悪魔になっても色々ありまして⑦
「魔法研究発表会、ですか?」
「それってどんな感じなんですか?」
『カッツィオという人間がそこで何度か発表をしている。一度、傍らに日本人のような男がいたそうだ』
「それが虚偉だと?」
『可能性はあるな』
嘘吐けテメェ、と武人は思った。だが口に出さず、一緒に書庫を出た。一体どういう原理で出ているのか、一切分からない。
『さて、ここの席を使え。俺はちょっと行く場所がある』
「え?」
「……」
「リアちゃんもですか?」
「いんや、私はここでおにーさんおねーさんと一緒に見ているよ。それも楽しそうだし」
*****
「カッツィオ」
「っ、ウツロイ! 久しぶりだな!」
「ああ、久しぶりだ」
がっちりと固い握手をし、カッツィオは頬を緩ませた。そして
「お前がいない間、結構色々と進んだぜ?」
「ほぅ、それは楽しみだ。だが俺も成果があるぜ?」
お互いに笑い合い、分かれる。前回は協力して、今回は敵、ではないが……ライバルとして、だ。
カッツィオが見せた高速魔法はモーション自体を詠唱として発動する。容易に体を動かせなくなる以外にはかなりの高速性を孕んでいる。
それに対し、俺の高速魔法はカードに詠唱を刻んで発動する。刻んだからこそ、詠唱が固定されて何度でも繰り返し使える。
そして俺がそれを実演し、説明をしていると、手を振っている4人組が見えた。何故だか分からないが、それを直視するのは無理だった。だから顔を逸らしてしまった。
何故だろう、分からない。
*****
「ウツロイ殿は相変わらずだな」
「陛下におかれましてもお変わりないようで」
「相変わらず、という言葉を体現しているようだ……かけたまえ」
「は」
虚偉は王の言葉に頷いて腰掛ける。そしてそれを見て王は口を開いた。
「随分と雰囲気が変わったようだが……何かあったか?」
「少々、複雑なことに巻き込まれておりまして」
「ほう、話せ」
「は。グランエルという男をご存じでしょうか?」
「無論だ」
王は頷き、天井を見上げた。そして
「グランエルと出会ったのか?」
「事情があり、敵対しています」
「む」
「現在は私が逃げております故、何事もないかと思います」
「……」
「陛下、私は現在あの三人と共に暮らしています。しばらくは共に、強くなる予定です」
「安全なのだな?」
「はい」
「ではまた、発表会でウツロイ殿の顔が見られることを期待するとしよう」
「それでは、失礼いたします」
王は虚偉が立ち去った後、少し虚偉が座っていた椅子を眺めて
「世界の危機は訪れ始めているのか?」
疑問を感じた。
*****
「虚偉がいたんだよ」
「へぇ、そいつぁ良かったねぇ。話せたのかい?」
「ううん、カッツィオさんに聞いたんだけどすぐに帰っちゃったんだって」
いや、帰っていない。王に呼び出されていた、と虚偉は内心で思っていた。だがそれを口には出さず、
『話せなかったのは残念かもしれないが、探し人が生きているのを確認できたのだろう? なら良かったのではないのか?』
「良かったさ」
「良かったよ」
『武人、お前はどうなんだ?』
「っ!?」
お前、白々しいにもほどがあるだろう。武人はそう思いながら眼を細くして
「あいつ、随分と変な格好をしていたな。まったく似合っていないね」
「ぶふぉっ」
アガリアレプトが噴き出した。それを眺めながら虚偉は息を吐いて
『研究発表会ではマントを身につけるのが常識のようだ。彼も望んでマントを身につけているわけではないだろう』
「あれ、そう言えば
『ん、似合うか?』
「に、似合いますよ!」
「似合っていると思う」
「おにーさんならもっと禍々しい格好の方が似合うと思うよ?」
『お前は俺を何だと思っているんだ……』
「悪魔?」
『間違っちゃいない分困るな……』
そして5人で書庫に戻った。
