悪魔になっても色々ありまして②

「ウツロイの奴だよ」

「虚偉くん!? 虚偉くんのことを知っているんですか!?」

「ん? なんだ、やっぱり嬢ちゃんはウツロイの知り合いなのか。道理で雰囲気が似ていると思ったんだよなぁ」

「教えてください! 虚偉くんは今どこに!?」

「あいつの居場所は知らねぇな……たまに報酬の高いクエストを受けるくらいしか見かけねぇな」


*****


「それじゃあしばらくはクエストを受けながら虚偉を探そう。生活費として、稼いでいたのかもしれないからそうそう長期間顔を出さないって事は無いと思う」

「だな。真心もそれで良いか?」

「……うん」


 真心がため息を吐いた瞬間、真心の隣にいきなり座って


「嬢ちゃん、どうした? 何か悩み事なら相談に乗るよ」

「さっきの……安静にしてくださいよ?」

「ああ、分かっているって。それよりも代金、支払いに来たんだよ」

「え?」


 真心が首を傾げていると、男は笑って


「あんなにあっさりと治せるんならかなりの凄腕の僧侶なんだろうな。コレじゃ足りないって言われると困るけどよ」

「え、あ、私、お金が欲しくてやったんじゃないんです」

「そうなのか……だがコレは俺の気持ちだ、嫌でも押しつけさせてもらうぜ」

「……それなら、ありがたく。でも、しばらくは稼ぐ方法が無いから「大丈夫だ。俺はコレでも決行稼げているんだぜ?」

「でも」

「分かった。嬢ちゃんがそこまで言うなら金貨一枚、貸してくれ」

「え?」


 男はにやり、と笑って


「必ず返しに来るぜ」

「え」


 男はそう言い、席を立って


「あぁ、何かクエストを受けるのならケインを誘ってやってくれよ。俺たち4人でいつも動いているんだけどよ、一人でも抜けたらダメなんだ」

「そうなの? 役割分担がしっかりしているのね」

「ああ。それじゃ、嬢ちゃん。それに男二人も」


 そう言い残して男は去って行った。


「……とりあえず、ギルドに登録しようか」

「うん……」

「そうだな……」


 なんとも言えない雰囲気の中、三人は虚偉と同じように5級から始まることとなった。そして


「ん、嬢ちゃんたちか。改めてだが、礼を言わせてもらうよ」

「いや、違う。ケイン、暇なら俺たちを手伝ってくれないか?」

「ん……良いぜ。俺一人で良いのか? お前ら、見た感じだと後衛が足りていないようだが?」

「いや、大丈夫だ。通さない」

「……お前ら、未熟だろ。人数を揃えた方が良いと思うぜ」

「「「え?」」」

「ウツロイみたいにな」


 その言葉の意味は


「ウツロイに仲間がいるんですか?」

「ん、ああ。アガ……なんとかって呼ばれていたな」

「え、二人っきりなの?」

「ああ。男と女の二人っきりさ」


 少し下卑た笑みが、浮かべられた。だがそれは一瞬で怯えに変わった。


「お、おい……そんな目で見るなよ、なぁ?」

「五月蠅い……虚偉くんがその子と仲良かったの?」

「へ?」

「男と女の関係にまで進展していたの?」

「いや……どうだったかな。あの嬢ちゃんとウツロイは仲良さそうだったが……そんな関係には見えなかったな。ウツロイにつかえているような雰囲気が合ったぜ」

「つかえている?」

「ああ、相当親しげだったけどな」


 ケインは言わなかった。アガリアレプトが追いかけるような視線でウツロイの背中を見つめていたことを。それはアガリアレプト本人ですら気付いていなかった気持ち、だからこそ他人が何かを言って良い物では無かったと思っているのだ。


