ギルドに登録しても色々ありまして④

 アガリアレプトは語った。自分たち、アガリアレプトが一体どういう悪魔なのか、を。


「私たち、アガリアレプトっていう悪魔は記録を残し続ける悪魔、それが知識の悪魔って呼ばれている理由だと思う」

「記録を残し続ける?」

「死んだ者の記憶を、一生を本として残す。それをアガリアレプトの大書庫に収めるのが私たちの生涯の成すべき事」

「……そんな人生、楽しいのかよ?」

「楽しいよ。私は嫌だって思ったことはないからね」


 アガリアレプトは嘘を吐いていない。それは短い付き合いの虚偉でも分かった。だが


「ならどうして奴隷になっていたんだ? お前が飢え死にし、お前の記録を残せば良かったじゃ無いか」

「次代のアガリアレプトを見つけて大書庫を譲り渡すまで死ねないからね。中々アガリアレプトって悪魔も大変なんだよ」


*****


「さーて、お待ちかねのエッチぃたーいむ」

「お休み」

「なんとぉ!?」

「五月蠅くしたら殴る」


*****


「おはよー、ウツロイのおにーさん」

「……おはよう、アガリアレプト。なんでここにいる?」

「嫌だなぁ、ウツロイのおにーさん。昨日は一緒の部屋で寝たじゃないか」

「あぁ、“一緒の部屋“で、寝たな。どうしてお前がベッドの中に入ってきているかを聞いても良いか?」


 アガリアレプトは何故か頬を染め、恥じらうようにもじもじして


「おにーさんの体、凄かった……」

「はぁ? 俺の体に……」


 なんだこの気怠い感じは? 心なしか下半身がすーすーするような……


「おい、俺のパンツどこにやった」

「どこでしょー?」


 洒落にならない気がしてきた。よく見ればアガリアレプトの顔には白濁液が飛び散ったような痕跡がある。それはもしや――


「まさか!?」

「おにーさんの、濃いいね」

「死ね!」


 初めての殺意を込めた拳をアガリアレプトは軽々と受け止めて


「けっこー、美味だったよ」

「死んでしまえ変態」

「酷いなぁ、おにーさんは。お尻触ってむらむらしているエッチぃおにーさんじゃなかったの?」

「黙れクソ悪魔……」


*****


 朝っぱらから疲れた。そう思いながら汗を流し、部屋に戻ると


「おにーさんってば異世界人?」

「ああ。それが?」

「いやー、なんとなく面白いなーって思っててさ」

「しゃぶるほどにか?」

「しゃぶれるほどにはね」


 何言ってんだこいつ、心底虚偉はそう思いながら服を着替える。じっと見つめられているのを感じつつ、服を着替える。そこでアガリアレプトが着替えていないのに気付いた。


「お前、替えの服は無いのか?」

「ん、奴隷していたからね、持ってないよ」

「……そうか、買いに行くか?」

「良いの?」

「そのぐらいならな」


*****


「真心、真心!」

「……え、あ、なに? 呼んだ?」

「呼んでいる……大丈夫か? きついのなら無理しないで休んでいて良いぞ」


 隆人の言葉を聞きながら、武人は少し苦悩していた。


(もしかして俺の言葉で虚偉は……どこかに行ってしまったのか? だとしたら、真心が傷ついているのは俺のせいじゃないのか……?)


