悪魔になっても色々ありまして①
「それではマゴコロ様、タケト様、リュウト様。本当に三人だけで良いのだな?」
「はい。ご配慮、感謝します」
「気にしないで良い。ウツロイ殿との約束もあるからな」
「約束……ですか?」
「ウツロイ殿は三人が生きていけるようになるまで強くしろ、と言い残して去って行ったのだ」
王はそう言い、目を閉じた。そして
「行け」
言葉少なく、別れを告げた。
*****
「アガリアレプト、言われた通り一通りのスキルは習得したぞ。次はどうしたら良い?」
「ん、お疲れ様、おにーさん。しばらくはおにーさんの自由にしてみなよ……おにーさんの友だちとの約束を果たしてきたら?」
「約束……カッツィオか」
彼と別れて、もう2週間は超えている。そろそろ顔を出すには良い時期だろう。だが
「アガリアレプト、研究発表会がいつか、分かるか?」
「んー、ちょっち歴史を眺めてくるから待ってて。おにーさんはそこで発表できるような成果はあるの?」
む、となった。だから
「しばらく研究する。アガリアレプト、何枚かカードを頼む」
そして3時間が過ぎた。虚偉は手元のカードを眺め、小さく嘆息をした。そのままカードを構えて
「《ファイア》」
カードに書き込んだ詠唱を使い、詠唱を代理で行わせる。それを使い、高速で魔法を放てるようになった。だが
「カードの面積的には長い詠唱を書き込めないんだよな……」
そうなると結局、省略魔法の詠唱を書き込むしかないのだ。それに一枚には一つの魔法しか使えないようだから、何枚も持ち歩く必要がある。幸いなことに、一枚一枚を薄くしているから良いのだが
「そもそもカードって文化がこの世界にないのか……」
「おにーさんの出身の世界に行ってみたいぐらいだよ……どんな世界なのさ?」
「色々と面倒な世界だぞ。一人の意見は大勢の意見に潰され、ないことにされるような世界だ」
「悪魔よりも悪魔じゃねぇか!?」
「それに排気ガスで空気が汚いし海も汚い。それにビル、高層の建築物が建ち並んでそこを誰もが急いで歩いているんだ」
「魔界よりも魔界じゃねぇか!?」
魔界ってなんだよ、と思ったがここにある歴史にあるだろう。本棚の一つは《
「世界は死にながら産まれ続けるんだぜ?」
と、どや顔で言いやがった。なんだか癪だったのでアガリアレプトの両頬を引っ張った。涙ながらに文句を言うのを無視して
「とりあえずカードを作るために木の板でも使うか? それとも紙を使うか?」
「おにーさん、紙はあんまり安くないぜ?」
「……結構、この書庫にはあるみたいだが?」
「歴史は本という形を取っているだけであって、紙を使っているわけじゃないぜ」
「そうなのか」
初耳な事実に驚かされるのにももう慣れた。そんな風に虚偉は思いながら、書庫を出た。そして、森の手頃そうな木を探して
「風の刃よ、斬れ《ウィンドスラッシュ》」
一刀両断。そのまま枝を落とし、《ウィンドスラッシュ》でさらに薄く、板状にする。そしてそれを小さく、ポイントカードサイズに切り分けて
「とりあえずはこんな物か……乾燥させないと書きづらいよな」
そう思い、板に手をかざして
「炎よ、相反する物を消し飛ばせ《バニッシュ》」
《バニッシュ》は指定した属性に反する属性、今回の場合は水を消し飛ばす。陰陽道の五行相生の逆だ。
炎は水に、水は雷に、雷は地に、地は風に、風は炎に《バニッシュ》出来る。光と闇はお互いに《バニッシュ》できる。
「っ!? 一気に水分を飛ばすと割れるのか……?」
魔法の弊害か分からないが、カードが見事に割れていた。それをぼんやりと眺め、ため息を吐く。簡単だと思っていたのだが、思っていた以上に難しそうだ。
*****
「おにーさん、それ捨ててきてよ!?」
「どこにだよ!?」
「書庫の外にだよ!」
燃えている板をなんとか持ち、大書庫から出る。そしてそのまま、板を放り投げ、燃えている板が枯れ葉の上に落ちた。
「「あ」」
二人で同時に声を漏らし――炎が上がった。獣たちが悲鳴を上げながら逃げ惑うのを冷静に眺めていると
「おにーさん、これって山火事ってやつだよね?」
「ああ……そうだな」
「見なかったことにして逃げない?」
「……火を消せばなんとかなるんじゃないか?」
「無理だよ。今から消すんならかなり大規模な魔法になるし……下手すりゃこの辺りの命が全部死に絶えるよ? 私たちごと、っておまけ付きでね」
「……諦めよう」
山が赤くなっていく中、俺たちは必死で森の中を駆け抜けた。
*****
「なんだぁ? あの炎はぁ?」
山が真っ赤に燃え上がっている。それは次第に範囲が広がっているように見える。
「はぁ……やるしかねぇよなぁ……やりたくねぇなぁ……」
あの中心には、それとも少し離れている辺りには山に火を放った者がいるはずだ。それを見つけ出し、炎を消させよう。
グランエルは多少は手荒なことをすることを前提に、山へと向かって歩き出した。その足下に存在する血の池に倒れている人々の亡骸を、踏みつけながら。
*****
「おにーさん……書庫に逃げ込んだのは良いけどさ、事後確認は必須だと思うよ?」
「五月蠅い……あとちょっと待て」
あとちょっと待て、この言葉があと13回繰り返して言われることをアガリアレプトは予想しておらず、適当に返事しながらページを捲った。
*****
「真心、これからどうするつもりだ?」
「うん……とりあえずギルドに行って、登録しよう。それから虚偉くんの事について調べようと思うの」
武人は自責の念に押し潰されそうになりながら、頷く。するとギルドの方から、ざわざわ、と聞こえてきた。それに耳を澄ませていると
「なんだか森が燃えているみたいだね」
「雷でも落ちたんじゃ無いのか?」
「いや、最近は雨が降っていない……人為的なものじゃないのか?」
そんな風に予想しながらギルドの扉を開け、中に入ると
「誰か!? 誰か回復魔法を使える奴はいねぇのかよぉ!?」
「ケイン、落ち着け!」
「これが落ち着いていられるか!? 《
その叫びでギルド内が騒然となる。そして
「獣の森に入ったのかよ!?」
「入ってねぇよ! 森の外にいたんだよ!」
「森の外に《
「本当にいたんだよ!」
再び騒然となる。それに隆人が少し、顔に疑問を浮かべて
「《
「そうだろうな……俺たちで、戦えるかな?」
武人は呟いて、真心に顔を向けると
「あれ」
「いない?」
どこに、と思ったら
「癒やしよ、我が右手に宿り触れた者を癒やしたまえ《ヒールタッチ》!」
「嬢ちゃん!?」
「静かにして!」
真心は傷口に手を突っ込み、手が血に濡れるのを無視して必死な顔で、ゆっくりと手を引き抜いた。
「怪我の深層から治しました……ですがバイ菌などが入っているかもしれないので、しばらくは安静にしてください」
「お、おお……助かったぜ、嬢ちゃん。アレンは……意識を失っているみたいだけどよ、代わりに礼を言うぜ。ありがとう」
「いえ、なんとか間に合って良かったです」
真心は微笑んで言う。それにケインと呼ばれた男性はそっと相好を崩して
「嬢ちゃん、なんだか雰囲気があいつに似ているな」
「あいつ、ですか?」
一体誰のことだろう。そう思っていると、
「ウツロイの奴だよ」
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