第1-1話「New New Impulse」

目にしている光景に対して感情と理性が付与されたのはどのくらいの時がたってからなのだろう。

おそらく僕という存在が誕生したときからその感情と理性は備えているはずなのだが。

きっとこう考えている思考意識だって降ってわくものではない。

おぼろげな頭を揺らして僕は一心不乱に考える。


つまりは僕は今こう意識付くまで一体何を、そしてどういう存在だったのだろう。

少なくとも今の僕の意識が、そして僕が存在するこの世界では“よく”思われていないらしい。

どこか普通でない監獄にいるのだろうか、鉄格子の先には青空が広がっている。

正確には鉄格子の先には壁と廊下があるのだがどういうわけかそれらはすべて透明なのだ。鉄格子や僕が座っている床は真っ黒なのだが。

それが分かったのも鉄格子を挟んで僕を監視?している変な機械を身にまとった人達(全身機械のスーツのようなもので覆われているので人でもないのかもしれないが少なくとも動作やしぐさが人間っぽかったのだ)

が平然と歩いているのを見たり壁によっかかるのを見てそう判断しただけだ。


そいつらはじっとりと僕を見ている。とにかくじっとりとだ。

無機質な機械を通して彼らは何か僕に対しての敵対心を、あるいは恐怖心を抱いている。

鎖で手足を繋ぎ分厚い鉄格子によって拘束しているのにもかかわらず何をそんなに驚いているのだろうか。

僕は鎖に繋がれた手足をもがいてみせたがびくともしなかった。代わりに皮膚にするどい痛みが走る。

顔を上げた瞬間に何かとてつもなく眩しい怪光が僕の前をほとばしった。

「っ・・・く」

真っ白に視界が染まって一瞬思考を奪われる。

五感が徐々に戻ると焦げたようなにおいと熱が充満して煙が立ち込めていた。

突如、こめかみに圧を感じて目を見開くと銃を突きつけられていた。

機械に包まれた顔なのにそこには狂気じみた殺意と念が込められている。

反射的に体が震える。死・・・ぬ・・・?


「次1ミリでも動いたら頭を吹き飛ばす」

機械の顔は僕の顔に面と向かって確かにこういった。

こいつは人間だ、全身黒ずくめの機甲をまとう人。

奴は銃をこめかみから離すと踵を返し溶けた鉄格柵をくぐって何人かの部下に指示を出してるようだった。

審判、クイーン、処理。

奇妙な単語の羅列が怒号とともに耳に伝わってくる。

これからどうなってしまうのだろう。

その種の考えをめぐらすといつの間にか息が上がってきて胸が苦しくなった。

僕はいったいどこの誰なのだ、なぜこんなことに?

頭の痛みが増して意識がおぼつかない。ふらつく頭を僕は重力へと投げ出した。

もういいのかもしれない。

僕は何かをしでかした罪人で記憶を失ってこのわけのわからない監獄に収容されている。それでもういいのだ。

そう考えるだけですっと気持ちが楽になった気がした。


「どけどけーーーい!」

ぎゃあぎゃあと甲高い女の声が聞こえて急いで顔を上げると監視官をかき分けて突き飛ばす女が目の端に入った。明らかに人、だった。妙な機械をまとっていない。


「やあやあ、やっとお目にかかれたよ」


女は鉄格子の前に腕を組んで立ち高らかにそう宣言した。



To be continued→






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