悪魔になっても色々ありまして⑤
「えっと……お邪魔しても良いですか?」
「っ!?」
中から驚きの反応があった。そして
『構わない』
「あ、どうも」
『……』
「……」
何だろう、もの凄く居心地が悪い。とりあえず体はさっき洗ったので問題ないとして、汗をシャワーで流す。そして湯船に浸かって
「……
『……なんだ?』
「仮面男さんは日本人ですか?」
『……答えないとさっき言ったはずだが?』
「それはそうですけど……知りたいんです」
『……違う。それに俺は人間じゃない』
「え」
『俺もあいつも人間じゃない。悪魔だ』
武人は絶句する。それを眺め、虚偉はため息を吐いて
『お前たちを助けたのにも理由はない。ただタイミングが合っただけだ』
「……タイミング、ですか。さっきから思っていたんですけど、発音が完璧に日本人らしいんですよね」
『……』
「元日本人で、悪魔になったんですか?」
『――良く分かったな』
もう隠すのは無理だろう、と判断して頷く。そして
『武人』
「はい?」
『まずいことになった』
「え?」
武人が疑問を感じた瞬間、脱衣所からの扉が開いて
「おっと、タケトのおにーさんも入っていたんだねぇ」
「え!? 武人!?」
「っ!? リアさんと真心!?」
「おにーさん、逃げ出したらダメだぜ?」
『何がどうダメなんだ……』
さっぱり分からない。そう思いながら面をしっかりと押さえる。もっとも幻覚魔法で創り上げた顔を隠すためだけのそれを押さえる意味は無い。声も同じようにしているだけだ。
「おにーさん、背中流そうか?」
『湯に浸かる前に洗った。お前もそうしろと何度言えば分かる』
「何度言われたって300年以上の慣れは中々消えないねぇ」
『どうせしばらく俺と生きるんだ。さっさと慣れてもらわないと困るな』
「にひひ」
アガリアレプトは愉快そうに口を歪めながら、こちらをちらちらと眺めつつ、体を洗おうとする真心に近寄って
「マゴコロのおねーさんよ、背中流そうか?」
「え? 良いんですか?」
「良いって事よ。それよりも敬語はやめてくれよ、むず痒いぜ」
「そっか……ありがとう、リアちゃん」
「ちゃん!? この歳でちゃん!?」
『言うなればお婆ちゃんだな』
「おにーさん五月蠅い!」
『300歳越えているだろうが』
「「え!?」」
武人と真心の動揺を虚偉はもっともだ、と思う。外見だけだと少女が妥当なところだ。むしろ手を出すと色々と問題が起きそうな外見なのだ。
「リアちゃんじゃない!?」
「あ、リアちゃんで良いよ。ちゃん付けで呼ばれるなんて初めての経験だからねぇ」
「そうなんだ?」
「うん、そうなんだよ。おにーさんは呼び捨てにするしねぇ」
「え? 名前で呼ばれているところ見たこと無いんだけど」
「そりゃぁ……色々あるって事よ」
アガリアレプトの言葉に真心が不思議そうに思った、その瞬間だった。アガリアレプトの手が双丘を持ち上げたのは。
「え!?」
「ふーむ、大き過ぎもしない、かと言って程良い大きさで手に収まる……至高のおっぱいっっっ!!!」
「おいこら」
思わず素で突っ込んでしまった虚偉、だがそれに誰も気付かない。何故ならば武人にとっては好きな相手のおっぱいについての話題だし、真心にとっては現在進行形でおっぱいを弄ばれているからだ。
「正面から見ればきっと仄かな桜色の乳首が見えるだろうし程良く膨らんでいるからこその「離して!?」
「おっと失礼」
アガリアレプトは我に返ったように手を離して頭を掻き、
「いやはや、ごめんねマゴコロのおねーさん。余りにも素敵おっぱいのせいでちょっとテンションが上がってしまったよ」
「黙って……もう、何も言わないで……」
真心は泣きそうになりながらシャワーで泡を流した。そして背後にいたアガリアレプトの顔面のシャワーがかかった。ちなみにこの時、武人は真心の背中だけでも興奮し、少し前屈みになっていた。
