ギルドに登録しても色々ありまして⑤

 《リザード》の群れの総数は10体くらいだ。虚偉はそう認識しながら


「炎の槍よ、撃て《ファイアーランス》!」

「あ、おにーさん。《リザード》系統のモンスターに炎属性は効き辛いぜ?」

「先に言えよ! 氷の飛礫よ、撃て《フリージングレイン》!」

「あ、それと氷も。動きが鈍くなるくらいだぜ?」


 その言葉で気付いた。《リザード》はトカゲ、そしてトカゲは変温動物。つまり寒くして動きを鈍らせ、殺す。それが良いと思ったが


「つまりケインのおにーさんみたいに斬ったりする方が速いわけ。ま、《リザード》の鱗って硬いから良くもまぁ一撃でって感じなんだけどさ」

「だったらお前も働け!」


 ケインが一体を斬り殺したのは良いが、残りは9体もいる。だから気は抜けない。


「氷の風よ、凍てつかせろ《フリージングブリーズ》!」

「おにーさん!? だから氷は意味が無いって!」

「ウツロイ! 嬢ちゃんの言う通りだ! 氷と炎以外を使え!」

「何を言っているんだ……もう、充分だ」

「「え?」」

「トカゲに限らず、爬虫類は基本的に変温動物だ。だからこそ寒ければ……体温が下がり、動きが鈍くなる。だからこそ」


 虚偉は目を閉じて


「アガリアレプト、全部殺せ」

「おにーさん……まぁ、確かに動きが鈍くなっているみたいだけどさ」

「ウツロイ、お前意外と詳しいな」


 ケインとアガリアレプトの手によって、残る9体の《リザード》は全滅した。そして


「売れるのは大きい背中の鱗、それと犬歯だ。それ以外は銅貨一枚の価値にもならない」

「ほーほー、ケインのおにーさんは物知りだねぇ。クエスト歴長いの?」

「ん、いや、一年にも満たないな」

「へー。ちなみにウツロイのおにーさんは?」

「初日だ。5級で受けられるクエストで一番楽そうなのがこれくらいしかなかったんだ」


 虚偉はそう言いながら周囲を見回した。《リザード》はまだまだ存在しているが、血の気の多いのはいないようだ。幸いなことに、クエストで必要な数は倒したのでクエストは達成というわけだ。


「ケイン、これからどうするんだ?」

「余分に《リザード》狩っても良いけど俺のレベルはここらじゃまったく上がらないからな……」

「そうなのか?」

「ああ。レベル78にもなれば、な」


 俺がようやく21だから高いのだろう。だがこの時点でMPが500近いのは凄いのだろうか。《ランス》系の魔法で消費するMPは20、そして《レイン》系と《ブリーズ》系で消費するMPは50とかなり多い。10回も使えば即座に俺は立っているだけの存在と成り果てる。