*****
虚偉が再びカレーを作った晩、虚偉は誰もが寝静まった後にこっそりと書庫を出た。
「よぉ、元気?」
「テメェに閉じ込められてんだから元気じゃねぇなぁ」
「ははは。それよりも晩飯だ」
「そりゃありがたいけどよ、もう少し早く来られねぇか?」
「無理を言うな。お前が殺そうとした相手に見つからないようにして来ているんだ」
「はん」
結界の一層を空け、そこにカレーの皿を差し込む。そのまま二層目を開け、グランエルが皿を掴むのを確認して手を引き抜く。
「なんだこれ? 食い物か?」
「ああ」
「お前に料理が出来んのかよ?」
「ああ」
グランエルは恐る恐る、カレーを一口食べて
「……意外と美味ぇな。でも辛ぇ」
「辛くなけりゃ美味くないだろ」
「違ぇねぇ……で、今日はどうしたんだ? 餌やりってわけじゃなさそうだな」
「ああ」
虚偉は息を吐いて地面に腰を下ろした。それを眺め、グランエルは眼を細くして
「魔法使いが近接距離で戦うもんじゃねぇ、か。随分な言葉だったなぁ」
「は? 何を言っているんだ?」
「昔の記憶だよ、単純な」
「は、話してみろよ。面白そうじゃねぇか」
「詰まんねーぜ? 俺と馬鹿の二人きりの旅だったからな」
「二人?」
俺たちの半分か、と思っていると
「俺が召喚されてよ、そりゃ城中が大騒ぎになったわけだ。んでもって、異世界の人間が弱いからお付きの者を付けた、それだけさ」
グランエルは意外と良い奴だった。先入観のせいでお互いが殺し合っていたのは……まぁ、色々あったのだろう。それには目を瞑っている。
「魔法使いがあの距離で俺と戦えるなんて思わなかったぜ」
「俺たちを一般的な魔法使いと同等に扱うなよ」
「は、違いない。テメェらみたいな魔法使いが世に溢れりゃ俺なんかが召喚されないで済んだんだよ」
「それについて聞きたい」
ん、とグランエルは目を閉じた。そして
「言ってみろよ。答えるとは限んねーけどさ」
「ああ、構わない。お前が対面した世界の危機ってのはどんなんだったんだ?」
「……は。そりゃ、俺はなんとも言えねぇな」
「は!?」
「俺がやったのは敵の大将ぶった切っただけだ。殺せてねぇし、逃げられてしまったけどよ」
「……」
「そして捨て台詞でよ、『次は負けない』と来たもんだ。何なんだあいつら」
「俺が知るか……」
グランエルは不機嫌そうに息を吐いて
「んで、そろそろ俺を結界から出してくれる気になったかよ」
「ああ、構わないさ。だが俺を斬ろうとするのならば、また結界に閉じ込める」
「お前の魔法よりも俺の剣の方が速いぜ?」
「だったら俺はお前を結界から出さないだけだ。永遠に閉じ込められ、死を迎えろ」
「怖ぇなぁ。ま、俺にお前を斬る理由が無いぜ」
「ふ」
笑い、結界を消す。本来なら詠唱が必要だが、結界を消すための魔法を刻んだ手袋を填めて結界に触れた。
「なんだ? 結界ってのはそんなに簡単に解けるもんなのか?」
「俺だけだ。お前には無理だろうな」
「は、違ぇねぇ。魔法使いには魔法使いの仕事があるからな」
「仕事……」
少し考え、グランエルを見つめる。
「おい」
「なんだ?」
「お前も危機が訪れたら動け、良いな?」
「言われるまでもねぇよ。不完全燃焼、今度こそ燃やし尽くすぜ」
お前、そんなキャラだったのか。
*****
「アガリアレプト」
「なんだい、おにーさん」
「あいつらの成長具合はどうだ?」
「そろそろ室内だけじゃ辛いかもねぇ。ぶっちゃければ外で色々と戦わせて戦闘経験を掴ませた方が良いのかもしれないねぇ」
「……」
虚偉はグランエルから奪い取った剣を眺め、そこに刻まれている文様を眺める。文様のように見えていたそれは、細かい文字だった。
「この世界にあった魔法系統も消えているようだな」
何があったのか、調べたくなってしまった。
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