 武人の苦悩に気付かない二人は明るく、努めて明るく振る舞ったが……その表情から、悲しみの色が消えることはなかった。そして


「虚偉くん、どこに行っちゃったのかな……」

「知らないけど……大丈夫だって、あの虚偉だぜ?」

「そうだよ、虚偉なら大丈夫さ」


 罪悪感を感じながら武人は血を吐く思いで口にした。そして――


「虚偉の行方を知っている奴はいないのか?」

「……まだ、誰にも聞いていないよ」

「「なんで!?」」


 思わずハモった。すると真心は初めて表情を和らげて


「ちょっと……落ち着くまで時間がかかっただけ。もう大丈夫だから」

「そうか?」

「……」

「それじゃ、虚偉くんの行方を知っている人を探そう」


 そして――様々な人に話を聞いた。だが誰もが知っている、という様子を見せたのだが口を揃えて


「私の権限では話せません」


 そう言った。だからこそ、最高権力である王に話を聞こう。そう三人は決意した。そしてその晩、


「それでこのような時間に何か用か?」

「陛下、このような時間にお目通り叶い、感謝申し上げます。ところで王よ、我が友、虚偉がどこに行ったのかをご存じですか?」

「……さて。ウツロイ殿から何も伝えられておらんのか?」

「はい」

「……それはつまり、行方を知られたくないのだろう。ウツロイ殿はそういった礼儀はきちんと出来る男だ、言い残さないのには理由があるだろう」

「……」

「ウツロイ殿はまだ、この国にいるだろう。だが、決して捜索はしない」

「何故ですか!?」

「ウツロイ殿が望んで出て行ったからだ。彼が出て行ったのはこちらとしても不本意だ」


*****


 その頃、虚偉は


「《炎よ》!」


 ファイアの高速詠唱について試行錯誤しつつ、アガリアレプトに戦わせてレベルを地味に上げていた。


「おにーさん」

「なんだ?」

「もうこの辺りだとおにーさんのレベルって上がらないんじゃないの? 少し遠出しない?」

「……構わないが」

「それじゃー、ギルド行こーよ。クエスト受けて金儲け、単純でしょ?」


 何故だか分からないがアガリアレプトはノリノリだった。なんとなくそれに流され、ギルドに入ると


「よぉ、ウツロイじゃないか。調子はどうだ?」

「ケインか。意外と良い感じだ。今日からクエストを受ける形になるけどな」

「ふーん……お前、5級だったよな?」

「ああ」

「ならパーティ組むか? ちょっと仲間が体調崩して今日は一人なんだ」


 普段は何人なんだ、と言う突っ込みを放棄して少し思案していると


「ところでウツロイ、あの嬢ちゃんはお前の連れか?」

「は?」


「うっわー、たっくさんクエストあるなー。どれもこれもぶっ殺すだけのわっかりやすーい内容だな-」


「あの変な嬢ちゃんはお前の連れか?」

「……悲しい事実だがな」

「……事情があるのか?」

「ちょ、おにーさん!? そんな悲しげな表情してどうしたの!?」

「あぁ、ちょっと頭痛の原因がいてな、それが話しかけてきたんだよ」

「なんですと!? それはもしやこちらの男か良し殺そ「お前が死ね」


 蹴りを軽々と受け止め、アガリアレプトはニヤリと笑った。ムカついたので足を踏もうとしたが避けられた。そして


「へいへいおにーさん。その程度じゃ私は殴られないぜ?」

「屑が」

「お、おいウツロイ……この嬢ちゃん、何者だ?」

「こいつは俺の「私はウツロイのおにーさんの奴隷だぜ? もちろん、エッチぃこともしちゃう奴隷なんだぜ?」

「「い!?」」


 思わずケインと同時に変な声が出てしまった。そして


「おいウツロイ! こんな年端もいかない少女にそんなことをさせているのか!?」

「俺としてはこんな俺より20倍以上の年齢の奴を年端もいかない少女って言うのには無理があるって言いたい」

「ちょ、おにーさん!? 歳の話はなしだってば!」

「な?」

「……いや、何が何だか分からん」

「こいつ、こんななりをしていても人間じゃないからな、外見がコレでも俺より歳上だ」


 ケインは頷いて


「確かにそんな耳は人間には無いな」


最初に気づけよ、と思ったが虚偉も気付かなかったので何も言えなかった。


*****


「ウツロイのおにーさんにケインのおにーさんよ。どうやらこの辺りのが集まってきているみたいだぜぃ」

「そうか。だったら詠唱だけでもしておくかな」

「なんだ、やっぱり魔法使いだったのか」

「ああ。そう言うお前は剣士みたいだがな」

「ああ」


 そう言いながら虚偉は手を突き出し、ケインは背負っていた大剣を抜いて構え、アガリアレプトは徒手空拳で構えて――


 《リザード》と言う名の大型犬ほどの大きさのトカゲの群れを迎え撃った。

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