悪魔になっても色々ありまして⑧
「おにーさん、おはよ」
「……っ!? またかお前は!」
虚偉は自分のパンツが脱がされていると気付き、全力でアガリアレプトから逃げ出した。
*****
「朝っぱらから何しやがる……あの馬鹿」
逃げる際に、抜けるような感覚があった。それはつまり、また夜中にあいつは……
「っち」
舌打ちし、お湯に体を沈める。ため息が尽きない。そう思っていると、脱衣所の扉が開かれて
「……え?」
「っ!?」
咄嗟に《
『《
「あ、おはようございます、
『おはよう、真心……朝風呂か? 邪魔なら出て行くが』
「あ、いえ。大丈夫です……仮面男さん、聞いても良いですか?」
『何をだ?』
「仮面男さんは何をしようとしているのですか? 私たちにそれは手伝えますか?」
驚き、何も言えなかった。何故真心がそんなことを気にするのか、どうしてそんな真剣な表情で問いかけてきているのか、戸惑いだけが俺の中にあった。
「ただ飯食らいは嫌なんです」
『……そうだな、だったら食費程度は自分たちで稼いでもらおうか。ちょうどあいつも外で実戦経験を積ませようと言っていたからな』
「リアちゃんが?」
『ああ』
その後、真心は上機嫌で風呂を堪能した。そして、自分が有られも無い姿で恩人に接していたと気づき、一人部屋で悶絶していた。すると
「マゴコッちゃーん、起きている?」
「っ!?」
「おはよー」
「お、おはよー」
「早速で悪いけどめっちゃエロい姿だねぇ」
「え!?」
真心は自分がどんな姿なのかを、冷静になってまた悶えた。下着姿でベッドの上で。
*****
「よぉ、武人」
「おはよう、隆人……今日は外に出るんだっけ?」
「ああ、らしいな。最近ずっとここの書庫に籠もりきりだったからな……楽しみだ」
「そうだな」
二人で頷き合い、廊下に出る。誰もいない廊下を歩き、食堂と呼ばれている部屋に向かっていると
「おっと、おにーさん方。おはようさん」
「おはよう御座います、リアさん」
「おはよう、リアさん」
「いやはや、天気も良いようだし滅法素敵なクエスト日和だねぇ」
「え、クエスト?」
「そそ。おにーさんとマゴコッちゃんが風呂で裸の付き合いをして……ひひひ」
「「!?」」
隆人は単純に驚いていた。だが武人はそうも行かない。もっと大きな驚きを感じていた。
(虚偉と真心が……!? だが、虚偉はまだ明かしていないし……一体、どういうことなんだ!?)
「たまたま一緒になっただけよ」
「真心……」
「本当なの?」
「何を疑っているのか知らないけどね。大体恩人に対してそんなこと、出来るわけないでしょ」
「……」
「そういうもんかね?」
「そうなんだ」
二人が安堵し、虚偉がアガリアレプトの頭を握りつぶそうとしている。藻掻いているアガリアレプトを仮面越しに冷たい目で見下ろして
『次にそんなくだらないことを言ったら……』
「言ったら?」
『アガリアレプトの代替わりが速くなるな』
「もうしません!」
『どうだか』
温度の無い瞳にアガリアレプトが動揺していると、
『朝飯は今から作る。それまで顔でも洗っていろ』
そして30分後
「それじゃ今日の予定をばりばり説明しちゃうぜ! まずはマゴコッちゃんたちはクエスト受けて金稼ぎ&実戦経験を積む! 私とおにーさんは特に決まってなし!」
「リアちゃんは着いて来ないの?」
「私はおにーさんを手伝わないといけないからね、ちょっと無理かな-。おにーさんはどうするの?」
『……決めていないな。歴史でも読んで知識を得ようと思うが』
「ありゃ? そんっじゃ私は必要ない感じ?」
『ああ。隆人たちと一緒に、助けたり手伝ったりしてこい。だが手出しし過ぎるな、干渉し過ぎるな』
「難しい注文だねぇ……善処するよ」
*****
「それでリアさんはどうするの?」
「私かい? 私はおにーさんに指示された通りに手伝いだけするよ」
「それはつまり、前に出ないって事で良いのか?」
「良いともさ、リュートのおにーさんよ」
そのまま、4人はギルドに入って行った。するといきなり、内側から怒号が聞こえてきた。
「ん?」
「だから《
「え、また?」
真心は少し息を吐きながらギルド内に入っていった。そして即座に
「癒やしよ、我が右手に宿り触れた者を癒やせ《ヒールタッチ》」
「マゴコロの嬢ちゃん!? 助かったぜ!」
中からケインの声が聞こえた。それにアガリアレプトは表情を変え、中に急いで入っていった。それに戸惑いつつ、武人と隆人がギルドに入ると
「痛い痛い!? 離せ、いや離してください! お願いします!」
「言ったらぶっ殺すからね」
「はいぃ!」
アガリアレプトがケインを締め上げていた。何事か、と聞いたのだがケインは青い顔で首を振るだけだった。アガリアレプトは何も言わなかった。
*****
「《
「ああ、おそらくそうだろう……一体誰があの森を燃やしたんだ。強い獣が森から出るだけでも充分に危険だったのに溢れてしまったじゃないか……」
ケインの言葉に内心で汗を流すアガリアレプト。完全に原因は虚偉自身だ。だからこそ、
「それじゃあ、《
「だが《
「俺たちじゃまだダメか?」
「ああ、危険すぎる」
「まぁ、私もおにーさんも死にかける程度には強いねぇ」
その言葉は劇的だった。他の4人にとって、アガリアレプトと虚偉は自分たちが敗北したグランエルに立ち向かい、生きて帰ってこられるほどの実力者だった。だが、その虚偉たちが負けた、というのは驚きだった。
「だからおにーさんの言いつけは無視するけど……全部、私が殺すよ」
「お前……出来るのか?」
「うん、一体ずつなら正面から殺せるし、逃げながらなら戦えるよ」
*****
「ケインのおにーさん、ちょっちそこで止まって」
「何故だ?」
「良いから。闇よ、空を覆い尽くし、雨のごとく降り注ぎ、我が敵を貫け《ダークレイン》!」
周囲一帯を爆撃するかのような黒い雨、それに触れた物は次々と黒く染まり、闇に溶ける。それは草も木も、同じだった。そして、生きている者も闇に融かされ、命を失った。
「っと……やっぱりMPを根刮ぎ使うねぇ」
アガリアレプトのMPの最大量の半分以上を使う広域殲滅魔法、それを使っただけで意識が飛びそうになる。制御を放棄すれば多少マシになるが、その場合は自分も死ぬ。
「ケインのおにーさん、後は任せても良い?」
「いや、何も残っていないんだが……」
「帰り道だよ……っつーか、アレだ。マゴコッちゃんたちのレベルはどれぐらい上がった?」
「あ、私のレベルが40越えてる」
「俺もだ」
「俺も……何もしていないんだけどな」
「俺は80を越えたか……上がり辛いんだよな、ここまで来ると」
*****
「近代史書庫か……ここに、何か手がかりは無いか?」
グランエルが相対した世界の危機についての歴史を、誰かが残していないか。そう思いながら本の背表紙を眺めていると、
「アガリアレプト……だと?」
虚偉から見て、先々代のアガリアレプトの歴史書がそこには納まっていた。次代アガリアレプトだから、読んでも問題ない。だから迷わず手に取った。
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