ギルドに登録しても色々ありまして⑦
「ウツロイのおにーさん、何か分かったかい?」
「ん、ああ。道具に魔法を付与する方法が分かったな」
「そりゃ良かったよ」
アガリアレプトは書庫のどこからか引っ張り出した本を椅子に腰掛け、読んでいる。その様子はさまになっており、少しどきっとさせられた。
(俺はロリコンじゃない……いや、外見がいくら幼くても年齢100歳を超えている。立派な老婆じゃないか……それに手を出して良いわけがない)
自分に言い聞かせながら、ガイナスの歴史書を読む。しかし俺が望んでいたほどの記述はなかった。精々、何をしたか程度しか書いていなかった。だが、すでに充分すぎる情報は得ていた。
「物に魔法を宿らせる魔法……それの記述があったのは幸いだったな。むしろ、どういった基準で書いているのか謎だが」
ポケットに手を突っ込んで、何か使える物が無いかと色々と弄っていると
「……財布、か」
日本の小銭やお札は使えない、だが捨てるのは忍びないのでなんとなくとっておいた。帰るつもりは今のところ無いからこそ、不要だと思うが……意外と俺も、守銭奴のようだ。
「ポイントカードも取って置いたんだったな……ん?」
ポイントカード、それを眺めていると某カードゲームが頭に浮かんだ。魔法というカテゴリーの中で様々な種類の魔法が存在している、それを。
「……アイデアとしては、悪くないんじゃないか?」
高速魔法、それの発動条件にカードという要素を組み合わせれば、腕が封じられでもしない限り使えるだろう。だが
「元々を高速魔法化しないと意味が無さそうだ……」
そう思い、結局は高速魔法に戻ってきたのであった。
*****
戻ってきたが、アガリアレプトの提案で使えそうなスキルを全部習得することになった。だが
「《MP増加大》の習得にはMP枯渇を100回以上……? それは枯渇し続けるではないのか?」
「ううん。一旦全快しないと一回ってカウントされない」
「どうして分かるんだ?」
「アガリアレプトは全てのスキルを習得しないといけないの。すっげー面倒だった……アガリアレプトになってから3年はスキル習得に費やした」
「そうか……」
いや、俺も全てを習得する必要は無い。俺が習得するべきなのは消費を抑えるのとMPを増やす、それだけで良いんだ。
「アガリアレプト、この書庫から一旦出たい」
「んー、どぞどぞ」
「それと自由に出入りすることは出来るか?」
「ん、キスしたから出来るよ。まぁ、拒否したら入れないけどね」
悪戯っぽくアガリアレプトが笑うのでもう一度キスしてやろうか、と虚偉は思った。だが口に出さず、
「どうしたら出られるんだ?」
「ここから出たいって願えば良いよ。ま、触れている状態で書庫に入ったり出ようとすれば一緒に、って事になるからそれだけは注意してね」
「どういうことだ?」
「例えば蛇に巻き付かれている状態で書庫に逃げ込んでも蛇は巻き付いたまま。ここは安全地帯だけど危険が来ないわけじゃないんだからね」
「あぁ、分かった……とりあえず、余り遅くならない内に戻ってくる」
「行ってらっしゃーい。何しに行くの?」
「スキルを習得しに行くんだ。お前も来るか?」
*****
アガリアレプトを伴って森の中を歩く。この辺りで取れる草、薬草にはMPを回復する力があるらしい。だからそれを出来るだけ探す。アガリアレプトに教えられた捜索魔法で次々と群生しているのを見つけていると
「あ、おにーさん。持ちきれないなら一旦書庫に置いてきたら?」
「何か、収納するための魔法は存在しないのか?」
「そんな便利な魔法はまだ、存在していないなぁ。おにーさんみたいに欲しがる人は多いんだけどね、創れた者は、そんな歴史は存在していないよ」
「そうなのか……いや、創れる可能性はあるのか?」