「いやー、おにーさん」
『なんだ?』
「マゴコロのおねーさんのおっぱいスゲぇ! マジスゲぇ!」
『黙れ……』
「何がスゲぇってすべすべのもちもちだぜ? アレぞまさに至高のおっぱいだぜ!」
『……お前、明日真心に殺されても知らないぞ』
「へ?」
『明日からお前は真心たちの師匠をするだろうが』
真心のイントネーションも完璧、と武人は思った。だがもう、口にはしない。恩人の機嫌を損ねるのはどうか、と思ったからだ。
「リアちゃん」
「ん? どーしたよ」
「明日、覚えておいてね」
「良いよー。忘れないよ絶対」
「そう」
真心は拳を握り固めている。それにアガリアレプトが笑っていると
『おい』
「ん? 誰を呼んでいるのかねぇ」
「俺か?」
『……リア』
「はいはい、なんだい?」
『真心に謝れ。例え真心が気にしていなくても、だ』
「ん……そうだね。ごめん、マゴコロ」
「気にしていないから良いよ。明日は思いっきり攻撃するけど」
「怖ぇ」
冗談のようにアガリアレプトは笑い、湯船に浸かる。それに続いて真心も浸かるが
「ここって混浴なんですよね?」
「あー、私とおにーさんの二人だったから分ける必要が無かったんだよねぇ。ま、分けるつもりはまだ無いけどさ」
「リアさんと仮面男さんは……その、どういう関係なんですか?」
「夫婦?」
『ただの次代育成程度の関係だ。それ以上は無い』
「酷ぇ!? セックスした仲じゃん!」
『お前が一方的に意識を失っている俺でしたことだろうが……っ!』
睨み合う二人から距離を取る真心と武人。しかし仮面男がため息を吐いて
『もう良い。疲れた。寝る』
「ほいほい。また明日」
『また明日』
そして何も言い残さず、去って行った。その背中をリアさんは視線で追いかけて
「照れ屋さんだねぇ」
「リアさん……」
「あの、仮面男さんってどこ出身なんですか?」
「ん~? 生憎だけどニホンって事しか知らないねぇ」
「やっぱり!?」
「え!?」
アガリアレプトは虚偉が隠している理由がいまいち、分かっていない。だが隠したいのが自信のことならば適度に情報を与えて終わりにする、そう考えていた。そして
「ニホンがどんなところか知らないけどさ、おにーさんおねーさんは帰りたくないのかい?」
「俺は帰りたくないな」
「私も、虚偉くんがこっちにいるから」
「おねーさんは一途だねぇ」
「そうかな?」
真心は少し顔を赤くしていたが、内心アガリアレプトはヒヤヒヤしていた。
*****
「それじゃおにーさんおねーさん、お休み」
「お休みなさい、リアちゃん。リアちゃんはどこで寝るの?」
「んー、おにーさんの上かな?」
「「え!?」」
セックスするのか、と武人は思った。だが真心はその点、純粋なので
「仮面男さんと二段ベッドなの?」
「へ? あ、いや、違うよ。おにーさんの体の上」
どういうことだろう、と真心は思っていた。一歩武人は意味を理解していたからこそ、少し困っていた。
*****
「おにーさん、セックスしようぜ」
「こっち来んな」
枕を盾に、必死にアガリアレプトの手を防ぐ。しかし枕は一つ、アガリアレプトの手は二本。完全に手数で負けている、手だけに。
「なんて言っている場合じゃねぇ!?」
「諦めたら楽になれて気持ちが良いぜおにーさん」
「黙れ……!」
必死に防ごうとするが、枕が掴まれた。そして枕が放り投げられて
「ふっふっふ、もう諦めなよおにーさん」
「黙れ……俺は諦めない!」
「カッコいいねぇ、言葉だけは」
「五月蠅い」
服がはぎ取られそうになるのを何とか防ぐ。すでに壁際に追い詰められていた。まぁ、アガリアレプトが全力を出せば俺はどうにも出来ない。そんな風に達観していると
「あのー、リアさん」
ノックと共に、武人の声がした。
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