかにアピールするか、みたいな。もはや意味不明で、「なに!!」って書いてあるんだよ。日本語で。知ってる言葉博覧会状態になっているのだけれど、それも含めて異国だなぁと思うわけだ。リンカーンだかルーズベルトだかの「諦めない限り敗者ではない」なんてことも英語で書いてある。

 消毒液の設置は、日本だとおそらく政府かマンションの管理人か、そのへんがやることなんだろうと思う。それを民間人がやって、コメントをたくさん書いて、大喜利になるってのが面白い。

 次は何語で書いてやろうか、と僕もうっかり野心が出てくるもので、ポケットにこっそりボールペンを忍ばせるようになってしまった。といっても、中国語は全くわからない、英語はわかるけどネタがかぶってしまう、アラビア語は書いちゃったので、残りはフランス語とトルコ語くらいしか書けないのだけど。なにはともあれ、この状況でもユーモアは忘れない。それが大事なのかもしれない。

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