悪魔になっても色々ありまして④

「リアさん、ちょっと時間良いか?」

「んー? 構わないぜ、ケインのおっちゃん」

「そうか、助かる。面付きも良いか?」

「……(こくり)」


 そして書庫内を移動し、追加されている部屋に入る。責めて部屋を増やせ、家具を置けと虚偉が強く言ったからだ。アガリアレプトとしては一緒にいることに抵抗はなく、むしろ望んでいるので構わなかったのだが。


「……さて、ウツロイ」

「なんだ」

「どうして顔を隠している? どうしてあいつらに黙っているんだ?」

「……俺はもう、あいつらの前に立って良い人間じゃない……人間でもなくなったがな」

「は?」


 現在の虚偉のステータスはグランエルに遙か劣る。


『本読虚偉 男 17歳

職業 魔法使い 悪魔 次代アガリアレプト

レベル67

HP 3988/4028

MP 5021/7859

STR 201

INT 1154

VIT 343

AGI 233

LUC 434

スキル 《MP増加大》《MP消費減大》《魔法威力増加大》《HP増加大》《INT増加小》』


 最低限のスキルだけを習得しているが、これだけではまだまだ足りない。すでにアガリアレプトが地図を使い、どこで何をすれば良いかを律儀にメモしてくれていた。だから


「しばらく俺は忙しい。ケイン、お前がどうするのかは選ばせるがあの三人は俺が預かる。心配せずともアガリアレプトが教育をするだろう」

「するぜ~、ばんばんしちゃうぜ~」

「そういうことだ。だから安心して「どうして黙っているかの理由を聞いていないぞ」

「……俺は人を殺した。だからもう、あいつらの前に立って良い人間じゃない」

「待てよ。そのくらい、俺もしたぜ?」


 思わず動きが固まってしまった。するとケインは顔を顰めて


「言っちゃ悪いけど殺さないと自分が危険だった。だから殺した……お前は俺たちを守るためにあいつを、グランエルを殺したんだろう?」

「ああ……いや、殺せてはいないけど」

「そうなのか?」

「ああ。何度肉片に変えても死ななかった」

「え、そんなことしたのか?」


 思わずケインは引いてしまった。だが確かに後悔しているのだろう。虚偉の表情からそう確信して


「分かった、お前が会いたくないのなら仕方ないな。ちゃんと黙っておくよ」

「ありがとう、ケイン」

「友人の頼みだ、受けるさ」

「ありがとう、親友」


*****


「え、ケインさん帰っちゃうんですか?」

「俺にも仲間がいるし家庭もあるからな」

「「「「へ?」」」」


 思わず虚偉も驚きの声を出してしまった。すると三人が顔を向けてきたので首を横に振って


『達者でな』

「ああ。三人を任せたぜ、仮面男マスクマン

「「「ぶっ」」」


 とんでもないネーミングセンスに噴き出す三人。英語が使われている意味に気付かずに。そして


『三人は俺が鍛えておく、安心して帰れ』

「ああ、世話になった」


 声が変調されているのか、妙にざらつく声の仮面男とケインは拳を併せ、一瞬二人の姿が消えた。そして、仮面男だけが戻ってきて


『リア』

「はいはいおにーさん、何の用?」

『5人分の朝ご飯を作れるか?』

「んー、任せて。材料は?」

『人間が食べられる物だ。人間の街に行けば買えるだろう』


 ここで虚偉が人間の街、と言った理由はアガリアレプトが変な物を買ってこないように、だった。だがそれを三人は仮面男が人間ではない、と思い込んでしまった。

 そしてアガリアレプトが買い物に出かけ、虚偉が自室に籠もろうとしたのだが


「あの!」

『……なんだ?』

「私たちはどうしたら良いんですか?」

「「……」」

『……あいつが戻ってきて飯を食ってから指示する。それまではのんびりしていろ。風呂ならあるぞ』

「「「マジ!?」」」


 何だその過剰反応、と思ったが確かにグランエルとの戦闘で地や土が顔や体に付いているようだ。ふむ、


『風呂に入っている間に服を洗っておこうか?』

「「頼む」」

「……遠慮します」

「なんでだ?」

『女性の衣服を男が触れるのは確かに嫌だろうな。それはあいつに任せるとする。それと風呂は勝手に入って良い』

「あ、ありがとうございます」


