恋愛感情を抱いても色々ありまして⑥

「光を喰らえ、《ダークイーター》!」

「喰らうかよぉ! ルだらぁっ!」

「光よ、槍と化して彼の者を撃ち抜け、《シャイニングランス》!」


 光の槍が、巨大な口を刺し貫かんとする。だが、闇は光を飲み込み、闇へと融かしてしまった。


「僕の使える光魔法じゃ、太刀打ちできそうにありませんね……」

「あ? 広域殲滅魔法か、狭域殲滅魔法を使えば良いじゃねぇか。あの闇貫くにはよ!」


 剣が闇を切り裂き、安全圏を確保する。そこに飛び込んで


「グランエル、詠唱を始めます。詠唱省略をしている彼なら、おそらく止めることは出来ないでしょう」

「よく分からねぇがさっさとしやがれ! 合図は出せよ!」

「――何をするつもりか知らないが、お前たちが抗う理由はあるのか?」

「え?」

「あ?」

「俺はお前たちを殺すのはどうでも良い。ここを離れようと、敵対しようと構わない。出来るのならば、邪魔をするな」


 グランエルは頭を掻き、カレンは小さく息を吐く。その言葉は2人を下に見た言葉だった。だから


「関係ねぇな」

「関係ないね」

「……」

「ただテメェを斬るだけだ」

「この国の人々を滅ぼしたあなたを殺さないと、悔やんでも悔やみきれない」


 2人が剣を向けると、アガリアレプトは小さく嘆息して


「まぁ、良い。コレも一つの余興だ。お前たちの亡骸を土台に、彼女の蘇生を行おう」

「趣味が悪いって言われるぜ!」

「――何か、言って欲しいんだよ」


 斬りかかろうとしたグランエルは、その言葉に動けなくなった。そしてアガリアレプトは何も言わず、何もしなかった。


「まだ、もっと言って欲しかったんだよ……だから、蘇らせる!」


 泣いている。アガリアレプトの慟哭を聞きながら、カレンはそう思った。そして、アガリアレプトを中心に魔力が迸った。


「っ!?」

「おいおい……こりゃ魔王級じゃねぇか?」

「彼女と比べても遜色ありませんね……ですが、ここで彼を殺さないといけませんね」

「世界の危機が訪れる前に危機になりやがってんだ、ぶっ殺さねぇとなぁ!」


 剣が振るわれる。それにアガリアレプトは小さく


「《闇よ》」


 とだけ、呟いた。それは詠唱では無い。魔法使いの詠唱ではない。


「グランエル! 彼は魔術師です!」

「ンなもん分かってる! さっさと奴にぶっ込む殲滅魔法を使え!」

「っ、分かりました! グランエル、どいてください!」


 グランエルが地面を蹴り、僕の背後に下がった。だから


「聖光よ、目映き光持ちて闇を払え! 《セイントレーザー》!」

「暗黒よ、光通さぬ帳持ちて光を喰らえ、《ダークネスヴェール》」


 光と闇が激突した。しかし、どちらも動かない。拮抗している。


「グランエル、今です!」

「《セイントスラッシュ》!」


 光を纏った剣は、闇の衣を切り裂いて――そこには、誰もいなかった。


「んなっ!?」

「コレは……あん時の!?」


 グランエルは咄嗟に背後を、僕の方を振り向いた。だが、その背後で空間が歪んで……再び、彼が姿を現した。


「転移魔法!?」

「あ!?」

「――」


 悲しそうな瞳で、彼は地面を蹴った。その背中から生えている翼で宙に浮き、天井付近まで上がっていった。


「詠唱完了までまだかかるか……」

「詠唱完了……? 詠唱していないのに?」

「あいつに常識は通じないだろうよ……カレン」

「なんですか?」

「いざとなったら逃げる準備してろよ」


 グランエルがそう言った瞬間、アガリアレプトの背後に巨大な魔方陣が描かれた。


「魔方陣!? そんな魔法、失われたはずなのに!」

「――思い出した。英雄とか言ったな……お前、転移魔法を消したとか聞いていたんだが」

「え? 確かに転移魔法は封じ込めましたが……」

「ふん……なるほどな。だが、お前たちはもう、遅かった」

「どういう意味だぁ!」

「こういう意味だ……」


 そう言い、アガリアレプトの背後の魔方陣が輝きを増して――