「前代未聞、だね、挑戦した者がいないわけじゃない。でも成功した者はいない、それでもおにーさんは挑むんだね?」
アガリアレプトは確信しているように言った。そして
「良いよ。全ての歴史から何かを見つけ出す、それもおにーさんらしいよ」
「お前に俺の何が分かるんだ……?」
「分かるよ、なんとなくならね。おにーさんを見ていた時間がまだ、3かだとしても、その時間に見合った知識はあるから」
「屁理屈だな」
アガリアレプトは初めて見る笑顔で頷いて俺の頬に手を添えた。さっきぶん殴られたのもあり、一歩下がってしまう。
「おにーさん……下がられると少し、悲しいんだけど」
「悪い……でも殴られたのがある分、怖いんだよ」
「あー、でもあのままだとおにーさんが危険だったんだよ?」
「ああ、分かっている。それで俺の頬に触れて何をするつもりだったんだ?」
「秘密、お楽しみだよ?」
ふむ、アガリアレプトがそう言うのなら
「遠慮しておくよ」
「なんで!?」
「それよりも一旦書庫に行ってくる……そう言えば書庫から出ると元いた場所に出るんだな」
「そうだよ」
「そこに何か置かれていた場合、どうなるんだ?」
「出られないよ」
「え?」
「出られないよ」
マジか、と愕然となる。だがアガリアレプトはやんわりと微笑んで
「そういう時のための魔法もあるから、後で教えるね。それじゃ、行ってらっしゃい」
言われ、書庫に戻った。戻る時も出る時も、書庫に行きたいと願えば良いようだ。とりあえず、たくさん摘んだ薬草をどこに置いたものか、と周囲を見回していると
「……とりあえず、調度品が一切無いことが分かった。あいつ、椅子以外何も要らないのか?」
いくら悪魔だろうとテーブルやタンスは必要だろう、と思いながら仕方なく床に置く。一応その下には教科書を置いておく。カバンの中に入っていたが捨てるには忍びないのだ。
こう考えると俺は物を捨てるのに抵抗があるようだ。それを自覚しながら苦笑しつつ、アガリアレプトの待つ場所に戻ったが
「っ!? お前、何しているんだ!?」
「あ、おにーさん。お帰り」
「何しているんだ……本当に」
どうして熊と取っ組み合いをしているんだ、と思っているとアガリアレプトの拳が熊の腹に叩き込まれ、熊の意識を刈り取った。
「いやー、体が鈍っていたからね、ちょっと感覚を掴み直そうかなって思って」
「なんだそりゃ……ひょっとして《リザード》の群れと戦った時もそうなのか?」
「もちろん」
胸を張るな、と思いながらアガリアレプトの拳に付いている赤い液体に少し、気分が悪くなる。やはりまだ、俺はそういったことに忌避感があるようだ。だからなのか、直接殺傷能力のある魔法は余り使わないのかもしれない。
炎で焼くことは血が出ない、だから大丈夫。なんて矛盾しているのだろう。どっちにしろ、命を奪う、殺しているのだから。なんの言い訳にもならない、と思いながらアガリアレプトの手の血をハンカチで拭う。
「お? 何してんのおにーさん、布が汚れちまうよ?」
「五月蠅い。俺が見たくないからだ」
「ほー? 私が汚れているところを?」
「いや、血を」
「そこはお世辞でも私って言おうよ!? 酷ぇ!」
「そんなこと言ったら好意を持っていると勘違いされそうだからな」
「え……もしかして、おにーさんって私のこと、嫌い?」
何故かもの凄く悲しそうな表情をしている。何故か分からない、が何かを言わないといけない気がした。
「……人として、好きだよ」
「おお!? おにーさんのデレ期!?」
「はぁ? 何言っているんだ馬鹿」
「酷ぇ!?」
アガリアレプトはそう言いながら腹を抱え、笑っていた。もの凄く楽しそうに笑っていた。大きな声で笑っていた。
その結果、声が聞こえたのか熊の群れが俺たちに向かって迫ってきた。
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