 そして10分後


「シャンプーとかリンスとかどうしてあるんだ?」

「さぁ……」


 歴史の中にそういった物を創ろうとした者がいて、その製法が詳細に書かれていたことを知らない三人は驚きながら、お風呂を満喫していた。その頃、虚偉は


「日本人が好きそうな味付けは何があったか……この世界、塩胡椒って高いか?」

「そりゃもちろん高いぜ、おにーさん」

「それを俺たち食べていたんだな」


 アガリアレプトと一緒に栽培を始めている胡椒もまだまだ育つにはかかる。だから自然のを探して使っている。しかし売れば金になるのか、と思ったが


「使い道は薄いからな……」

「お金を欲しがらないなんておにーさんは枯れているねぇ」

「黙れ、使い道が無いだけだ」

「あっはっは」


 アガリアレプトは笑い……そして、顔を顰めた。


「タマネギ、斬りたくない」

「……俺も斬りたくない」

「酷ぇ!? 私に任せて自分は安全地帯かよ!?」

「ははは」


 そして15分後


「これって……」

「……」

「カレー、だね」

「「「……」」」

「いや-、そんな風に見られると照れちゃうねぇ」


 三人の疑惑の眼差しがアガリアレプトに向けられる。それにアガリアレプトは笑って誤魔化そうとするが


「リアさんって日本人ですか?」

「ニホンって東にある伝説の地かな? 誰も到達したことの無い、でも少しの人がそこから来ている地のこと?」

「え、そうなんですか?」

「うん、話には聞くけど実在していない地、ってのが一般的だね」


 召喚された人々は召喚されたという事実を隠しているのだろう。災厄が訪れるから、だろう。


『とりあえずさっさと食え。日本人の舌に合うか分からないがな』

「あ、はい」

「うん」

「……(日本人のイントネーションが普通?)」


 武人は少し疑問に思いながらカレーを一口食べる。そして


「美味い」

「どーもどーも」

『お前がしたのはタマネギを切っただけだろうが』

「泣きながら頑張ったのにそんな言い草は酷いよねぇ!?」

『黙ってお前も食え。俺は後で一人で食う』

「おんやまぁ、おにーさんは寂しいねぇ」

『黙れ。次にくだらないことを言ったら……』

「言ったら?」

『サッカーのように蹴っ飛ばす』

「怖ぇ!? サッカーが何か分かんねーけど怖ぇ!?」


 そんなやり取りを経て、三人がカレーを食べ終わるのを待っていると


「あのよ」

『……俺か?』

「ああ。もしかして日本人か?」

『……答える気は無いな』

「なんで?」

『……』


 沈黙を返すと、武人は眼を細くして


「……いや、悪いことを聞いた。気にしないでくれ」

『言われずとも……それよりも食べ終わったのなら食器は流しに運べ。洗っとくから』

「あ、悪い」


*****


「武人、さっきはどうしてあんなことを聞いたの?」

「……なんとなくなんだけど、日本人な気がしたんだ」

「俺は感じなかったけどな」


 武人は少し、ほんの僅かな違和感を抱いていた。それは


(あいつ、なんだか知っている気がする……)


 だがそれは確信が持てない。だから何も言わず、


「とりあえず真心は別の部屋で寝るんだろ? それとも俺と一緒に寝るか?」

「冗談は顔だけにしてよ」

「え」


 本気でショックを受けている隆人を眺め、武人は小さくため息を吐く。真心が好きな相手を分かっているからこそ、困っているのだ。


「……それじゃ、お休み真心。また明日」

「お休み、また明日」

「……お休み」


*****


「眠れねぇ」


 昔からそうだった。家以外の場所で寝ようとしても何故だか眠れないのだ。城でもそうだった。


(汗掻いたな……風呂はいつでも入って良いって言っていたよな?)


割り当てられた部屋を出て廊下を歩いていると


「おんや、夜更かしかい?」

「リアさん……風呂って入っても良いんですよね?」

「良いよ良いよ。着替えはあるのかい?」

「あります」

「そんじゃごゆっくり」


 そう言われ、浴場に向かうと


「あ」


 緑色のマントが脱衣所にあった。

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