「飛べ、《空間転移テレポート》」

「「っ!?」」


*****


「……これで、もう誰も邪魔することはない……」


 ようやくだ、ようやくクロを蘇らせる準備が出来た。


「――あぁ、そうだ。邪魔が入らないように、結界を張らないと」


 国全体を囲む、大きな結界。それを張ろうとするならば、俺のMPでは足りない。だから結界で包み込むのは、辞めよう。

 ならば、誰か護る者を作ろう。


「……素材があれば、きっと強いよな?」


 根拠はない。だが、アガリアレプトは根拠無しだろうとそれを実行するほどまでに、狂っていた。自分の片腕を切り離し、それを素材に化け物悪魔を創り上げる。


「……左腕だけでこれほどの風格を漂わせる者が産まれるか」

「……」


 悪魔は何も言わず、虚な目をアガリアレプトに向けていた。そして


「――私に、何を命じるのですか」

「魂をかき集めろ。その後は自由にして構わない」


 考え直すと、護りは要らない。俺が護れば良いんだ。そして、散りそうになっている魂に収束をさせなければ、昇天してしまいそうだった。だから集めさせる。


「承りました、アガリアレプト様」

「良い。速くしろ」


 悪魔は自身を創り上げた者に、感謝の礼をし、崩壊した城から飛び出していった。




 その後、天へと昇る一本の光が、城から放たれた。




*****


「っ!?」

「ここは……西の?」

「みてぇだな……転移魔法か、やってくれるぜ」

「僕の封印が適応しない転移魔法ですか……抜け道を探ったのか、それとも……」


 カレンの熟考にグランエルは呆れつつ、周囲を見回す。市街地から離れた一本裏路地のようだ。


「……おい」

「なんですか?」

「あの国に軍を向かわせるぞ。俺たち二人じゃ、どうにもならない」

「ですが危険です」

「どうにもなんねぇなら他人の手を借りろ。それがこの世界の召喚される理由だろうが」


 カレンは召喚について理解している事は少ない。だからこそ、グランエルの言葉に何も言い返せなかった。

 カレンがそれを歯痒く思った瞬間、大きくはない、しかしはっきりと聞こえる声があった。


「グランエル……!?」

「あ? って、テメェは……あん時のガキ共の引率者か」

「どうしてお前がここに……いや、おかしくはないのか」

「っち、カレン」

「なんですか?」

「人払いしやがれ。俺ァこいつと話があるからよ」


 そして5分後、三人は周囲に誰もいないのを確認して


「アガリアレプトって奴を知っているな?」

「……ウツロイの側にいた嬢ちゃんか? あの子がどうした?」

「死んだ。そんでその……ウツロイとか言うのがアガリアレプトって名乗って東の王国を滅ぼした」

「はぁ!?」

「到底信じられないかもしれませんが、本当のことなんです」

「いやいや……いくら英雄様の言葉でも……ウツロイがそんなことをするなんて……」

「彼はその少女を蘇らせたいと言っていました。それと彼女を殺した人間への復讐を……」


 ケインは呆れて物も言えなかった。彼がそんなに狂人だったとは、到底思えなかったからだ。


「で、でもよ、ウツロイがあの少女を生き返らせれば正気に戻るんじゃねぇのか!?」

「……蘇生魔法は、そんなに万能じゃありません」

「え?」

「どういう意味だ?」

「蘇生魔法で蘇らせた人間は――」


*****


 乾いた笑いが無人の城に響き渡る。彼以外、誰もいない城に響き渡る。


「クロ……クロぉ……」


 涙を流しながら、その少女に縋り付き、狂ったように笑い続ける青年がいた。


 彼に抱き付かれている少女は、感情が抜け落ちたような無表情で、立ち尽くしている。抱き付いている彼になんの反応も示さずに。


*****


「蘇生魔法で蘇らせた人間には意識がなく、記憶も無く、感情も無く、心も無く……魂もない。ただの人形と成り果てます」

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