「嬢ちゃんたちはウツロイとどういう関係なんだ? 言っちゃ悪いけどよ、お前らと研究者の間で接点が見えないぜ」

「え、研究者? 虚偉が?」

「なんだ、知らないのか? ウツロイが来ているマントがあるだろ? あれ、研究者として研究を認められた者に渡されるんだよ」


 そんなマント姿を見たことがない。真心と隆人はそう思ったが


「あの緑っぽい色をした奴か?」

「何だ、知っているじゃねぇか」

「いや、たまたま見かけただけだ」


 武人の言葉にケインは苦笑して、


「それじゃ、クエスト受けようぜ。実は俺たちに直接クエストが来ていてな、それに行こうと思っているんだが」

「どんなクエストなんだ?」

「山火事が起きてな……それ自体は鎮火しているんだが原因の調査だ。何か痕跡があるか調べに行く」


*****


「あ~ぁ、面倒だなぁ。俺がいるからって調査任せるとかマジありえねぇ」


 深いため息を吐きながら燃え滓しか残っていない山を歩く。だが何かがいる気配はある。それを見つけ、ぶっ殺せば良いんだ。そう思っていると


「痕跡は残っていないみたいだな」

「これだけ探しても無いって事は無いんじゃ無いの?」

「あぁ?」


 痕跡を隠そうとしているのか、そう判断し、少し早足で歩いていると


「見つけたぁ……」


 4人組、男3人に女1人か。だが、こう言った場合、女の方が首謀者のことが多い。


「殺すかぁ……ち、面倒だなぁ!」


 地面を蹴った。そのまま、腰から剣を引き抜いて


「っ、真心!」

「え?」

「ちぃっ!?」


 女を斬ろうとしたが、男が割り込みやがった。安物では無い輝きを見せる剣、だが


「使い手が伴っていねぇよ!」

「あっ!?」

「隆人!?」

「次はテメェかぁ!」


 拳を振りかぶろうと


「遅ぇんだよ!」

「っは!」

「あぁ?」


 剣が剣に受け止められた。そのまま、二度、斬り結んだが


「つぇえな……テメェ、何もんだぁ。どうして山を焼いたぁ?」

「はぁ? そりゃこっちの台詞だ!」

「あぁ?」


 どういうことだ? 剣で斬り結びながらそう思っていると


「ケイン、逃げるわよ!」

「マゴコロ!? だが、ここで犯人を捕まえれば!」

「勝ち目が無いからよ! 命の方が大事!」


 なんだ、こいつら。逃げるつもりなのか?


「逃がすわけが、ねぇだろうがぁ!」


 叫ぶと同時に魔法道具である剣が光り輝いて


「《シャープネススラッシュ》!」


 直後、燃えた山を揺るがす斬撃が放たれた。


*****


「……嘘、でしょ?」

「んぁ? 全員生きているのかよ……面倒だなぁ!」


 地面に倒れているケインの腹が蹴られた。そしてそのまま、背中を踏みつけられて


「んじゃ、殺すとするかぁ」

「待って!? なんで殺すの!?」

「あぁ? お前らが世界の秩序を乱すからだぁ。せっかくこの俺が守ったってのによぉ!」

「え? あなた、名前は?」

「あぁ? グランエルだぁ」


 それに真心は思い当たる節があった。城に滞在していた時に聞いた名前と同じ、つまり


「あなたも召喚されたの!?」

「あぁ……? んだよ、テメェらも異世界人かぁ!」


 叫び、剣が振りかぶられた。何故そうなったのか分からない真心は反応できず


「っ!?」

「――何もんだ、テメェ」

「……」


 思わず伏せていた顔を上げると、そこには緑色のマントを纏い、無地のお面を付けた人が立っていた。そして


「いやはやおにーさん、こっちの若いの三人、結構不味い感じだぜ? 連れ込んで治療しても良い感じ?」

「……(こくり)」


 無言の首肯、それに少女は頷いて


「そんじゃおにーさん、怪我する前に逃げてね」


*****


「テメェ、どこから現われやがったぁ? それにどうやって受け止めたぁ?」

「……三人はもう、いないか」

「あ?」

「だったら良い。雷は撃つ《ライトニングボルト》」

「っ!? 詠唱を短縮しただと!?」

「《ファイアー》」

「っ!?」


 詠唱が完全に消えた。グランエルがそう思った瞬間、背後から衝撃があった。そして――


「おにーさん、どうする?」

「あの三人は?」

「女の子が僧侶だったっぽくて全員無事になったよ。どうする?」

「……そうだな、ケインの様子は?」

「意識を失っているだけであの女の子が怪我とか治していたみたいだよ」


 そうか、だったら


「戦うぞ、アガリアレプト」

「おっけー、おにーさん」

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