 そう思った瞬間、脳内に雷が響いた。


『スキル『MP増加小』を入手しました。スロットに設定しますか?』


「……アガリアレプト」

「なんだいおにーさん。こっちは革剥いでいて辛いんだぜ?」

「スキルについて説明しろ。なんだかよく分からんが入手したようだ」

「「おお!」」

「ケインも知っているのか?」

「ああ、当然だ……むしろなんでお前は知らないんだ? これぐらい常識だろう?」

「だから俺は魔法研究しかしていなかったから一切何も知らないんだ」


 箱入り息子か、とケインは呟いた。


「道理でいきなり5級になれるわけだ。貴族の息子か何かか?」

「いや……異世界から呼ばれてきた。どうもよく分からんが」

「なんだと!? だとすればお前は召喚されたのか!?」

「ん、ああ。それがどうかしたのか?」

「それは……この世界に危機が迫っているって事だろ!? 大事じゃないか!」

「そうなのか……いや、その事情は聞いたが詳しくは分からなかったんだ。教えてくれないか?」


 ケインは顔を顰め、目を閉じた。そしてゆっくりと口を開いて


「俺が幼い頃に一度、召喚された事があったらしい。それから間もなくして、空が真っ赤に染まった。そしてそこから……よく分からない、奇妙な生物が現われてきたんだ」

「奇妙……? 一体どんな生き物だったんだ?」

「いまいち言葉にし辛いんだけど……赤くて、色々な生き物が混ざっていたな。なんだったんだアレ……」


 今思っても分からない、とケインは呟いて


「当時に召喚された者は今、一人だけ生き残っているはずだ。会いに行ってみたらどうだ?」

「……そうだな、考えておこう」

「ああ、それが良いさ。確か、そいつの名前は……グランエル、だったか?」


*****


 クローバーのように存在する大陸、それは東西南北に葉が伸びている。そして俺たちが現在いる大陸は西にあるらしい。


「アガリアレプト、とりあえず大まかな地図を描いてくれ。どこに何があるかを軽く描いてもらえると助かる」

「おにーさんのためなら良いけどよ、なんのために描くのさ?」

「これからの旅のためにだ。お前も着いてくるんだ、迷子にならない方が良いだろう?」

「そりゃそうだけど……んじゃ、しばらく書庫に籠もるから」


 なんだと、と思ってアガリアレプトに振り返ったが、すでに彼女の姿はなかった。小さめの宿の部屋だから、隠れるような場所はない。


「書庫……とはなんだ? アガリアレプトの言っていたような記録の、歴史の保管庫か?」


 だとすれば、しばらく籠もるとはどういう意味なのだろう。ここではないどこかに彼女は行ってしまったのだろうか。そう思うと少し、


「静かだな」


 静かなのは良い。だが、ここ最近は騒がしいことが多かった。だから――


「寂しいな」


 そう思い、目を閉じた。


*****


「おにーさん、ぐっすりと眠っちゃっているなぁ……朝の、気にしてないのかな?」


 いたずらにしてはやり過ぎたかもしれない、アガリアレプトはそう思っていた。だがウツロイのおにーさんは怒っていなかった。いや、怒っていた。だが本心から、本気で怒っているようには見えなかった。


「……おにーさん」

「……」

「おにーさんが、託せる人だと良いなぁ」

「……」

「それまで、見極めさせて貰うね」


 アガリアレプトはそう呟いて、眠っている虚偉の膝の上で丸くなった。


*****


「……真心、どこに行く気だ?」

「どこって言われても、決めてなんかいないけど?」

「だったら考え直せよ。虚偉を探しに行くのはまだ早いって」


 早い? と、真心は繰り返すように呟いて


「本気で言っているの? だとしたら殴るわよ」

「へ?」

「虚偉くんは今危険な状態かもしれない。それなのに私一人がこんな安全な場所でのんびりなんてしていられないの!」


 俺たち二人は安全じゃないのか、と思った。まぁ、確かに色々言い寄られているんだが。

 どうやらこの世界では異世界人の子種は重要なそうだ。だからなのか、貴族の娘さん方が言い寄ってきている。


「真心……」

「隆人も武人も虚偉くんの事なんて心配していないんでしょ!? だからそんな風に思えているのよ!」


 金切り声、ヒステリック。そんな言葉が頭に浮かんだ。それと同時に武人は嫉妬した。


(羨ましいよ、虚偉。こんなに真心に愛されているなんて……)


 武人は純粋に嫉妬していた。だがそこに悪感情はない。ただただ、純粋に羨ましいと思うだけだった。そして


「虚偉なら大丈夫だ。あいつならきっと、しぶとく生きているさ」

「……」

「もう少し経ったら、三人で虚偉を探しに行こう。あいつの足跡を追って、さ」


*****


「ん……なんだ、寝ているのか?」

「……すぅ」

「……ふん」


 眠っている幼子を、外見は幼子を起こすのは忍びない。そんな風に思いながら目を閉じて


「俺は――大陸全体を回りたい。だから戻ってくるための、転移魔法を作るか見つけないとな」

「ウツロイのおにーさんはこの国に愛着でもあるの?」

「親友との約束がある、だから戻ってこれるようにしたいんだ」


 ん、そう言えば


「いつの間に起きた?」

「今さら!?」

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