恋愛感情を抱いても色々ありまして①
「おにーさん、それであのドラゴンについて何か分かったかい?」
「どうやらドラゴンを狩っている集団がいるようだ……とりあえずそれについて調べるぞ」
「んー、理由を聞いても?」
「ああ。ここの本棚を眺めていると分かると思うんだが、どうやら長生きしていたドラゴンたちを次々と殺しているようだ。余りにも謎過ぎる……それに、ドラゴンを軽々と狩れる人間は少ないらしいぞ」
グランエルに聞いた、と虚偉は事も無げに言った。それはアガリアレプトにも言っていなかった、彼とコンタクトを取っているということだった。
「おにーさん、まだあの男と繋がりがあるの?」
「ああ。俺の知らない知識や、意外と話していて楽しくてな……」
「そりゃ構わないけどさ……おにーさん?」
「なんだ?」
「どうして私の頭を撫でているんだい?」
「……なんでだろう」
分からない。でも、撫でたくなったのだから仕方が無い。そう思いながらアガリアレプトの頭を撫でていると
「おにーさん、反魂の魔法を探しているのかい?」
「ん、ああ。それがどうかしたのか?」
「その魔法を使うにはかなりの犠牲が必要だからねぇ、お勧めは出来ないなぁ」
「そうなのか?」
「そうともさ。死者を蘇らせて、肉体を与える。たった一人にそれをするだけで1000人以上の人間を生け贄に捧げないといけない」
「それは……」
少ないんじゃないのか? 例えば、自分が誰よりも望んだ者が死んだのならば、他の何かを犠牲にしてまで生き返らせたいと思うなら、少ない方だろう。
たったそれだけで、望んだ者を蘇らせられるのなら、俺は……
「おにーさん、それでどうするんだい?」
「ん? え、何が?」
「何がってマゴコッちゃんたちだよ。龍の領域に連れて行くには危険すぎるぜ?」
「そうなのか……」
「そりゃそうさ。あんな手負いのドラゴンにすら苦戦するんだからねぇ」
「俺もお前も不意を突いたからなんとかなっただけだろうが」
本来ならあんなドラゴンには太刀打ちは出来ない。それが出来るのは一定以上の技量を持つ者、グランエルぐらいだろう。そう思っていると、アガリアレプトはその後頭部を虚偉の胸に叩きつけて
「何か考え事かい?」
「……俺たちも大して強くないからな。もう少し、強くなってから行こうか」
「んー、それはつまり?」
「あいつらを書庫から出して、しばらく俺とお前はスキル習得や、もっと色々な魔法を使えるようになるぞ」
「戦えるようにならないといけない、って事で良いのかな?」
「ああ」
*****
「え、今なんて言いました?」
『これから俺たちは忙しくなる。その間にお前たちの面倒を見切れない……だから、街に送り届ける』
「それはつまり、追い出すって事で良いのか?」
「そうだねぇ。相変わらずタケトのおにーさんは頭が良いねぇ」
「褒められても嬉しくねぇよ……俺は分かったぜ。荷物纏めて、出て行くよ」
『悪い……』
虚偉の謝罪に武人は少し笑った。そして
「気にすんな。あの時、助けられた上にほとんどただ飯食らいだったんだ」
「タケトのおにーさんよ、別に嫌いだから追い出すわけじゃないんだぜ? 単純に足手纏いもとい危険に巻き込みそうだから置いて行くんだぜ?」
「誤魔化すなら最後まで誤魔化そうぜ……」
武人は笑った。そして
「分かった、俺も出ていく」
「そうかい、リュートのおにーさん」
「私も出て行きます」
「マゴコッちゃんもまたね」
「またね、リアちゃん……
『……何もしていないが?』
「助けてくださって、衣食住の全てをしていただいて……本当にありがとう御座いました!」
そして翌日、
「それじゃ、またね」
「またね、リアちゃん。仮面男さんと仲良くね」
「分かっているって。おにーさんはあんまし乗り気じゃないんだけどねぇ」
『ふん……お前が積極的過ぎて引いているだけだ』
