第3話 Play Nintendo.

僕はゲームが好きで、どこの出張に行くにも、海外旅行にも3DSを持って行っている。


そんな僕が、アメリカはニューヨークに出張に行くことになり、どうしても、どこか隙間の時間を作っていきたい所があった。

マンハッタンのど真ん中、Nintendo New York だ。超有名なタイムズスクエアから、歩いて5分強で着くだろうか。超有名なものしかないエリアではあるけれど、ロックフェラー・センターのすぐ横に建っているビルが、その場所である。


入り口にはスーパーマリオがいて、中にはドンキーコングがいて、マスターソードが台座に突き刺さっていて、ピカチュウが足元にいて、カービィが手を振っている、そんなところ。

正直かなりヘヴィな仕事を抱えていたが、3時間くらいの時間ができたので、行くことにした。ホテルに戻る時間も惜しいから、スーツのままという面白い状態ではあるが、最高だった。

ああ、何度でも言おう。夢のような場所だ!

試遊台でマリオカートに興じるアメリカの人。観光客のフランス人。マリオをたくさん買い込んでいる中国人。ブラジルから来たという人もいた。みんな笑顔だった。

僕が陳列されたポケモンカードを熱心に見ていると、ブラジル人だとあとあとわかる人が話しかけてきた。

「ヘイ、アジア人! ポケモンが好きなのか?」

「ああ、好きさ! 君は何が好きなんだ?」

そのブラジル人は、カゴにいっぱい入ったピカチュウを見せた。どうやって持って帰るつもりなのかはわからないが、黄色がいっぱいだ。

「ピカチュウが大好きなんだよ! お前、どこの国だ?」

「日本さ。君は?」

「ブラジルからきたのさ、ここに来たくてね! 日本人、NINTENDOを作ってくれてありがとうな!」

それを聞いて、お祭り騒ぎが大好きなアメリカ人は、

「日本から来たのか!? 遠くからきたな!? どこだ、トウキョーか? オーサカか?」

「日本にはポケモンの専門店があるって本当か?」

「いつか日本に行ってみたいんだ。スキヤキを食いてえ!」

なんて話しかけてくる。好きなキャラ、好きなゲームを教えてくれる。

というか、任天堂のゲームをやるって、「play Nintendo」で動詞になってんのか!? ググる、ってのとほぼ同じノリだなぁ、と思いながら僕は彼らとひとしきり盛り上がった。

正直、僕の英語はまだまだ拙いはずだ。でも、彼らは「日本からきたゲーマー」の声をしっかりと聞こうとしてくれて、日本のゲームの話を聞きたがった。僕は仕事を忘れて、彼らと話をした。

お土産を買うときも、僕がゲンガーのカップを買うということで、お店のお姉さんは「ゲンガーが好きなの? どこからきたの?」と熱心に話をしてくれた。彼女はミミッキュが好きなんだそうで、名札にシールがついていた。

やがて偶然の宴が終わり、お土産を買い込んだ袋を持ってホテルに向かっている道すがら(さすがに接待に、ゼルダの伝説のイラストがどん!と描いてある、リンクがイケメンな袋を持っていく気にはなれなかった)、またまた話しかけられた。観光客だという韓国人だ。

「なあ、そのお店を探しているんだ! どこにある?」

「ああ、最高な場所だよ。ロックフェラー・センターはわかるか? あれのすぐ横で、奥に入った所だよ」

「ありがとう! リンクはいた?」

「リンクはいないが、マスターソードがあったよ。楽しんできてくれ!」

「マジか! ありがとう!」

手を大きく振って、その韓国人は笑顔で路地に入っていった。それを見届けて、僕は改めて、カバンについているゲンガーを見やった。

「任天堂、すげえな」


なにがすげえって。

あの空間では、年齢も、人種も、肌の色も、何も関係なかった。

でっかい黒人のおっちゃん。日焼けしてピンクになっちゃってる白人のお姉さん。熱心に説明書きを読んでいるアジア系のご一家、ちびっこたち。他にもたくさんお客さんがいたけれど、共通点は一つで、「Play Nintendo」だ。

日本でゲーマーというと、どこか否定的に思われることもある。

でも、一個の趣味でこんなにいろんな人と国境を超えて友達になれる可能性を秘めたものなんて、そうそうない。


胸張って、今後はゲーマーだと言おうと思う。

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