「ン……?」
今の、否定していない。真心はそう思った。でもそれを口に出すのは野暮だ、と思った。だから
「何から何まで、ありがとう御座いました」
『……』
「またいつか、お礼をしに会いに行きます」
「どうやってあの書庫に行くか分からねぇけど」
「もう」
隆人の言葉に真心は苦笑して、
「それじゃ、世話になったな。アガリアレプトさん」
「お? フルネームで呼ぶかい? タケトのおにーさんよ」
「ああ、最後まで隠すのはどうかと思うぜ? なぁ」
『…………何のことだかな、さっぱり分からないな』
「嘘を吐くなよ、虚偉」
「「っ!?」」
「おっと」
『っち』
舌打ちが鳴り響き、二人の姿が霞んだ。そして残滓も残さず、消えてしまった。それは彼らが書庫に入る時の光景だった。
「逃げたのか……」
「ちょっと待って!? え、虚偉くん!? え!? 嘘!?」
「虚偉だと!? どういうことだ!?」
「……仮面男が虚偉だったんだよ」
詰め寄られる武人は、そうとしか言えなかった。
*****
「武人の奴……っ!」
「いやー、もう分かれたから問題ないんじゃ無いかねぇ」
「五月蠅い……問題ないとしても、隠していたことがバレたら恥ずかしいだろうが」
「おにーさんって意外と可愛いところがあるよねぇ」
五月蠅い、と言おうと思ったがアガリアレプトの優しそうな笑顔で、何も言えなかった。
(なんで……何も言えないんだ?)
分からない。どうして、どうして。そう再三自分に問いかけるが、答えは出ない。
「おにーさん?」
「……」
「おにーさんっ」
「……」
「ちゅー」
「っ!?」
咄嗟に避けようとし、ソファーに倒れてしまった。それに舌なめずりをし、俺の上にのしかかるアガリアレプト。
「何の真似だ」
「おにーさんとの愛の確認?」
「……そんなもの、無いだろ」
「口ではそう言っても体は正直だぜ?」
「黙れ」
アガリアレプトの体を押しのけようとした、が
「おにーさんの……スケベ」
「え……っ!?」
咄嗟に手を離す。押しのけようとして触れた柔らかい感触に鼓動が速くなる。なんで……・
「おにーさん、積極的だねぇ」
「……」
「およ?」
「……」
「おにーさん? どうしたの?」
「……アガリアレプト」
「なんだい?」
「……俺のこの気持ちは何だ?」
なんで聞いたんだろう、と後になって考えた。だが、その答えを自分では出せないと思った。そして、アガリアレプトは一瞬、虚を突かれたような顔になり、そしてゆっくりと微笑んで
「きっと、恋だよ」
「鯉……?」
「そう、恋。恋愛とかきっと、そういった感情だよ」
「ふーん」
「なんでそんな気のない返事!?」
アガリアレプトが驚いているが、何故か虚偉は納得していた。そうか、この気持ちがそうなのか、と。
「なるほど……」
「……おにーさん?」
「初恋、なんだろうな」
「お……? って、え? 私に?」
「ああ」
「えっと……おにーさん、恥ずかしいよ」
アガリアレプトは耳まで真っ赤にして、しかし笑みを浮かべて
「おにーさん、私のこと、好き?」
「分からん」
「ええ!?」
*****
虚偉が初恋を実感してから、一週間が過ぎた。その間に、高速魔法用のカードや新たな魔法、そしてスキルを習得した。
「《悪魔化》……このスキルがあるって事は、俺は完全な悪魔になったわけじゃないのか?」
「そうだねぇ。半分以上人間、少し悪魔って感じ? 9割以上人間だから体は脆い、忘れないでくれよ?」
「……肝に銘じる」
《
「大丈夫だよ、おにーさん。おにーさんは私が守るからさ」
「……おにーさん、か。その呼び方、やっぱり慣れないな」
「へ?」
「名前で呼んでくれ、アガリアレプト」
「……分かったよ、ウツロイのおにーさん」
「おい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます